今月、卓球・丹羽孝希選手が東京オリンピックでの男子シングルスの代表入りが確実となりました。3度目の五輪出場を支えたのは、マネージャーの上野香さん。上野さんはパラ卓球で東京大会の出場・金メダル獲得を目指す岩渕幸洋選手も担当しており、2020年に向けて日々奔走しています。
上野さんがマネージャーに就任したのは今年の4月。それまではテレビ局のADやプロ野球チームの球団職員など、複数回の転職を重ねてきました。
独占インタビュー前編では、どうして卓球のマネージャーにたどり着いたのか?スポーツ業界になぜ惹きつけられたのか?これまでの道のりを伺いました。→今やっていることは「必ず」意味がある。転職を重ねてたどり着いた生き方(前編)
後編では、マネージャーとしての奮闘や大切にしている思い、転職を重ねてたどり着いた「彼女の生き方」についてご紹介します。
(取材・撮影・構成=スポジョバ編集長 久下真以子)
ーー今月は、丹羽孝希選手が東京オリンピック出場の切符をつかみました。
上野:本当にこの1年は苦しかったと思いますが、それを表に出さず最後まで戦っている姿を見てきたので、とにかくホッとした気持ちが一番でした。
ーー本当に良かったですね。今年の7月にはパラ卓球の岩渕選手がアジアパラ選手権大会(台湾)に出場し、優勝すれば東京内定が決まる大会で、上野さんは涙を流していましたよね。
上野:決勝であと一歩のところで逃して、一緒に泣きました。私まで泣く必要はないのかもしれませんが、先に2セット取って、1セット取られて、4セット目の7-2までリードしていたんですよ。あと4点取れば代表の内定が取れるというところで…するっといかれてしまって。試合が終わって目を真っ赤にしている岩渕を見ると、「勝たせてあげたかったな」という思いがこみ上げてきてしまって。戦うのは選手なんですけど、「何もできなくてごめんね」という気持ちになりました。
ーー近くで見てきたからこそ、悔しいですよね。
上野:でも、逆にそれじゃいけないなって思ったんですよ。自分がそんな気持ちで一緒に落ち込むよりも、明るく迎えるくらいの余裕があったほうがよかったんじゃないかなと気づいて。今は結果に左右されないように、勝っても負けても、ケガしないで無事に帰ってきてくれればという思いです。母親みたいですね(笑)
ーー2人の選手はタイプが違うように思いますけど、接し方などはそれぞれ考えているんですか?
上野:岩渕に関しては本人にいっぱい聞きます。「どうしていこうか?」と聞けば「こうしてほしい」「じゃあこうしよう」と話しあうのが岩渕で、丹羽に関しては自分のスタイルが出来ている選手なので、ある程度任せています。何かある時は連絡をくれるので、そういう時にすぐ対応する、一番に親身になって考えるというのを大事にしています。シャイな性格なので最初はどう接していくのが一番良いのか試行錯誤の繰り返しでしたが、今は良い距離感で仕事ができていると思います。その中でも心がけていることといえば、試合などで会うときは「体調大丈夫?」って必ず聞くようにしています。「大丈夫」と言われれば、「またできることあったら連絡して」と返すのをルーティンにしています。
ーー我々メディア側にとっては、マネージャーさんは試合会場でお会いしたり、取材の調整をしていただいたり以外の面はなかなかお目にかかることがないんですよね。改めて、普段はどんな業務をされているのか教えてもらっていいですか。
上野:アスリートを取り巻くすべての人たちを「アントラージュ」といいます。選手のサポートは第一前提ですけど、アントラージュの皆さんも含めてプロデュースをしていくのが仕事です。全ての人に価値を提供したり提案するので、コンサルに近い仕事かもしれません。「選手を通して御社のブランディングを上げましょう」「選手の素顔を見せて、ファンを増やしましょう」という提案を、企業様それぞれに対して考えています。
ーー私も岩渕選手Tシャツを買いましたけど、こういうのも手掛けているんですか?
