「1人の選手のことをこんなに考えるとは…」プロ野球ウグイス嬢の舞台ウラ

埼玉西武ライオンズ ウグイス嬢 鈴木あずさ

「1人の選手のことをこんなに考えるとは…」プロ野球ウグイス嬢の舞台ウラ

埼玉西武ライオンズ ウグイス嬢 鈴木あずさ

プロ野球がキャンプインし、今年も野球ファンにとって楽しみな季節がやってきました。

このうち、昨季リーグ優勝を果たした埼玉西武ライオンズでは、今季から松坂大輔投手が14年ぶりにカムバック。キャンプ地には多くのファンが詰めかけ、注目を集めています。

ライオンズといえば、選手たちに負けず劣らず人気なのが、ウグイス嬢鈴木あずささん。2004年から球場アナウンスを担当し、特に近年はメットライフドームでの杉谷拳士選手(日本ハム)に対する「杉谷いじり」で一躍有名に。そのユーモアセンスから、2018年にテレビで放映された「珍プレー好プレー大賞」ではなんと大賞に輝きました。

そんな鈴木さん、実はライオンズの社員なんです。ウグイス嬢の舞台裏ってどんなもの?自分の仕事を通じてライオンズに抱く夢は?鈴木さんの思いを、編集部が聞いてきました。

(取材・構成=スポジョバ編集長 久下真以子)


「杉谷選手のことをこんなに考えるとは…」あのアナウンスは、どうやって生まれた?


ーー「杉谷選手渾身の打球が、まれにスタンドに飛び込む場合がございます」「ただいま、内野も外野もベンチも守りますスイッチヒッターの杉谷拳士選手が、バッティング練習をおこなっております。どうぞご注目ください」。数々の痛快なアナウンスが記憶に残っていますが、どうやってセリフをいつも考えているのですか。

鈴木:文章に起こしてしまうとどうしても読んでいるようになってしまうので、なるべく台本にはしていないですね。最初のころは少し言葉を入れるだけだったのであまり準備もしていなかったんですけど、徐々に皆さんの注目度が上がっているのをひしひしと感じるようになったので、「杉谷選手はこんな選手なんだ」「今こういう成績なんだ」と調べたり、「こんなことを言ってみたいな」というのを事前にイメージすることが増えました。ただ、台本にしたくないというのを宣言しているので、なるべくそこは守りたいなあとは思っています。

ーー自チームの選手ではないのに、すごいですよね。

鈴木:こんなに選手1人のことをずっと考えるとは思っていなかったので(笑)、家族や周囲の人よりも考えている時期が結構ありました。最初のきっかけは、杉谷選手がアナウンス席にきて「杉谷選手、打撃練習終了です」って言ってくれませんか、と声をかけてくれたことだったんです。杉谷選手自身がブレイクする前からやっていたので、当時は未来のある選手を自分のアナウンスでつぶしてしまわないかとか、本当にやっていいのかなど、いろいろ気をつかいました。でも、それだけ自分にとっても大事な存在になっていますよね。

ーー鈴木さんは普段どんなスケジュールをこなしているのですか。

鈴木:試合のある日はアナウンスをしていますけど、社員なので業務の一環であり、普段はいろんな仕事をしています。私は事業部のスタジアム運営グループ、つまり興行関係や球場の環境を整えたりするような部署にいるので、部署内の事務処理や申請関係、NPB(日本野球機構)とのやり取りも担当していますね。

ーーお忙しそう…。シーズン中は体調にも気をつかいますよね。

鈴木:オフになると、「やっと風邪を引けるな」とか、辛い物を食べてお腹やのどが痛くなっても大丈夫だなという時期に入ります。シーズン中は本当に風邪を引けないですしお腹も壊せないので、特別なことをしているわけではないですけど、その辺はすごく気をつけていますね。






質のいいアウトプットのためには、たくさんのインプットを。


ーー北海道出身の鈴木さん。ウグイス嬢になったきっかけはなんだったのでしょうか?

鈴木:もともとはファイターズが北海道に来る前の札幌ドームで働いていたんです。お客様の前で施設見学ツアーのガイドを、1日に50分×4本とか。肉体労働でもありましたけど、スポーツ施設や人との関わりが基本的に好きだったんですよね。そんな中、2004年のシーズンを迎えるにあたってライオンズのアナウンス募集を見つけて、応募したのがきっかけです。

ーー2004年だと、ちょうどファイターズの札幌移転と入れ違いですね。

鈴木:そうなんですよ、よく勘違いされますけど、ファイターズでは働いていないんです。でもそれまで札幌ドームで働いていて年に数回プロ野球チームが来てくれると、その数少ない機会が宝物のような時間になっていたんですね。「プロ野球ってすごいな、本当にすごい世界なんだな」って。そうしているうちに、そこに携わっている人たちの姿を見て、「プロ野球を支える裏方の仕事もいいな」と思うようになりました。

