有数のスノーリゾートとして国内のみならず世界から注目されるニセコ。ウィンタースポーツを楽しむ人なら、一度は訪れてみたいと憧れを抱く人も多いはず。
「ニセコエリアの全てをあなたに。」そんな思いでウィンタースポーツの聖地から質の高いスノースクールとともに、ニセコでのステイに心が高鳴るようなおもてなしを提供しているのはFAR EAST COMPANY(ファー イースト カンパニー)。日本のスノー産業の発展とスキー・スノーボードインストラクター業界への貢献を掲げ、2015年の冬に誕生しました。
今回はそこで代表を務め、自身の国内外での豊富なスキーインストラクターの経験から、既存にとらわれない新しいスノースクールを展開している井上雄介さんにお話を伺いました。
(取材・執筆:斎藤 僚子、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
幼少期からスキーを始め、現在スキーインストラクター及びインストラクタートレーナーとして国内外を忙しく行き来されている井上さん。10代でカナダへ渡り、その後もスノー産業が盛んな世界の国々を巡る中で、スキーインストラクターとしてのキャリアをスタートさせます。
「僕がスキーを始めたきっかけは、両親がスキーブーム世代だったということと、ペンションを経営していた両親の友人によく預けられていたことですかね。そこで小学校6年間の冬休みと春休みにはスキーをして、夏休みには釣りやキャンプなんかをして過ごしていました。中学生になってからはバスケットボールに夢中だったので、スキーはそれほどしていなかったですね。
改めてスキーを再開したのは19歳のときで、ワーキングホリデーでカナダに行ったことがきっかけです。滞在していたバンクーバーは、近場のスキー場へのアクセスもよく、人口も多いところだったので、都会にいながらアウトドアアクティビティをするのには最適な場所でした。仕事の後にはよくスキーに行っていたのでインストラクターの資格も取得しましたが、この頃はまだスキーを仕事にするという感覚はなかったと思います。
その後、スイス、イタリアとヨーロッパに拠点を移し、アルプスのスキー場で7年間働きました。冬はスノーリゾートでインストラクター、夏はさらに様々な国に渡って飲食店やビーチリゾートなどで料理人をして生計を立てていました。」
年間を通して海外で非常にフレキシブルに働いてきた井上さん。その柔軟性と行動力には目を見張ります。このような豊かな経験を経て2015年、井上さんはニセコで最初のシーズンを過ごすことに。また、FAR EAST COMPANYを立ち上げた年でもありました。なんとも濃い海外生活の後にニセコに辿り着いたきっかけを次のように話します。
「ニセコは人に呼ばれたから行った、という感じでした。スイス、イタリアにいた頃の同僚に日本人がいたんです。その人は日本に戻ってニセコで仕事をしていたのですが、ある日『日本語と英語を話せるインストラクターがものすごく重宝されるから、ニセコに来た方がいいよ』と連絡をもらいました。当時、僕自身、次のステップに進みたいという気持ちがあって、環境を変えることで何か見えるものも変わるかもしれないと思い、まずはワンシーズンという気持ちでニセコで働いてみたんです。それでいい場所だなと感じました。」
最初のシーズンを過ごした2015年は、対応したお客さんの100%が外国の方だったといいます。このことから見ても井上さんのような人材は貴重。また、ニセコの客層をみた井上さんは、自身が海外で経験してきたスキーレッスンのサービスがこの地に適するではないかと思ったそうです。
「典型的なスキースクールというと、スキーだけを決められた時間内に教えてレッスンが終わったらそれまで、という関係が多いかなと思うのですが、海外だとスキーを教える事以外の要望にも応えていくことが多いです。というより、自然にそういう関係になるという感じですね。
例えば、まず一日レッスンをしながら長い時間を過ごすなかで仲良くなってくると、『この辺で一番美味しいレストランはどこ?』『ここでの滞在は、他にどんなことをしたら楽しめる?』といった質問が自然に出てくるようになるんですよね。インストラクターは現地に住んでいる人のためその土地に詳しいですから、会話だけで終わらせずに実際にそこへ案内できます。こうしてスキーを教える以外の要望に応えられるようになると、インストラクター個人にお客さんがついてどんどん人気になっていきます。
ニセコのほぼ100%外国人という客層を見たときに、このようなサービスが合うのではないか、さらにこういったアテンドができるインストラクターは日本でも将来性が高いのではないかと思いました。」
こうしてコンシェルジュのようにお客様の滞在をプロデュースできるインストラクターを育てている新しい形のスノースクール事業を立ち上げた井上さん。業務をする中で特に大事にしていることは、お客様の「好み」を理解した上で、自分のできることを提案していくことだといいます。
「お客様の要望に応えて満足してもらうには、まずは仲良くなることが前提です。この滞在でお客様のやりたいことや好みを理解した上で、自分に何ができるか考える。特別大きな提案は必要なくて、滞在の中に小さなサプライズを用意していきます。