上野:個人スポンサーである別の会社さんに発注をして、まずそこで売り上げを作る。弊社からその会社に発注することによって、仕事が増え、収入が増える。岩渕と契約しているメリットとしては、「売り上げが立つ」ということを示せる。たくさんの人にTシャツを着てもらうことで、岩渕への応援づくりができる。応援の文化を作るという意味で、アントラージュのみなさんの応援アイテムとしてその一着を作ったというのがきっかけだったんです。それがスポンサーに対しても、ファンの方に対しても良い価値を提供することができ、マネジメントにとっても良い方向に進めると思っています。
ーー競技そのものの普及については、選手がイベントによく出演しています。
上野:「競技」と「普及」のバランスはすごく考えています。技術的なところは伝えることができないので、代表チームや各所属チームにお任せしています。チームとしてはメダルを取らせないといけない。でも、選手たちの普及の思いも強い。でも、メダルを取らないとメディアの取り上げられ方も大きく変わってきますよね。だから、年が明けたら練習をより最優先に考えて、イベントの出演をコントロールしながら普及しようと考えています。
ーーその辺の舵取りは、大変そう。
上野:難しいです。もちろん選手の気持ちを最優先に考えていますが、例えば「このイベントを受けることによって選手の思いを伝えることはできるだろうか?」「この依頼は選手が向かっている方向性に沿っているだろうか?」など依頼がきた段階で考えるようにしています。私なりの考えをまとめて、選手に依頼内容を話してしっかり相談した上で、お受けしたり、お断りさせていいただくこともあります。その時に気を付けているのは、最終的な判断は選手に委ねること。選手それぞれの人生なので、私の方で決断しないようにしています。
ーーお話を聞いていると、今の仕事も、これまでの広報やグッズなどの業務、全てが生かされているように思います。
上野:集大成みたいな感じです。社会人になって10年ですけど、人よりすごく転職が多いんですよ。経歴だけ見たら「性格に問題があるんじゃないか」って思われるかもしれない(笑)でも積み重なってきたものを振り返るとすべてがつながっているんです。その時その時は「何でこの仕事してるんだろう」っていう瞬間もありましたけど。
ーーテレビ局のADからアスリートのマネージャーに至るまで、全てが線のようになっていますよね。
上野:周りの人にも恵まれて、私はすごく運がいい人間なんです。元々テレビ局志望じゃなかったですけど、ライオンズに入った時に「ああ、ここに来るために編集を学びなさいって神様が導いてくれたんだ」って思えました。今のマネージャーの仕事も「卓球がわからない私でいいの?」と最初は不安でしたけど、何か理由があってここにいるんだと思えるんです。全てが何かに導かれているような気がしていて、そうじゃないとここまでいいめぐり逢いもなかったと感じています。
ーー誰しも先が見えないときがありますけど、今やっていることには必ず意味があるということですね。
上野:それは自分の歩んできた10年で実証しているので。今、「何でこの仕事してるんだろう」と思っている人の中には、不満しか見えなくなっている人もたくさんいると思うんです。でも転職を重ねてきた自分だからこそ、今は絶対次につながるという確信を持っているし、伝えたいです。
ーー今後の目標について教えてください。
上野:選手に対する気持ちは誰にも負けない自信があるんですけど、スポーツビジネスの思考にもっともっと強くなりたい。たくさんの人から「丹羽選手を起用してよかったよ」「岩渕選手を使ってよかったよ」って言われることが、私の喜び。だから情だけでなくビジネススキルを磨いていって、厚かましいですけど「上野さんにマネジメントしてもらいたい」と言ってもらえるような存在になりたいです。
【PROFILE】
上野香
1989年、埼玉県新座市出身。東京スクールオブビジネス(マスコミ広報学科スポーツ誌編集専攻)卒。小学生の時に見ていた西武ライオンズの試合がきっかけで、スポーツ業界を志す。テレビ局の制作会社、西武ライオンズの映像編集、BCリーグ「福島ホープス(現福島レッドホープス)」球団職員など複数回の転職を経て、2019年2月「株式会社スヴェンソンスポーツマーケティング」に入社。2020年東京オリンピックの卓球日本代表を確実とした丹羽孝希選手や、東京パラリンピックでの金メダルを目指す岩渕幸洋選手のマネージャーとして活躍中。
設立年月 | 2017年04月 | |
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代表者 | 山下 亮 | |
従業員数 | - | |
業務内容 | 複合型卓球施設「T4 TOKYO」、卓球コミュニティサイト「T-PLUS」の運営、オフィス向け卓球台「T4 OFFICE」の開発 |
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