「強化・普及・共創」を組織の役割として掲げ、スキー・スノーボードをはじめとするスノースポーツ、そして“日本の雪文化”そのものを支え続けてきた全日本スキー連盟。 2025年には創立100周年という大きな節目を迎え、日本のスノースポーツのさらなる発展に力を注いでいます。
今年は冬季オリンピックイヤーでもあり、スノースポーツへの注目が一層高まる年です。
そんなトップシーズンのさなかにお話を伺ったのは、スノースポーツの裾野を広げるために尽力されている、全日本スキー連盟事務局長の丸山周一さん。創立100周年を機に策定された新たな理念や、連盟が主催する普及活動の重要性など、スノースポーツを支える組織の役割と、そのやりがいについてお話を伺いました。
(取材・執筆:齊藤 僚子、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
「私は雪の降らない地域の出身です。子どもの頃は、冬休みや春休みになると両親に連れられてスキー場へ行き、スキーを楽しんでいました。本格的に始めたのは大学生になってからで、競技にも挑戦しました。大学卒業後は、スキースクールでインストラクターとして働きました。冬はスキー場、夏はゴルフ場で働くというスタイルで、当時は私の周りにもそうした働き方をしている人は結構いましたね。そんな中、全日本スキー連盟で人材を募集していることを知り、まずはアルバイトとして関わるようになりました。それが現在につながっています。」

スキー指導員の資格を持ち、競技経験やインストラクターとしての現場経験など、豊富なキャリアを積んできた丸山さん。連盟には複数の部門があり、大きく分けて「競技本部」「教育本部」「総務本部」があります。丸山さんは、ご自身の経験を活かし、こうしたいずれの部門においても現場と組織をつなぐ役割を担ってきました。
「入社当初は、教育本部と呼ばれる部門を担当していました。指導員の資格を取得していたこともあり、その経験を活かして一般スキーヤーの資格制度などに関する仕事の事務を担当していました。その後は競技本部も担当しましたが、どちらも10年弱ぐらいは担当していたと思います。全日本スキー連盟と聞くと、中央組織のイメージが強いと思いますが、教育本部の活動は連盟だけで完結しているわけではありません。実際には各都道府県にスキー連盟があり、その下にクラブやスキー学校といった組織が存在しています。スノースポーツを支えているのは、地域で活動している、そうした現場の力が大きいと思っています。全日本スキー連盟は、その中央の立場として、現場の方たちが活動しやすいように制度やルールを整えたり、方向性を示したりする役割を担っています。都道府県スキー連盟やクラブ、スキー学校といった地域の力があってこそ、今の全日本スキー連盟があり、スノースポーツの文化が存在しているのだと思います。」
スノースポーツの普及を考えるうえで、見逃せないのが世界で活躍する選手たちの存在です。そうした競技選手の強化を担う中で、選手が競技に集中できるよう、連盟として事務的なサポート等、細かなバックアップまでを受け持つ場面も多いと丸山さんは話します。目立つ仕事ではありませんが、選手の挑戦を支えるために欠かせない役割だと語ります。
「私たち事務局はクラブチームやプロチームなどを抱えているわけではなく、ナショナルチームが編成された期間中の事業を担当します。選手と事務局が日常的に直接関わることは多くありませんが、コーチや大会などと連携しながら、活動が滞りなく進むよう裏側から支えています。書類の管理や精算、報告書の確認、ときには『書類の提出、早くお願いしますね』といった声がけ。細かな事務的サポートはよくあります。そういった意味でも“裏方の裏方”という仕事が多いですね。コーチなども裏方の存在だと思うんですけど、そのさらに後ろで支えているのが連盟の事務局という感じでしょうかね。」

連盟が管轄する競技は多岐にわたり、競技ごとに細かな種別種目も存在します。それら数多くのチームを束ね、円滑に運営していくことの難しさについて、丸山さんは次のように語ります。
「『スキー連盟=スキー競技だけ』というイメージを持たれがちですが、スノーボードも含まれます。ご存知の通り、いま日本のスノーボードチームは世界トップレベルで、世界一とも言えるチームです。また、現在ナショナルチームは競技種別に13~14チームが編成されていまして、それらをまとめていくのは容易ではありません。運営体制もそれぞれ異なりますし、ワールドカップや世界選手権もジャンプ、ノルディックコンバインド、クロスカントリーのノルディックの大会と、アルペンの大会、フリースタイル・スノーボードも種別で開催地が違ったりします。男女別々にチームが動くケースなどもありますね。こうしたことから時間や費用もかかりますし、全体を束ねていくことは大変ではありますね。」
多くのナショナルチームを統括する運営の複雑さが伝わってきます。しかし、こうした組織の屋台骨を支える営みの先に、丸山さんがかつて現場で見てきた「あの景色」がつながっています。20年以上にわたり連盟を支えてきた丸山さんが、大変な中にも仕事に感じるやりがいについて、次のように話します。
「私は滑ることが好きだったので、スキースクールで働いたり資格も取得したりしました。そのためスキー連盟についても、まったく知らないわけではなかったので、連盟の仕事にも取り組みやすかったのかなと思います。入ってからは、雑誌や映像で見ていたデモンストレーターの方々と実際に話ができたり、制度をつくっていく組織の一員として仕事ができたりと、とても楽しく良い経験でした。また、もちろん選手たちの存在も大きいです。選手がワールドカップや世界選手権、オリンピックで活躍する年もあれば、思うような結果を残せない年もあります。そうした嬉しさも悔しさも記憶に残り、選手の一つひとつの出来事に一喜一憂しながら、近くで応援できます。