例えば、朝食のときにお客さんの気に入った食べものを見つけたら頭に入れておいて『あの料理も好きそうだな』と考えておく。そして昼食のときにそのお客様の好みのものが食べられそうなレストランに連れて行くんです。お客さんは『え!これ好きだし嬉しい!美味しい!』となりますよね。こうしたお客様が想像していなかった小さな驚きを、滞在の中でたくさん積み重ねていくことで、とてもいいステイだったなと感じてもらえると思います。だからこそそれが実際にできて『最高だったよ!』と声をかけてもらったときに一番やりがいを感じますね。」
気軽に言われたことを逃さず拾い上げていくようにしているという井上さん。丁寧な接客とホスピタリティの高さがお客様との信頼関係に繋がっています。また、ニセコでインストラクターをする中で出会う顧客の中には海外からの富裕層も多く、異なる価値観に触れ、そういった人たちから学ぶことも多いと語ります。
「1日インストラクターにレッスンをお願いするお客さんというのは、それなりに裕福な方が多いです。大きな会社の社長さんに出会えることもあるのですが、そういう人たちとレッスン期間中には毎日6、7時間一緒に過ごすことになるため、貴重な経験にもなりますね。講演料を払ったらすごい金額になるんじゃないか?!と思うようなお話も、スキーをしながら伺えます。
また、2015年から5年間、毎年来てくれていたご家族がいました。僕がニセコで仕事を始めたときの最初のお客様なのですが、一緒の時間を過ごす中で信頼関係を築きプライベートでも会えるほど親しくなりました。実はその双子の二人とは去年アメリカで一緒にスキーをしました。出会ってから10年も経ちますから、もうそれは大きくなっていましたね(笑)でもそういった成長がみられたのも嬉しかったです。
この仕事をしていると、そういう方に信頼してもらえるチャンスがあり、それはものすごく貴重なことだと思います。スキーをやっていなければ出会えなかったですし、お客様とこういう関係を築ける仕事に就けたことは本当に良かったです。」
井上さんの事業の中には、将来のインストラクターを育成するプログラムも用意されています。現在、日本のウィンタースポーツ人口は減少傾向にあり、この状況をなんとか変えたいと思っている井上さん。このプログラムの提案は、将来もスノー産業が発展し残っていくために、スキルのあるインストラクターが必要だと考えているからだそうです。
「僕は、初めてウィンタースポーツに触れた人が二回目以降も継続して触れる確率がすごく低いというところに問題を感じていまして。なぜ少ないのかと考えたときに、スキルのあるインストラクターが少ないことが理由の一つではないかと思ったんですね。インストラクター数自体、日本に少ない理由には、お給料の面など色々と要因があるようにも思うのですが、そもそも我々のような『おもてなし』もできるインストラクターが少ないと考えています。なので、プロとして生計を立てられる『一流』のインストラクターになるためのカリキュラムを用意しました。また、おもてなしもできるインストラクターがいたとしても、お客様と直接つながる場所というものが今までないように感じていたので、そのためのスタート地点を作りたかったという思いもあります。
ただウィンタースポーツを教えるだけではなく、スキー・スノーボードを通してその土地の総合的な魅力をも伝えていく人、見出してくれる人=僕らのようなインストラクターが今後は重要になってくるのではないかと思っています。それが伝わって『おかげさまですっかりスキーにハマっちゃいました』という人が増えてくれたらいいなと思いますね。」
将来的には、ニセコ以外でもこのビジネスモデルが活かせる場所を作りたいと考えている井上さん。それによってウィンタースポーツが盛り上がり、自分たちの事業やビジョンに共感してもらえる人材が欲しいと語ります。
「今後はこういった僕たちのビジネスモデルを、他のスキー場や地域に提供したり、経営コンサルティングのような事業をしたりすることも考えています。また、スノー産業で活用できるソフトウェアの構築など、インフラ整備もしていけたらいいなと思っています。
また、最近のニセコでは、日本に住む外国人インストラクターが外国人観光客のガイドを受けるという流れも多くなってきている現状があります。それには、受け入れる日本人が、外国人観光客の求めているものを理解して、適切なサービスを提供できていないという点があると思っています。だからこそ、外国での経験がある自分が、それを活かさないのはよくないと思っていまして。もっと日本にやってくる外国人を受け入れられる日本人を増やしていきたいという思いがあります。」
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【PROFILE】
井上 雄介(いのうえ ゆうすけ)
合同会社FAR EAST COMPANYの代表社員。日本人として初めてニュージーランドのナショナルデモに選ばれた。2019年にはインタースキーのニュージーランド代表メンバーにも選出された経歴をもつ。
設立年月 | 2018年01月 | |
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代表者 | 井上雄介 | |
従業員数 | 18名 | |
業務内容 | スノースポーツスクール運営 |
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