今年発足した女子野球のアマチュアクラブチーム、「埼玉西武ライオンズ・レディース」。プロ野球の球団名を冠したチームは史上初めてで、男子と同じデザインのユニフォームや帽子を着用し、メットライフドームと同じ敷地内のトレーニングセンターも使うことができるなど、その話題性から注目を集めています。
副キャプテンとして活躍を期待されるのが、六角彩子選手(28歳)。小学校から兄と一緒に野球を始め、18歳で女子野球の日本代表入り。W杯には4大会連続で出場し、大会MVPや首位打者、最優秀守備選手賞などのタイトルを獲得した、走攻守そろった内野手です。
普段は東京・六本木にあるトレーニングジム「加圧スタジオ Fusion 六本木」に勤務しパーソナルトレーナーとして指導する傍ら、ジム主催の子ども向け野球教室で普及にも努めている六角選手。
「トレーナー」と「野球選手」の二足の草鞋だからこそ得られたものとは?女子野球の普及を通して実現したい世界とは?六角選手の思いをインタビューしました。
(取材・構成=スポジョバ編集長 久下真以子)
ーー「埼玉西武ライオンズ・レディース」、今回初めて知りました。
六角:テレビのニュースでも取り上げられて、ライオンズファンの方にも認知していただけたというのは、応援してもらう意味ですごくありがたいですね。私自身ずっとライオンズファンで、松坂大輔投手が大好きだったのですごく嬉しいです。
ーーそれは嬉しいですね!これまでは別のクラブチームにいらしたと思いますが、移籍のきっかけは何だったのでしょうか。
六角:前のチームでは年次も上の方になってきて、監督・コーチ業と兼任で選手をやっていたんです。でももう一度、選手1本で頑張ってみたいという思いがあって。そんな時に「埼玉西武ライオンズ・レディース」がレベルの高い選手を集めて発足するという話を聞いて、自分から話を聞きに行きました。
ーーチームとしては、試合のほかにも活動を予定しているのでしょうか。
六角:リーグ戦やシーズン中以外では、野球教室をどんどん行っていきます。女子野球の普及が今のチームの選手全員の使命でもあると思うんですよね。シーズン中は、基本的に土日祝を中心に、練習や試合ですね。あとは平日に大学の女子野球部に混ぜてもらって、一緒に行う予定です。
ーーこれから忙しいシーズンが始まるのですね!
六角:そうですね。でも野球は私にとって形的には趣味でもあるので、確かに休みはないかもしれないですけど気持ち的にはリフレッシュできる時間でもありますし、とても楽しみです。
ーー六角さんは、普段は「加圧スタジオ Fusion 六本木」のパーソナルトレーナーとして活動されています。(トレーニングの体験記事はこちら)
六角:大学で理学療法士の資格を取得したので、身体に関する職業に関心を持っていました。まずはお客様がどうなりたいか、今どんな現状なのかを聞いてその人に合ったオーダーメイドのトレーニングを決めていきます。トレーニングに関わっていてすごいなと思うのは、体つきだけじゃなくて表情や性格まで明るくなっていくんですよ。服装まで変わっていくのを見ると「ああよかったな」と思いますし、すごく楽しい瞬間です。
ーーまた、御社では野球教室も開催しているそうですね。
六角:社長が野球が好きで、幼稚園での野球教室も行っています。小さい頃に経験したスポーツって大きくなってもやったりするので、その時期に野球を楽しんでもらいたいからです。また、私が関わることで「野球=男子」という固定概念なしに子どもに伝えることができる。「女の子が野球をやることが変じゃないんだよ」というのを感じてほしい思いがあって、小さい子をターゲットにしています。
ーー「指導」という意味では、トレーニングと野球教室で共通しているものはありますが、相手が子どもとなると違いもあるものなんでしょうか。
六角:もちろんケガをさせないことも大事なんですけど、「ダメでもいいからどんどんやってみる」というのを伝えるようにしています。子ども用の柔らかいバットを使うんですけど、ボールに当てるのではなく、思い切り振る。まずは大きく体を動かすことを意識していますね。
ーーどう伝えたら伝わるのか。それを考えるのは難しいですよね。
六角:とにかく褒めるのを大事にしています。やっぱり子どもって「成功体験がどれだけあるか」でスポーツを好きになるか嫌いになるかが決まってくる。とにかくなるべく簡単な課題から与えて、出来たらすごく褒める。次はもう一段階上の課題を与えて、出来なくてもやろうとしたことを称える。「やろうという気持ち」を育てるのが、私のテーマですね。
ーー女子野球の「選手」、そしてトレーニングや野球教室の「指導者」。どちらの立場も経験しているからこそ、それぞれに生かせていることもあるのではないでしょうか。
六角:どちらも「身体を動かす」ことなので、トレーニングの専門知識が野球にも生かせていますし、逆に野球をやっていてフィットしたトレーニングをジムのお客様に提案してみたりしています。そういう意味では、トレーナーを仕事に出来てよかったです。
ーー教える立場と教えられる立場。両方の気持ちが分かるのも大きなメリットに感じます。
六角:そうですね。選手だけだった時代は自分に集中してしっかりやっていたんですが、指導者を経験してからは周りの変化にも気づけるようになりました。プレーしていても、他の選手のことが見えています。あとは「選手側の受け取り方」の大切さも理解できるようになりました。
ーー受け取り方、ですか?
