バスケットボールやバレーボール、ラグビーなどのスポーツ観戦をする際に欠かせない「チケット」。以前は紙のチケットしか存在しなかったかもしれませんが、電子化などの発展が著しい領域でもあります。
ただし、今回お話を伺った稲葉さんはスポーツにおけるチケット領域は遅れていると言います。世界ではもっとたくさんのことができるようになっており、どんどん発展しています。北米で大きなシェアを持つAXSに所属するからこそ知りえている未来があります。
この記事では、AXS Japanが日本で展開するきっかけになったことや、スポーツにおけるチケッティングの関わり方、彼らが目指すスポーツ観戦の未来についてご紹介します。またそれによるスポーツビジネスの可能性についても言及しています。
プロスポーツを愛するあなたへ、テクノロジーが創造するスポーツチケッティングの新しい世界観を垣間見てみてください。
(取材・執筆:小林 千絵、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
──最初に、稲葉さんがAXS Japan合同会社で働くことになった経緯を教えてください。
前職では新規事業開発やプロダクトマネージャーなど、様々な業務をしていたのですが、その中の一つとしてチケット事業の立ち上げに携わりました。その際、チケットサービスのビジョンについてAXSの方と話す機会があって。話を伺っていたら、当時私たちが思い描いていた5年後のチケットサービスに必要な機能が、AXSにはすべて揃っていたんです。
だから自分たちで電子チケットサービスをゼロから開発するのではなくて、AXSを日本のマーケットに合わせていくのが最善だと考え、日本でAXSシステムを提供するジョイントベンチャー(JV)の立ち上げを行いました。
──AXSを日本に持ってきた方だったんですね!
そんな大層な……。その判断をしたという感じです。
──JVが解消されたのにも関わらず、稲葉さんは取り組み続けたいと思われたのはどうしてなのでしょうか?
日本のEコマース領域においてチケットだけ遅れているように感じるんですよね。だって飛行機や新幹線だったら座席を選んで買うなんてすごく前からできることだし、Amazonで商品を買うのに、抽選なんてないですよね。欲しいと思って選んだらすぐ買える。なのにチケットは抽選で、実際に買えるかどうかがわかるのは何ヶ月も先だったり、同行者の名前も入れないといけなかったりして。僕はもともとスポーツには全然興味がなかったんです。でもEコマースの分野には詳しいから、そういう第三者の目を生かして、日本のチケットシステムを変えていきたいと思いました。そのことが結果的に、クライアント様やお客様はもちろん、世の中のためにもなる。“自分たちは世の中を便利にするために頑張っているんだ”という考えを持って、AXSにやってきました。
──AXS Japanが行っている業務は、具体的にはどのような業務内容なのでしょうか?
ざっくり言うと、クライアントや顧客に優れたサービスを提供することを大切にしている、チケット販売システムを提供する企業です。“チケットを売る”といっても、チケットの販売だけでなく受付や、それに伴うお金や情報の管理も必要になる。我々が提供しているのは、そういうチケット販売の裏側をワンストップで提供するシステムです。これまではチケットを販売したいと思ったら、プレイガイドさんに「これを売ってください」と持っていってプレイガイドさんがそれを売る、という流れだったのですが、我々の仕組みを使うと、クライアント様が自分たちでチケットを売ることができる。そして、自分たちでお客様のことを把握できる。だからそのお客様に対して自分たちでアプローチができるようになる。クライアントにツールとホワイトグローブサービスを提供することで、消費者にとっても便利な解決策を提供し、チケット販売の裏側を支えるという仕事をしています。
──現在行っているのは主にプロスポーツリーグのチケットシステム運用だそうですね。
はい。私たちのクライアント様の一つに新興のプロスポーツリーグがあります。ディビジョン1とディビジョン2に所属する約40のクラブ様に我々のチケットサービスを提供しています。そのリーグではクラブ共通のチケットサービスを使用していますが、販売はクラブごとというなかなか複雑な体系。でも我々のチケットサービスを使用すると、クラブ共通のIDを使って、それぞれのクラブごとに考えた独自の販売に対応することができます。
例えば、あるクラブではタクシー乗車券付きチケットを販売していたり、地元の企業とのコラボ商品を付属させたり、選手との握手券を付けたりしているのですが、我々はそれを実現させるためのお手伝いをしています。同じ仕組みを、ラグビーのスポーツクラブ様もずっと使ってくださっています。また今年から、別のスポーツ種目のリーグも、我々のシステムにスイッチしてくださいました。そうやってテクノロジーを通して、各クラブやリーグが抱えている課題を解決していくというのが我々の仕事です。
──今お話しいただいたように、スポーツ興行のチケット販売に多く携わられているということですが、AXS Japanのシステムが、特にスポーツ興行に適しているのはどういった特徴があるからなのでしょうか?
