日本ラグビー最高峰のコンペティション、ジャパンラグビー リーグワン。2003年から18季続いたトップリーグに代わり、2022年1月にスタートして5季目を迎えます。2024-25シーズンは総入場者数118万7470人(D1~D3まで計223試合開催)と過去最多を更新。南アフリカやニュージーランドなど強豪国の代表経験選手がこぞって参戦するなど、その急成長ぶりは世界からも注目を集めています。今回、スポジョバ編集部はリーグワンのオフィスを訪問し、滅多に表舞台には出てこないスタッフへの取材に成功。2回に分けてお届けする前編では、リーグワンを運営しているスタッフがラグビーの仕事を始めるまでと、現在のリーグワンでの仕事について。そしてラグビーを仕事にしたいと考えている皆さんへのメッセージをご紹介します!
(取材・執筆:池田 翔太郎、編集:伊藤 知裕)

インタビューにご協力頂いた皆さん。
(左から)経営本部長の金田明憲さん、ラグビー本部 大会企画運営部の高馬新さん、リーグプロモーション部の重松知新さん、コミュニケーション部/ラグビー本部の佐藤和佳子さん
リーグワンの“中の人”たちは、どうやってここに辿り着いたのか。共通していたのは、それぞれが培ってきた経験を携えて、リーグワンに転職してきたという事です。そして、決してラグビー一筋の人生を歩んではいないという点。今回、インタビューにご参加いただいた皆さんに、それぞれの歩みを振り返ってもらいました。
金田 前職はコンサルティング業界におりました。その会社の中で、スポーツビジネスを専門に様々なクライアントのご支援をさせていただいて、トップリーグ時代の2018年頃からラグビーへのサポートの機会をいただきました。その後、ラグビー協会の中でスタートした、新リーグの検討・立ち上げにも参画をさせていただいて、そこから業務委託、出向、最終的には転籍をしてリーグワンの職員になりました。ラグビーは(出身が)花園に出ていた高校だったので、友人が出場していたのを応援したのがきっかけで関心を持ち、大学からプレーすることになりました。
佐藤 私は様々な職を経験してきました。新卒で大手の損害保険会社に入りまして、その後インテリアコーディネーターの仕事を。ラグビーは2015年のW杯「ブライトンの奇跡」(※1)を見てハマってしまいました。スポーツ業界には興味があって、ラグビーってまだ完成された業界ではないのではないかという印象がありました。だから、もしかして私も働けるチャンスがあるんじゃないかなと。そこからスポーツマネジメントを学びにオーストラリアの大学院に留学してから、サンウルブズ(※2)に加入する機会に恵まれました。その後は外国人のラグビー選手やコーチのエージェントを担当しました。ニュージーランドの会社で、日本で活動するクライアントのサポートをしていました。エージェントのお仕事は、競技外の身の回りや生活のサポートがメインになっていて…。私はラグビーの仕事がしたかったので、ちょっとそこから離れてしまっていると感じていて。知り合いからリーグワンのお仕事を紹介してもらったことをきっかけに、リーグワンに就職することとなりました。

