「生きる力を自然から。」という企業コンセプトを掲げ、合宿施設の運営やアウトドア事業を展開する株式会社R.project(アールプロジェクト)。同社は、スポーツ合宿などを受け入れるための宿泊施設の運営をベースに、その地域の環境を活かした自然体験ができる場を提供しています。このような事業を通してスポーツを支援する体制とは。また、これまでの歩みやリブランディングを経て進化を続けるR.projectの今後のビジョンとは。代表の丹埜 倫さんにじっくりとお話をうかがいました。
(取材・執筆:斎藤 僚子、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
「生きる力を、自然から。」という企業理念を掲げるR.projectは、「自然の魅力をより身近に感じてもらいたい」とアウトドア事業に積極的に参入しています。
「私自身、アウトドアは、家族と登山をしたり、自転車でツーリングをしたり、ボートも好きで、大きなゴムボートでラフティングをやったりしていました。 起業した当初は、事業にアウトドアの要素はありませんでした。 当時、私にとってのキャンプというのは、父親に連れられて登山道の横や川っぺりにテントを張るような野営みたいなものでしたから、キャンプがビジネスになるとは思っておりませんでした。 こんなことを言ったら怒られてしまうかもしれませんが、そもそもキャンプ場のサイトでお金をもらっていいのという感覚でした。 ですが、自分もアウトドアは好きでしたし、2014年頃からキャンプに対する需要の高まりを実感したこともあって 、合宿所とキャンプ場がセットになった施設を運営し始めました。 」
2014年に旧千葉市ユースホステルの施設をリニューアルし、合宿所、キャンプ場、多目的広場の複合施設『昭和の森フォレストビレッジ』をオープンし、アウトドアを一つのコンセプトにした事業展開を始めました。
「例えば、スポーツ合宿でやって来たチームが、いつもと異なる練習や過ごし方をしながら同じ釜の飯を食べる。非日常の体験をしに来られるわけですよね。そのような体験は、いつもより視野や思考を広げられるきっかけになると思います。さらに普段と違う場所ということだけでなく、自然の中に滞在することで得られる経験や考え方にこそ、とても価値があると思うのです。アウトドアを一つのコンセプトにした事業展開をした理由はここにあります。」
R.projectでアウトドア事業をスタートさせたことは、ご自身の育った環境が大きく影響していると語ります。
「子どもの頃は東京の新宿に住んでいました。私の父はオーストラリア人で自然が好きだったので、週末になると自然を求めて 千葉のいすみ市で過ごしていました。いすみ市は千葉の外房のサーフィンが有名なところで、オーストラリアでいえばゴールドコーストのような場所です。 父はそこに土地を見つけて開拓し、 小屋を建てたり、朝から晩まで畑をいじったりしていました。 子どもながらに『どうして都心に家があるのにこんなことをやっているのだろう?』と首を傾げていましたね(笑)。週末は必ずいすみに行く というスタイルだったので第二の家という感じでした。
父からは“自然から学べ“といった教えがあったわけでもなかったので、当時、自然から何かを得ているという意識は全くなかったですね。むしろ最近までなかったですね。このような事業を始めたのも、アウトドアのただ楽しいだけじゃない価値などを考えるようになったのも、小さい時の影響がきっとあったのだろうなと思いますね。」
今でこそ働き方の多様化などにより二拠点生活をおくる人は増えたものの、貴重な経験をした幼少期。そして、丹埜さんにとって二つ目のキーワードとなるのがスポーツ。学生時代からはとにかくスポーツに打ち込んだと言います。
「学生時代は高校で陸上部に入って一生懸命やっていたのですが 、高校生活にあまり目的をみつけられずに中退しました。その頃に始めたのがトライアスロンとスカッシュでした。もともと ツーリング もしていたので、自転車と走るのは得意だし、泳ぎもなんとか…というところもあって、トライアスロンを始めました。ちょうどその頃トライアスロンがシドニーオリンピックの競技種目となり、オリンピックを目指して本気で取り組んでいましたね。スカッシュは、フィジカルな面での強化と、オールシーズンできる競技なので、トライアスロンのトレーニングになるのではないかなと思って始めました。のちに入学した大学はどちらのスポーツも強かったので、両方のサークルに所属していました。大学時代は本当に“スポーツしかやってない”というような4年間を過ごしましたね(笑)。」
社会人になってからもスカッシュを続け、日本代表選手にも選出されます。企業に勤めながら選手として活躍する傍ら、スカッシュを広めるための活動などもされていました。
「結果的には社会人になってからもずっとスカッシュを続けて、協会の取り組みに協力したり企業を通して学生連盟を応援したりなど、そういう活動もしていました。スカッシュは専用のコートが必要だったりするので、プレーできる場所も少なくて勝手に広まりにくいスポーツなのです。そして選手としてピークを迎えた20代後半ごろに、スカッシュに限らずスポーツの普及につながるような仕事をしたいと思いました。それも起業の理由に繋がっていますね。」
そもそも株式会社R.project は2006年に設立し、翌年最初の合宿施設の運営を開始します。合宿事業を通してスポーツをする人を広く支えていますが、R.project立ち上げの理由や経緯にはどのようなものがあったのでしょうか。
「R.projectを立ち上げた理由は大きく分けて二つあります。まず私自身、スポーツをずっとやってきたので、スポーツに関わる事業をしたいという思いがありました。もう一つは、もともと地方の不動産に興味があって、それを活用した事業ができないかと考えていました。サラリーマン時代に、週末を使って物件探しをしていたんですね。地方にある施設を使って、スポーツに関わる事業ができないかなと考えていました。千葉の物件を探していたときに、中学生のころに通った保田臨海学校を思い出したのです。『確かこの辺だったんじゃないかな』と実際に行ってみると施設はもう閉鎖していたのですが、『ここ、いいじゃん!』と。地方の遊休施設とスポーツを掛け合わせて合宿所を作るのはどうだろうと思い、翌日、役所に電話してみたのです。すると、壊して更地にしてしまう予定だということを聞いて、それなら譲ってくれないかと。」