そんな選手たちがたまにハプニングを起こすこともあって……『飛行機に乗り遅れた』とか『パスポートをなくした』とか。そんな報告が連盟に届くこともあります。常に『動いている人』を支える立場なので、ハプニングが起きて、その事に時間をとられるようなことがあっても、私はこういうハプニングも『面白いな』なんて思ってしまうんですが(笑)。連盟というと事務的な作業を淡々とこなす仕事という場面も多いですが、こうした出来事も面白く感じる……と言ったら変かもしれませんが、関心を持てるのであれば、やりがいのある楽しい仕事だと思います。」
全日本スキー連盟は、今年8月から『全日本スキー・スノーボード連盟』へと名称を改め、「スノースポーツでみんなを笑顔に」というゴールを掲げています。そうしたなかで、競技者だけでなく、一般の方々に向けた普及事業には今後も力を入れていきたいと、丸山さんは語ります。
「やはり全日本スキー連盟の商品として代表的なのが、バッジテストだと思っています。5級から1級と順番に取得していける仕組みになっていて、若い世代から年配の方まで夢中になって取り組んでいる方が多いんですね。さらに、より難易度の高いプライズテストという技能検定もあり、加えて指導員資格といった資格制度もあります。こういった制度は私もいいなと思っていて、これまでも全日本スキー連盟の普及活動の中心にあった取り組みだったかなと感じています。

また、技術選(ぎじゅつせん)と呼ばれる大会もあります。一般のゲレンデを使い、とにかく『上手に滑る』ことを競うテクニカルコンテストです。歴史も非常に長く、63回続いてきました。こういった技術力に注目した文化というのは日本独自と言っても良いかもしれません。最近では韓国や中国などアジア圏でも人気が高く、受け入れられ始めていて、交流も少しずつ深まっています。こういった活動は、大切にしていきたいなと思っています。」
創立100周年という大きな節目を越え、スノースポーツの可能性を再定義しようとするその背景には、どのような想いがあるのでしょうか。新たに掲げたミッションと、これからの進む道筋について伺いました。
「私たちは連盟創立100周年を迎えた昨年10月末に、ミッション・ビジョン・バリューを新たに策定しました。また、連盟の役割という観点で見ると、『強化』『普及』『共創』という三つの柱を掲げています。まず『強化』は、世界で愛される、そして世界で戦える強い選手を育て続けること。『普及』は、スキー・スノーボードを国民的スポーツへと発展させていくことをビジョンとしています。そして『共創』は、スキー・スノーボードを持続的に楽しめる環境を整えていくことです。『共創』については、連盟が単独で何かを進めていくというよりも、企業やさまざまなパートナーと一緒に取り組んでいくことをイメージしています。
正直なところ、『共創』に関しては、これまで競技団体としてあまり取り組んだことがない領域でした。現在スポンサー企業様とのアクティベーションなどは少しずつ始めていますが、『持続的にどう進めていくのか』というところはこれからの課題となってくると思います。例えば、自動車メーカー様のように、4WD車で雪道を力強く走るイメージは、スノースポーツとの親和性が非常に高いと考えていますし、共感していただいていると思っています。一方で、露出の多さだけを目的にご協力いただくのはなかなか難しい時代です。スノースポーツ業界と『一緒に取り組みたい』と思ってもらうためには、競技の枠を超えた価値をこちらから提案していく必要があると感じていますね。」

丸山さんの視線は、世界一を目指す選手たちへの支援だけでなく、スノースポーツの存続そのものへと向けられています。トップレベルの競技運営から、日々の細かな仕事の対応まで、わたしたちが見てきた表舞台の裏側が垣間見られたように感じます。
最後に丸山さんにこれからの100年を見据えた課題や、連盟の展望についてお伺いしました。
「やはり、将来的に雪が降らなくなるかもしれないという温暖化の問題は、今後100年というスパンで考えると大きな不安要素です。それから、競技団体というのは数多く存在しますが、その中で団体に求められる役割も、以前とは変わってきていると感じています。昔は、競技で良い成績を残し、強い選手を輩出し続けることができていれば十分だったのかもしれません。しかし今後は、競技団体として“プラスアルファ”の価値を生み出していかなければならないと感じています。 それが普及活動の推進なのか、あるいは企業との『共創』の取り組みなのか。その部分については連盟内でも形になり始めた段階であり、どう進めていくべきかを模索している最中ですね。
連盟の事務局の仕事内容も時代によって変わっていくと思います。理事は5期10年で交代しなければならないので、知識と経験を事務局に蓄積していくと同時に、同じ仕事を毎年繰り返すのではなく、様々なことにチャレンジして仕事の幅を広げていかないといけないと考えています。国内事業、海外事業など様々な事業がありますので、イレギュラーなことやハプニングもあり、思うように行かないことも沢山ありますが、それも含めて楽しめる方、そしてスキー・スノーボードが大好きな方と一緒に働きたいです。」
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【PROFILE】
丸山 周一(まるやま しゅういち)
全日本スキー連盟事務局長。シーズン中はマイペースにスキーを楽しみながら、最近は迎えたばかりの1歳になる愛犬との時間に癒やされている。スキーに通じるスピード感を好み、休日には愛犬を連れてドライブに出かけるのも楽しみのひとつ。