重松 私は新卒で総合電機メーカーの販売会社に入社をして、そこからBリーグのクラブに転職をしました。元々スポーツ業界で働きたいというのが夢でした。野球を経験していたので、プロ野球チームを探していたのですが、当時のキャリアアドバイザーの助言もあって、よりオープンな形だったBリーグに挑戦することにしました。前職の時にクラブ運営であったり、スポーツビジネスを体験した中で、より大きな領域で挑戦してみたいなと思うようになりました。「リーグ運営に関わりたい」と探していた時にリーグワンで募集があって、入社した経緯です。これから2シーズン目を迎えます。
高馬 私自身、競技としてのラグビー経験はなく、小学校で始めたサッカーを大学まで部活動でやっていました。大学進学時は体育教師になるつもりで入学したのですが、様々な人とのつながりの中でスポーツ業界に憧れが出てきました。大学院まで進んで、Jリーグクラブで働けるチャンスをいただいて、8年半勤めました。主に運営担当として試合運営を担当をしていましたが、自分の中で幅を広げる意味でも競技を移してチャレンジしてみようと。相談していく中で、リーグワンに移るチャンスをいただきました。ラグビーはラグビーワールドカップ(=RWC)2019 日本大会が考えるきっかけになりました。
リーグワンで働くスタッフの中で、ラグビー経験者は3分の1ほど。経験してきた競技も去ることながら、多様な経歴を持つスタッフが「One Team」となって業務に取り組んでいるのが強みです。大きく分けて3つの部門に分かれているリーグワンの組織。商業的な役割を担うコマーシャル本部、シーズン通じた大会運営や試合の運営、そして競技性を高めていく役割のラグビー本部。そしてリーグの方針・目標の立案や、それらの推進を通じて、法人経営の基盤を支える経営本部。4名は一体どんな役割を担っているのか、それぞれ説明してもらいました。
重松 私はリーグプロモーション部という部署に所属しています。大きく2つの業務があって、1点目は名前の通りプロモーションがメインの業務。ラグビー界の共通IDとして保持しているJAPAN RUGBY ID会員に対してのメールマガジンの配信であったり、オウンドメディアを使ったCRM活動というのがあります。まずはリーグワンの認知拡大と、さらにはリーグワンをより楽しんでいただける環境をお客様にご案内していくプロモーション業務があります。
2点目は各チーム様がご利用いただいているファンクラブ機能や、チケット機能のシステム周りをベンダー側とのやり取りを続けながら、チームのサポート業務を主に行なっています。私は前職では、チケット業務をメインに行い、ファンクラブの業務も一部サポートをしていました。そこから運営のシステム周りだったり、大会規約だったりに関わっていきたいとリーグワンを目指したところです。
高馬 ラグビー本部の中に競技運営と大会運営の2つの部署がありまして、私は大会運営の方に所属しています。競技運営は試合のカレンダー決めから始まって、レフリーやメディカル、マッチコミッショナーなど、試合運営そのものにかかわる領域を受け持っています。競技運営は、競技そのものを公平かつ円滑に実施することを専門的に担う領域に対して、大会運営は競技のみならず、広報・中継・チケット等、領域を横断した包括的なマネジメントが求められている部門です。昨シーズンは、予定されていた223試合全てが成立しました。これらの試合を成立させ、「安心・安全」なスタジアム運営が実現できるよう、クラブの運営担当と日々コミュニケーションをとっています。競技面だけじゃなく、広報も試合中継もチケットも全て俯瞰的に見て対応する、つまり「横串を刺す」ことが私の役割のひとつだと考えます。ラグビーは、サッカーと比べると非常に競技が複雑化されている印象です。また、選手の危険度の観点においては、ラグビーはより高度な安全確保が必要となります。同じ競技運営領域でも、ラグビーはサッカーと比較して非常に高い専門性が求められるため、Jリーグクラブでいう運営担当は大会運営と競技運営の二つの要素が内包されていますが、ラグビーはそうではない、というのが個人的な考えです。

金田 高馬さんの仕事ぶりは「度胸と丁寧さ」がキーワードです。以前、クロスボーダーラグビー(※3)を実施したのですが、開催そのものが初めてのことなので、動きながら決めていくことも多かったのです。その中で、特に大会運営に関しては、現場で調整しなければならないことも多々あったのですが、高馬さんは自分がベニューマネージャーとなった会場へ頻繁に足を運び、密にコミュニケーションをとるなどして、深くコミットしていました。コミュニケーションラインを作るところから関係を構築して、チームや会場担当者の信頼を得ていた。度胸を持って相手の懐に入って、丁寧に対応するから、結果として大きな信頼を得られたのでしょうね。
佐藤 私は2つの部署に所属していまして。1つは毎年やっている選手登録の規約の整備です。地道な仕事ではありますが、(国際競技連盟の)ワールドラグビーが決めた変更点を落とし込んで整備しています。規約はいわばリーグの法律ですが、弁護士とやりとりをしたり各チームとの間に入って調整をしたりしています。もう1つは国際広報で、リーグワンの認知度を上げるため、海外に向けて発信しています。価値を伝えて最終的な集客に繋げることを役割としています。海外メディアに取材機会を提供したり、ネイティブの方に委託しているSNSの発信を広報の観点でモニターしたり、試合会場やイベント等で撮影した海外選手のインタビューやコメント動画を翻訳して発信したりしています。
金田 私は一般的な企業で言うとコーポレート機能の部分で、経営企画という役割を主に担っています。リーグとしてシーズンの期間をどうすべきかや、ディビジョンごとのチーム数はどうあるべきか、また、カテゴリー制度をどうするかというような、リーグの構造や制度などについて、検討しています。定期的に行われる実行委員会で各チームの皆さんの意見を伺い、調整し、取りまとめていく。包括的にリーグを考え、将来に向けた大切な議論を進める役割だと思っています。
高馬 金田さんがいるからこそ、リーグワンの組織機能が円滑に回るのだと思います。金田さんの話し方や資料の作り方をベンチマークしていて、「このような人になりたい」と思います。(ベンチマークにしたいと思えるような人と出会えたことは)転職して良かった、と思えることの一つです。
日本協会の中の組織として運営していたトップリーグ時代とは異なり、各チームがそれぞれ主管権を持って運営し、個々のチームで主体的に稼ぐようになり、ファンを増やす施策を行うようになったのがリーグワン。各チームの取り組みについて、それぞれの分野から変化や進化を感じるところがあるようです。
高馬 多くの会場を見るのですが、ディビジョンごとに色がありますね。ディビジョン1は目の前の試合に勝つか負けるかの緊張感がまず、際立ちます。例えばディビジョン3では、勝ち負けも重要なのですが、来場者を歓迎するあたたかな空気も感じることができます。Jリーグ以上にディビジョンによって、特徴が出ているのが面白いなと思います。

