日本ラグビー最高峰のコンペティション、ジャパンラグビー リーグワン。2003年から18季続いたトップリーグに代わり、2022年1月にスタートして5季目を迎えます。2024-25シーズンは総入場者数118万7470人(D1~D3まで計223試合開催)と過去最多を更新。南アフリカやニュージーランドなど強豪国の代表経験選手がこぞって参戦するなど、その急成長ぶりは世界からも注目を集めています。今回、スポジョバ編集部はリーグワンのオフィスを訪問し、滅多に表舞台には出てこないスタッフへの取材に成功。2回に分けてお届けする後編では、ラグビー界で世界最高のリーグを目指し階段を登り続けているリーグワンのこれまでとこれから。リーグワンと果たしたい夢について語ってもらいました!
(取材・執筆:池田 翔太郎、編集:伊藤 知裕)
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インタビューにご協力頂いた皆さん。
(左から)経営本部長の金田明憲さん、ラグビー本部 大会企画運営部の高馬新さん、リーグプロモーション部の重松知新さん、コミュニケーション部/ラグビー本部の佐藤和佳子さん。
「あなたの街から、世界最高をつくろう。」というビジョンを掲げ、船出を果たしたリーグワン。しかし当時はコロナ禍の真っ只中。当時からリーグワンの運営に携わっていた金田さんは「嵐の中の船出でした」と振り返ります。第1フェーズを「新たな挑戦」として臨んだ最初の3季。コロナ禍もあった中から得た収穫について、金田さんに総括してもらいました。
金田 2022シーズンは、1月7日の開幕戦をはじめ、多くの試合がコロナにより中止となってしまいました。でもその中で、ラグビーらしさが発揮されたと思います。事前に起こり得る状況を洗い出し、取るべき対応を関係者間で共有しました。実際に事態が生じた際には、関係者同士で密なコミュニケーションを取って、事前に定めた手続きに則り、状況を踏まえて判断を行いました。本当に関係者の皆さんのご尽力によって、シーズンを成立させることができたと考えています。
加えて、Japan Rugby ID (JRID) という、ラグビー界にとっての重要な基盤を得ることができました。ラグビーファンの皆様のIDをデータベースとし、リーグワンに留まらないラグビーの情報をご提供できるようになりました。ラグビー界の特徴的な点として、リーグと協会が連携して取組みを進めていることが挙げられます。これはラグビーそのものの特性だと思うのですが、もちろん、各チームを応援して下さるファンも増えていますが、同時に、ラグビー全体を応援してくださるファンもたくさんいらっしゃいます。複数のチームを応援して下さる方や、リーグ・日本代表・大学・高校といったカテゴリを超えて応援してくださるファンも、ラグビーを支えてくださっています。JRIDという共通のプラットフォームがあることで、ラグビーの特性に合った、ファンの皆様との関係拡大・深化ができると考えています。こうしたアセットを活かしながら、より多くの皆様にラグビーを観ていただいて、リーグの価値を高めていくことが第2フェーズの成長ポイントとなります。

(コロナ禍の中、2022年1月7日にスタートしたリーグワン)
「箱推し」気質はラグビーファンの特性。厳しい運営環境の中、そうした施策を当ててマーケティング部門で成功に繋げていきました。第1フェーズの3季を経て、現在は「世界最高への前進」と銘打った第2フェーズに突入。それぞれ入社時期は異なるとはいえ、他のお三方もリーグの成長をそれぞれの分野で感じることがあったようです。
重松 様々な方のお話を聞いていくと、まずお客様を呼ぶことが各チームの今のタスクになった中で、そもそも「チケットとは何か」、「ファンクラブ会員組織とは何か」というところから、改めて考えられているなと感じます。私が加わった昨季だけでも、ファンクラブ運用の機能を活用してこんなことが出来ないか?など、より高い次元のものを目指すクラブが出てきているのを感じます。自分たちで能動的にお客様を呼んでいかなきゃいけない。ファンの濃度を濃くしていくっていうところは、担当者の方とコミュニケーションを取りながら思った部分はありましたね。
佐藤 公式サイトから英語で発信していた情報というのは、もう本当に最低限しかない状態だったのですが、大幅にそこを拡充して、日本語サイトと同じぐらいの情報を出せるようになりました。チームの人から外国人選手やコーチが、そこから情報を取ってるよっていう話を聞いたりして、すごく嬉しかったです。海外メディアからの取材機会の設定もしていますが、初めはやはり海外の超有名選手の取材がメインでした。でも昨季は30年を迎えた神戸の震災だったり、釜石の復興だったりと、被災した地域でチームが果たしてる役割とは、という視点で海外向けに取材をしてもらうことができたりして、それはすごく良かったかなと思ってます。