ーー実際ライオンズに入ってみて、プロ野球の世界はいかがでしたか。

鈴木:入社したのが2004年シーズンに入る前のオフでした。当時は球場を草野球や一般にも貸し出していたので、そのアナウンスをものすごい勢いでやらせていただいて、1日に4試合とか喋っていました。草野球の交代ってものすごく多いんですよ!早速そのシーズンの5月には1軍デビューしたんですけど、草野球の経験がなければこんなに早く上達出来なかったと思います。

ーーすごい。アナウンスで、今も意識していることはありますか。

鈴木:試合前のビジター練習は、どのチームもしっかり観察してますよ。主に、背番号と名前チェックです。ビジターの選手を全部覚えるのは難しいので、今日はどの選手がいるかというのを毎回確認しています。「23番って誰だっけ?ああ、周東選手だ!」とかね。あとは、「この選手はこういうところが素敵だな」というのも見つけるようにしています。結構自分が見ている姿を逆に選手たちに見られているらしくて、少し恥ずかしいですね(笑)






固定概念にとらわれない。「好き」を磨けば、スポーツにつながる。


ーー改めて、プロ野球の世界にはいろんな仕事があって、入り口もさまざまだということを実感します。

鈴木:私はやっぱりスポーツが大前提として「好き」なんですよね。昔、野球に興味を持つのと同じくらいのタイミングでソウル五輪をテレビで見て夢中になったんです。勉強や仕事で忙しかったり疲れていてもつい見てしまう、引き込まれてしまうスポーツの魅力って何なんだろう?と思っていました。スポーツには人を元気にさせる力がありますよね。

ーー本当にそう思います。オリンピックも鈴木さんの原点だったのですね。

鈴木:競技はもちろん、施設にも目が行っていましたね。大きいものが好きなんですかね?(笑)スピードスケートのリンクでも、フィギュアスケートのアリーナでも、テレビや写真で見ていたものを実際に見たときの感動って大きいじゃないですか。ああいうのが中毒になってしまう。野球にしても、そういう部分があると思います。

ーー施設やスポーツが好きな気持ち、そしてガイドの経験。全てが今につながっていますね。

鈴木:ただ、これからスポーツ業界に携わりたいと思っている人が「スポーツをしていなければならない」「スポーツ業界の勉強をしなきゃいけない」ということはないと思っています。例えば車や語学など、一見スポーツとは関係なさそうな分野に興味があったとしても、それをどれかに絞って辞める必要はない。むしろその知識を少しずつでもいいから磨いて、いっぱい増やしていく。そうするとどこかに扉ができてスポーツにまたつながったり、やりたいことが具体的に見えてくると思うので、今は好きなものを追いかけてほしいと思います。私も大学は国文学科ですし。

ーーそうなんですか?

鈴木:はい。そこから全然違うものに興味を持って中国に留学したり、バイクに乗りたいと思って免許を取ったりしました。スポーツにこだわらずに、自分がただ1つ好きだって言えるものや、これだったら誰にも負けないみたいなものを身に着けるほうがいいんじゃないかな。






「当たり前」を大切に。鈴木さんの抱く「ウグイス嬢像」とは


ーー鈴木さんがウグイス嬢をやっていて、やりがいを感じるのはどんなときですか。

鈴木:やはり、自分がアナウンスをしていてお客様が盛り上がってくれる瞬間です。大歓声で自分の声が聞こえないようなシーンでは、本当にドキドキしますね。ライオンズの選手たちはもちろん応援していますが、近年のホームゲームでは男性DJの方とタッグを組んでいて、自分はビジターチームのアナウンスをすることが多いので、プロ野球の全ての選手をリスペクトしています。選手がケガなどから復帰したときに、自分のアナウンスでビジター席が盛り上がる。そういうのを目の当たりにすると、ジーンとするものがありますね。

ーー今後、この仕事にどのように関わっていきたいですか。

鈴木:今は新しいことを考えるよりも、ファンの皆さんの中にある「当たり前」を大事にしたいと思っています。メットライフドームに来たら私の「ご来場ありがとうございます」というアナウンスが流れて、試合も当たり前に始まって、当たり前に流れていく。急に「あれ?」という違和感があると、ファンの方が落ち着いて試合を見られなくなってしまうと思うんです。DJの方も大いに盛り上げてくれるので、私は試合をちゃんと始めて終わらせる役割に今は徹したいです。

ーーライオンズは今シーズン、リーグ3連覇がかかっています。

鈴木:優勝の瞬間も、自分の仕事に本当にやりがいを感じます。ただ、ホームでの優勝はなかなか難しくて(笑)。去年は千葉、おととしは札幌でしたので。今年の目標は、優勝の瞬間にその場所にいること。胴上げを見ること。メットライフドームに来てくださったファンの皆様と、優勝の喜びを一緒に分かち合いたいです。

ーー新しいアナウンスを新シーズンに向けて考えていますか?

鈴木:そうですね。でもちょっと…まだ言えないです(笑)






【PROFILE】

鈴木あずさ

北海道出身。埼玉西武ライオンズ社員。2004年からホームゲームでのウグイス嬢を務める。日本ハム・杉谷拳士選手への「杉谷いじり」はメットライフドームの名物になっており、「中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞2018」(フジテレビ)では珍プレー大賞を受賞した。スタジアムやアリーナなどの「大きい建物」が大好き。

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