佐藤 広報の観点から言うと、広報担当者のチームへの愛や選手への愛を感じるクラブは、発信していくことについてすごく積極的です。取材対応や試合会場のオペレーションにおいても、チームの担当者が気遣いをもって対応を行い、メディア活動をサポートできるようになりました。広報担当者もクラブOBだけでなく、今は外部から来られた方も多い。選手経験者だからこその熱意とか情報とかもあれば、外部から広報に就いた方はもっと外を見ています。もちろんその向こう側のファンも見ているのですが、対外のステークホルダーへの対応であったり、リーグワンの広報担当者の皆さんはそういった意識が備わっていると思います。あとは女性の担当者も増えました。
佐藤さんが話した通り、各チームで異業種から参入する人財が増えています。リーグワンでもラグビー界を経由せず、経験の多様性を重視した採用活動を進めているといいます。リーグワンで、ひいてはラグビー界でどんな人が活躍できるのか。経験分野やパーソナルな部分も含めて、それぞれの思うところを語ってもらいました。
重松 私自身は、多分エンターテイメントが好きという要素が大事かなと思っています。ラグビー観戦というのも1つのエンターテイメントだと思っていて。ラグビーだけじゃなくて、それこそ野球、サッカー、バスケといった他競技もそうですし、それこそ音楽ライブや日本の古典芸能というものに対しても、興味関心を持って自分で吸収・情報収集して、それをアウトプットできる人っていうのはスポーツ業界、ひいてはリーグワンでも必要な人材かなと思ってます。
高馬 私はラグビーのルールを知っているかと言えば、知らない部類に入ってしまうんですけども、ポジションも全部言えないかもしれないなって…。
一同 それはまずいんじゃない?(笑)
高馬 まあ…(苦笑)、そういう人間もいるわけですね。ただ、基本的にはラグビーをもっと良くしたいと言いますか。もっとたくさんの人がスタジアムに来てほしいですし、たくさんの人がラグビーに関わってほしい、という想いでやっています。基本的にはリーグは原理原則で動く機関で、それを踏まえて、ブレずにやっていかなければならない。規約とか公式戦の実施要項とか、それらの原理原則を把握した上で、出来る事と出来ない事が出てくるのが現状です。ただ、出来ないことについて、それを実現するためにどうしたらいいか。そういう想いを持った人がいれば、何かを良くしたいっていう想いがあれば、初めての業界でも働けるんじゃないかなと思います。

佐藤 私はコミュニケーションと、いろんな立場で物事を考えられるかというのが大事かなと思います。広報で言うと、もちろんチームと向き合いますし、メディアとも向き合います。その先にいるファンの人たちのことだったり、あとはD1からD3まで全然状況が違うので、そうした関係者のことも考えられるかが大事です。あとは、リーグですので色々な調整が必要になってきます。そういう時にどんなコミュニケーションの取り方ができるか。根回しをしたりとか、そうした事が出来ることが大事かなと思います。
※1:イングランドで行われた2015年のRWC。プール初戦で日本は優勝候補の南アフリカとブライトンで対戦しました。その当時までW杯で1勝。2つの引き分けを挟んで16連敗中だった日本相手に、当時までに2度の世界一に輝いた南アフリカの圧倒的有利が予想されましたが、最後のワンプレーで日本がトライを挙げ逆転。34-32で破った出来事は「スポーツ史上最大の番狂わせ」と評されています。最終局面でペナルティゴールを狙って同点で試合を終えられる可能性もありましたが、勝ちにこだわったフィフティーンによるスクラム選択という“英断”も語り草となっています。
※2:2016年から20年まで、南半球のクラブチームで競われるスーパーラグビーに参加していた日本のプロラグビーチームです。日本代表の強化を目的に活動し、世界最高峰の舞台での経験を積むことで、その後の日本代表の躍進(=2019年RWCでのベスト8進出)に大きく貢献しました。
※3:2024年2月、スーパーラグビーに所属するチーフス・ブルーズ(いずれもニュージーランド)が来日し、その前のシーズンで上位に入ったリーグワンの4チームと国境を越えた交流試合を開催しました。
★後編(12月9日公開予定)もお楽しみに!
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