(試合後ファンに挨拶する日本製鉄釜石シーウェイブスの選手たち)
高馬 私がリーグワンに入ったのが2023年9月。当時も12月開幕でしたが、9月の段階でも世の中に日程表が発表されてなかった記憶があります。ただ、今はもう8月という早い段階で世の中に出せるようになりました。現場レベルでの調整っていうところは、ここ2、3年ですごく水準が上がったなっていう実感はあります。やっぱりスタジアム問題っていうのが根深い問題の一つではあるのですが、その中で各チームが頑張って早い段階から行政をはじめとする関係各所と交渉して、自分たちでスタジアムを確保して、なるべく早く一般のお客さんに公表したいという想いを実現できています。そういう現場の頑張りと、あとリーグとチームの連携っていうのは、すごく高まってる実感はありますね。
成長を続ける中で、もちろん課題もあります。高馬さんが指摘した通り、優先的に利用できるスタジアムを持たないチームが少なくありません。Jリーグが秋春制に移行する中で、取り巻く環境も変化しています。しかしそこも「ラグビーらしさ」を打ち出した解決策、そしてラグビーファン拡大へと繋げていこうと取り組んでいます。
金田 スタジアムのニーズがある一方で、新たなスタジアムを得ることは容易ではありません。その中で、既存のスタジアムを、どのようなやり方で有効活用していくかを考える必要があります。我々は「地域」と共に歩んでいくことを大切にしています。その中で、1か所のスタジアムでホストゲームを毎試合実施できることは、実現したい姿です。同時に、一定の地域の広がりの中で、複数の会場を固定的に利用するということもまた、一つの形だと考えています。年に1回や2回であっても、必ずその地域で毎年ラグビーが開催され、その地域での普及であったり、皆さんの楽しみになってもらうというイメージです。例えば横浜キヤノンイーグルスさんで言えば、ベースは横浜ですが、大分でも毎年試合を開催しています。両方の地域でファンの皆さんが楽しみにしてくださり、

(毎年、大分で試合を開催する横浜キヤノンイーグルス)
行く手を阻もうとする障壁をも成長への「養分」として、歩みを続けるリーグワン、そして日本ラグビー。その前進に貢献し続けているスタッフの皆さんは、これからのリーグワンに何を期待しているのでしょうか。そこにはリーグワンで叶えたい夢がありました。
高馬 ラグビー界に入った理由の一つが2019年日本開催のRWC(ラグビーワールドカップ)でしたので、またいつか日本でRWCをという思いもありながら今、仕事をしています。リーグワンの盛り上がりが次の日本開催に繋がるようになればいいなと思っているので、日本だけじゃなくて世界でも話題になるようなリーグにしたいなという思いはあります。私は今、大会運営という領域でやっていますが、各チームと連携を取って安心安全で快適に観戦できるスタジアム空間を作りながら、より多くのお客さんにラグビーを見ていただく。たくさんラグビーを中継していただくリーグにしていきたい、という大きな絵を描いてます。そこから逆算して目の前の業務を粛々と進めながら、また日本でRWCが出来たら良いな、どうやったらできるかな、というのを考えています。
佐藤 私はファンの人がワクワクするようなことをやりたい、というのがあります。先ほどの話にも出ましたが、私が入社する前に開催された国際試合「クロスボーダーラグビー」をもう一度開催したいと思っています。リーグとしては現在の、各チームが主幹でやる運営というのを安定的にやっていくことをベースに、それに加えてファンの方々が、普段自分の推しているチームや国という垣根を越えて楽しめるような仕掛けをしたい。もちろん海外のチームを呼ぶとなれば海外メディアなどでの露出も期待できます。運営はめちゃくちゃ大変ですが、そんなお祭りみたいなことを、また出来たら良いなと思ってます。

(国立競技場に集うラグビーファン)
重松 私もRWCのような大会に関われるようなことは1つの夢ではありつつ、今リーグワンが抱えている課題でいうと、今ラグビーを見るという事が、日本の中ではまだマイノリティであるというところかなと思っています。野球のWBCであったり、サッカーのW杯が行われると日本中が沸く理由は、野球やサッカーの露出が日々多いことに関係していると思います。日本の中でサッカーや野球の認知度が高い分、いずれの日本代表の試合も応援しようという機運になるのかなと思います。まずはリーグワンを皆さんの休日の過ごし方の、1つのチョイスに入れてもらうというところを進めたい。皆さんにまず認知してもらう、知ってもらえるようなリーグになるのが私の1つの目標かなと思ってます。サッカーや野球に並ぶチョイスに、ラグビーがなれば良いなと思います。
金田 リーグやチームの皆さんにも共通していることだと思いますが、「ラグビーに関わると幸せになる」というのは、やはり信じている価値観です。観るでも、プレーするでも、応援するでも、何でも良いのですが、ラグビーに関わった人の人生がより豊かになるということを信じています。その機会をたくさん作るというのが我々の仕事だと思っています。そのためには今のチームがより成長して発展していただくことはもちろん、新しいチームが増えていくことも重要になります。ラグビー界がサステナブルであるために、定量・定性の両面から、価値を定義して、それらを高めていくことが必要です。「ラグビーって良いもんだよね」ということを、より多くの皆さんに思っていただけるよう、試合運営、普及育成、事業といったリーグの活動を通じて、努力を続けていきたいと思います。
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