卓球のプロリーグ「Tリーグ」は、2月16日にレギュラーシーズン最終戦を終えた。この日、試合会場で歓喜の涙を流した1人の男がいる。4チーム中2チームだけが進出できるプレーオフファイナルを賭けたこの一戦で、大逆転勝利で切符を掴んだ「琉球アスティーダ」の社長・早川周作氏(43歳)だ。
早川氏は実業家として多くの会社の立ち上げに携わってきたが、実はスポーツ業界は未経験。彼ならではの新しい視点で運営モデルを作り、現在はプロスポーツチーム初の株式上場を目指すまでの規模に成長している。
一体どんなモデルなのか?どうして卓球に活路を見出したのか?早川氏にインタビューを行った。
(取材・構成=スポジョバ編集長 久下真以子)
ーー早川さんは現在、沖縄に拠点を置きながら東京との往復をしている生活ですよね。
早川:月のだいたい半分は沖縄で、月の半分は東京にいるんですけど、3日~4日おきに移動していますね。溜まるのは疲労とマイルばっかりです(笑)
ーー(笑)。卓球に関して、具体的には東京にいるときはどんなことをされているのでしょうか。
早川:スポンサーのフォローですね。例えば、スポンサーになってくださった会社に対して、ただ単に「スポンサーになってください」というのではなく、こちらも相手の会社の数字に貢献するというのをすごく重視しています。40億円から50億円くらいの会社を100億円から200億円くらいの会社にするというレンジが私の得意分野なんですよ。今日も80億円くらいの規模のスポンサー企業に行ってきたんですけど、そこの営業のスキルアップや社内の仕組み作りについて研修してきたところです。
ーー実業家の早川さんならではですね。試合会場にもよく行かれていますよね。
早川:行きますね。レギュラーシーズン最終戦ではセットカウント0-2からの逆転でプレーオフファイナル進出を決めたんですけど、本当に感動して。「卓球っていいな」って改めて思いました。スポーツに携わって良かったなって思うのは、「筋書き通りに行かないこと」なんです。今までは自分が必死になってお金を集めて社員を雇って株価を上げて、上手くいかないときは頭を下げに行くということが自分でできたんですけど、スポーツの場合は選手の調子を自分がどうすることも出来ないじゃないですか。それを一喜一憂しているのがすごく楽しいんですよ。選手にちょっかいかけまくってますけどね。
ーーそうなんですか(笑)なかなかそんな球団社長はいないですよね!
早川:卓球を知らなかった人間だからこそ、いい意味で空気を壊していきたいんですよ。私のことを面白いって思ってくれた選手たちが、琉球アスティーダに来てくれています。
ーーそもそも、早川さんが琉球アスティーダの社長になったきっかけは何だったのでしょうか。
早川:その数年前から東京から沖縄に移住していたんですが、Tリーグを2018年に発足するにあたって、チェアマンの松下浩二さんに声をかけられたのがきっかけです。その時に言われたのが、「5歳で始めたスポーツで15歳でメダルが取れる。沖縄の貧富の格差が拡大する中でお金をかけずにチャンスが与えられる球技は他にあるか?」と。地域活性を信条としてきた私は、その言葉を聞いて引き受けることに決めたんです。
ーー胸に響くものがあったのですね。
早川:元々私は19歳の時に父親が倒産して蒸発しまして。生活が苦しくて市や県に相談に行ったんですけど、解決方法が見つからなかったんですよ。だから社会構造や社会基盤として、強いところだけではなくて、弱い地域や弱い立場の人たちにも光が当たるようにしたいという志を持っていました。中小企業を成長させる現在のコンサルの仕事もそうですし、「光の当て方を変える」という意味で自分の志にぴったり当てはまったんですよね。
ーー実際、早川さんはチームでどんな経営手法を取られているんですか。
早川:まず、なんでこんなに日本ではスポーツにお金を出す会社が少ないのか?と考えたら、3つ問題があると思ったんです。1つ目は「ガバナンスが効いているかどうか」、2つ目は「ディスクロージャー(開示)されているか」。自分の出したお金がどう使われるのか不透明だったら、出すほうもいやじゃないですか。3つ目は、「1社も上場している会社がないこと」です。だから弊社はしっかりディスクロージャーをして、プロスポーツチーム初の株式上場を目指しているところです。
ーーしっかりお金の流れを「見える化」することがポイントなのですね。
早川:さらに、これからのスポーツ業界には「地域に根差した地元資本の運営」こそが必要だと思っています。現状として、プロスポーツチームはスポンサーやチケット収入によるところが大きい。でも私たちはここに頼らない「BtoC」の仕組みづくりをしています。我々が沖縄県内で経営している飲食店では、約2万人のユーザーがお金を落としてくれる。様々なストック収入を得ている。そして今後弊社が株式上場すれば、地元の企業や住民が株を買ってくれて、その配当を出していける。つまりBtoCのマーケティング会社としてチームを運営するという状況を、まさに今作っているのです。