保田臨海学校は千代田区が管理していた施設で、かつては小中学生の校外学習の宿泊施設として使われていましたが、閉鎖後は遊休状態にありました。丹埜さんは譲り受ける交渉をするために会社を立ち上げ、スポーツ環境を充実させた合宿施設『サンセットブリーズ 保田』としてリニューアルし、2007年に合宿事業をスタートさせます。
「合宿の場合は教育目的で来る方がほとんどですね。集団行動を通じてチームワークを感じたり、指導者とチームメンバーの関係性の強化だったり、みなさん様々な目的を持って来られます。我々は合宿所として楽しんでもらいながら、普段と違う環境の中に身を置くことで何かしらの学びや、新しい見方、考え方などを見つけてもらえたらいいなという思いでおります。」
スポーツ合宿とアウトドアの根本的な魅力の共通点について掘り下げていくと…
「アウトドアって“予定調和”の真逆ですよね。キャンプのように、ある程度リスクの低いアクティビティだとしても何が起こるかわからない。キャンプサイトとして区切られているところでも、どういう風にテントを張って、どこに車をおいて…と家づくりから始まります。まずそれがとてもクリエイティブなことですよね。焚き火にしても、うまくいくときもあればいかないときもあるし、それで料理をしようものなら焦がしてしまったり、雨が降ってきたらどうしよう…だったりとか。こういった小さな変化や失敗のシーンがアウトドアにはたくさんあると思うのですが、じゃあ次はこんな風にやってみようとか、その失敗すら楽しんでしまおうとか、能動的で自由な発想ができることがアウトドアの大きな力だと思っています。
合宿においてもそういう要素はあって、自然の中でチームと色々な活動をしたり、異なる練習環境で違うプレーを試してみたり、あるいは仲間といつもよりも強い絆ができたり、そういった点もクリエイティブなところで、アウトドアと共通していると思います。
また、“自立”や“自走”といった要素も重要だと思います。子どもで例をあげれば、勇気を出して合宿に来て、親に頼らず自分で支度をして、食事の準備を手伝ったり布団を敷いたり。まさに自立ですよね。自立も一つのクリエイティブだと思うのです。“楽しみながら自分たちで考えて自分たちで小さな判断を繰り返す癖がつく”ということがアウトドアと合宿の面白いところだと思います。」
遊休施設を再活用し事業を広げていく中で「地方地域の活性化」や「社会課題への取り組み」という観点で外部から取り上げられ、また同様の観点で発信もしてきたR.project。今年、会社をリブランディングし、いまいちど利用者の目線に立ち直してみたと言います。
「私たちの会社が、社会からどんな風に見られているのかというところを考えたときに、今までは“地方地域の活性化”に取り組むという視点が注目されるのではないかと思ったのですね。社会的な課題に取り組むということを前面に出した方が我々の会社の存在意義があるのではないかと思ったのです。しかし“遊休施設の活用”は、我々の顧客の話ではなくて施設や地域の話なのです。本来は、我々のサービスを受けてくれる人たちが主役であるべきだと思うのですが、今まではどちらかというと施設側や地域側に視点がいっていました。地元施設を活用させていただいているので、もちろんどちらも大事なのですが、やはり利用者側を向くべきだと。
そして、我々が提供しているものは何かと言ったら、これまで話してきたようなクリエイティビティや、価値のある経験だと思うのです。我々はこういった誇れるものをお客様に提供していると思っているので、この部分をこれからは表に出していこうというのが今回のリブランディングの一番のポイントです。」
クリエイティビティに着目された理由には父親がオーストラリア人であるからこその視点があり、俯瞰してみえることがありました。
「 [アウトドアアクティビティをする人]×[一人当たりの回数]が日本人はどちらも少ない一方で、どちらも多い国もある。 というか、その線引きが曖昧なくらい日常に溶け込んでいる国があります。広い庭があって、週末の昼にはバーベキューをするように。自然の力だけじゃないとは思いますけど、その方がやっぱり予定不調和に対する免疫があるんだと思います。テクノロジーが進化する時代になっていくからこそ、これからもっと大事になってくると考えていますし、クリエイティビティを養えるようになると考えています。
キャンプとかバーベキューを提供するようになって、少し俯瞰してみた時に、『私たちが提供している価値はどういう価値なんだろう』と。そう思った時に合宿事業も含めて、失敗を恐れない考え方とか、自分から動く・考えるということを身につけることがすごく大事だ、と。“生きる力を自然から”っていうのは、生きる力を自然から利用者の皆さんに感じてほしいっていうお客様に向けた言葉なんですね。」
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【PROFILE】
丹埜 倫(たんの ろん)
株式会社R.project代表取締役。学生時代をスポーツに捧げ、社会人として仕事をする傍ら、スカッシュの日本代表として世界選手権に出場。もともと興味のあったスポーツと不動産事業を活用し、R.projectを設立。利用するお客様に価値ある経験を提供したいと考えている。
設立年月 | 2006年11月 | |
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代表者 | 丹埜 倫 | |
従業員数 | 300名(アルバイトスタッフ含む) | |
業務内容 | ・宿泊施設及びスポーツ施設の運営事業
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