六角:野球だけじゃないですけど、何をするにしても色んな人がいて、色んな理論が開発されて、色んなことを言うんですよ。例えばバットだったら上から振れっていう人もいれば下から振れっていう人もいるし、レべルスイング(平行に振る)がいいという人もいる。さまざまな指導やアドバイスがありますけど、それを上手く受け取れない人は上達しないと気付いたんです。「それは違うでしょ」って思ったとしても、一旦引き出しの中に入れて自分に合うものを探していく。指導者を経験したことで「指導される側」のことも理解できるようになったので、それは周りの選手たちにも言うようにしています。
ーー六角さんにとって、「野球」はどんな存在なのでしょうか?
六角:「生活」ですかね。生活の一部だし、家族のような存在だし…なんだろう。切り離せない存在です。すごく好きだし、楽しいし、心揺さぶられるし、いい時も悪い時もあるし。自分にとって「全て」なんです。
ーーとことん夢中になれるものがあるのは、素敵ですね。
六角:何でもそうだと思うんですけど、真剣にやればやるほど楽しさって出てくると思うんです。野球も最初は友達とワイワイ始めましたけど、突き詰めたら色んな技術があって考えがあって、追求をしていくことで楽しくなってくる。トレーナーの仕事だって、お客様に寄り添ってコミュケーションスキルや身体の勉強をすればするほどやりがいを感じるんです。中途半端にやるのはもったいない。全力でぶつかっていくほうが、人生楽しくないですか?
ーー全力でぶつかるからこそ見られる光景がある。胸に響きました。女子野球の魅力、多くの人に伝わってほしいです。
六角:埼玉西武ライオンズ・レディースが「目指す場所」になれたらいいですね。プロ野球と同じユニフォームが着られるのは、女子にとっても憧れだと思います。女子野球が認知されれば親も子どもに勧めると思うし、さらにその子が将来親世代になったら自分の子どもにまた女子野球をやらせるのではないでしょうか。そういう意味では、世代を超えた普及も目指していきたいです。
ーーそうなると、夢も膨らみますね。
六角:NPB球団全てに女子野球チームが出来たらいいですよね。12球団対抗の大会が出来たら面白いですし、その先に「女子野球だけで稼げる」という世界まで築くことが出来たら、一番ベストじゃないかと思います。私自身もやれる限りは選手で頑張りたいし、引退後も指導や運営など何かしらの立場で女子野球に関わり続けていきたいですね。
六角彩子(ろっかく・あやこ)
茨城県出身、28歳。「埼玉西武ライオンズ・レディース」内野手。「加圧スタジオ Fusion 六本木」パーソナルトレーナー、野球教室講師。理学療法士の資格も持つ。小学校4年生から野球を始め、2010年~2016年まで日本代表として活躍。出場した女子野球W杯では全て優勝。2010年大会で首位打者・大会MVP、2012年大会で最優秀守備選手賞。松坂大輔のファン。
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