ーーお金の面以外にも、早川さんならではのアイデアはありますか。
早川:トップチームに所属している選手を見ていただきたいんですけど、うちのチームは他と比較して明らかに日本人が少ないんですよね。台湾や中国、韓国の世界トップレベルの選手を招聘しています。今、卓球がアジアのマーケットで急成長していて、いい選手も生まれているんです。それであれば、国内で勝負するのももちろんですが、アジアに目を向けるのも伸びしろという意味では大事なことだと思ったんです。地理的にも沖縄はそういったアジア諸国に近いし、勝負できますよね。
ーー琉球アスティーダを設立して、光を当てたかったという沖縄に変化はありましたか。
早川:ジュニアスクールを設立して気づいたことがあるんですよ。そもそもなぜ沖縄が卓球が弱かったかというと、指導者がいなかったんですよ。だからスクールの監督に江宏傑(福原愛の夫)、コーチに張莉梓(福原愛のコーチ)などを起用したんですけど、うちに通っている小学生が県内負けなしになる。2024年パリ五輪や2028年ロス五輪に向けて沖縄からオリンピックを出そうというムーブメントも起きているし、大きな変化はあると思います。
ーー沖縄で強いスポーツといえば、高校野球のイメージがあります。
早川:例えばハンドボールは強豪校が何回かインターハイで優勝していますし、野球も興南高校などが有名ですよね。ある意味、沖縄の運動神経のいい子どもたちは野球に流れていたわけです。でも、野球では能力が埋没してしまった子どもが、もしかしたら卓球だったらチャンピオンになれるかもしれないじゃないですか。そういう選択肢を沖縄の皆様方に示しているのが琉球アスティーダだと信じています。
ーー沖縄から卓球で五輪メダリストが輩出されたら、地域も元気になりますね。
早川:卓球ほど、日本人の体格に合って世界のトップと戦える球技ってないんじゃないですか。野球やバスケットボールでも、メジャーやNBAで活躍できる日本人は一握り。でも卓球で世界ランキング100位以内に入っている日本人って20人くらいいるんですよ。そう考えれば卓球マーケットは間違いなくビジネスになるし、可能性を感じています。
ーー今年は東京オリンピックも控え、卓球の注目度はさらに増すと思います。
早川:はい、そういった意味では現地観戦はもちろん、メディアとの親和性も大事にしていきたいです。東京で卓球がブレイクした後も、パリやロスでも確実にメダルが取れる選手がうちで育ってきているので、継続的に注目していただけると思います。
ーー一時的なものではなく、継続的な仕組みづくりは大事なことですね。
早川:会社にとってもプレーヤーにとっても、「スポーツ=儲からない」から「スポーツ=儲かる」という概念にしていきたいですね。これだけ感動と情熱をもって向き合えるものってスポーツ以外にないじゃないですか。座組を変えていけば、JリーグだってBリーグだって、もっと変わっていくことができると思います。
ーーお話を聞けば聞くほど、卓球がスポーツ業界をけん引していく存在になりそうです。
早川:琉球アスティーダが先頭になって上場すれば、Bリーグ「琉球ゴールデンキングス」やJリーグ「FC琉球」をはじめ、県内の旅行会社や観光関連産業などとコミュニティができます。沖縄でこういったモデルができれば、各地域・各スポーツが参考にしてくれると思うんです。自分の取り組んだことが業界内で寄与でき、歴史に残ることができれば嬉しい。沖縄から、スポーツに革命を起こしていきます。
早川周作(はやかわ・しゅうさく)
1976年、秋田県生まれ。明治大学法学部卒業。大学在学中から、学生起業家として活躍。その後、元首相の秘書として約2年間勉強し、28歳で国政選挙に出馬。
経営者の世界に戻ったあとは、日本最大級の経営者交流会の主催のほか、新聞やテレビ、ラジオなどメディア露出多数。
2018年2月、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社を設立し、代表取締役に就任。
明治大学大学院講師・琉球大学非常勤講師等、業種業界を超えた幅広い分野で活躍している。
設立年月 | 2018年02月 | |
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代表者 | 早川周作 | |
従業員数 | - | |
業務内容 | プロ卓球リーグ「Tリーグ」に参戦するプロチームの運営、飲食事業の運営 トライアスロンチームの運営、伝統芸能の承継サポート、卓球教室、卓球物販ECサイト運営、コンサルティング等 |
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