いくつかありますが、まずはチケットを座席から選べるということ。他社さんでも座席を選べるところはありますが、我々が導入しているシステムの1つに3DHDマップというものがあって。このマップを使うと、座席を選ぶと、その席からコートがどのように見えるかというものがVRのように映し出されます。そうすることで、ユーザーの方が直感的にチケットを買えるのです。
──確かに、行ったことのない会場でのチケットを購入する際に、見え方がわかるとすごく便利ですよね。
そうですよね。それから、我々の特許技術の1つに「モバイルIDチケット」というものがあります。先ほどお話ししたプロスポーツリーグでは、試合観戦用のチケットだけでなく、駐車券やグッズ、選手との握手券など、様々な特典を付けたチケットを販売しています。その場合、今までのチケットだと、その1つ1つにバーコードが発行されていました。「○月○日の入場チケット」「○月○日の駐車券」……という感じで。でもそれだと紙チケットと大して変わらない……どころか、むしろ紙チケットよりも面倒くさい。
そこで我々は、ユーザーに対してコードを発行するというシステムを採用しました。それが「モバイルIDチケット」です。ユーザーの方が使うのは自分用のQRコードだけ。それを持って入場口に行けば、「この人は今日のチケットを持っている」と判別されて入場ができ、駐車場に行けば「この人はこの日の駐車場の権利を持っている」ということがわかり、特典引換場所に行けば「この人は特典対象者です」とわかる。ユーザーは1つのQRコードを見せるだけなので便利ですし、管理するクラブ側としても、その方がどれくらいの頻度で試合に来ているか、どんな特典を利用しているかが可視化されているので、マーケティング戦略などに活用できる。そういった面でもクライアント様に貢献できているのかなと思います。
──稲葉さんご自身は、チケットプロバイダーとしての面白さをどのように感じていますか?
チケット会社って、あんまり褒められないんですよ。できて当たり前なので。普通に買えて、普通に入場できたらそれが成功で、「入場、うまくいきましたね!」みたいなことはほとんどない。
──言われてみれば確かにそうですね。
もちろん「すごく買いやすかった」と言ってもらえることがあればすごくうれしいですけど。
でも実際に会場に行って、人が入っているところを見るとすごくうれしいですね。クライアントのプロスポーツリーグでも最近は満席になることが増えてきましたが、実際に会場に行って「ここに居る方々はみんな、我々のシステムを使って入場しているんだよな」と思うとうれしいです。
──これまでに多くのハードルを越えてきて、今では日本の消費者やクライアントに素晴らしいプラットフォームを提供できているのですね。
当然ですが、AXSを最初に日本に持ってきたときは日本に適応ができていませんでした。そもそもすべての表記が英語ですし、決済に日本のクレジットカードは使えない。その状態から日本にあわせてローカイライズしていった初期は苦労しました。
──確かに海外のシステムを日本の生活や文化にあわせていくのは大変そうです。
例えば「eチケットをコンビニで印刷できるようにしたい」という要望は、日本独自の発想。海外のエンジニアがびっくりしていたことを覚えています。あとはコンビニ支払いも「コンビニでお金払えるの?」「っていうか、何でクレジットカード使わないの?」と、海外のエンジニアは驚いていましたね。でも日本では絶対に必要な決済方法の1つですよね。そうやって日本のマーケットに合うようサービスの内容を一つ一つ変えていったのが初期でした。
それから、いただいた要望で大変だったこととしては、クライアントのプロスポーツリーグが独自の1つのIDのもとで動いているんですが、チケット販売に関してはクラブごとに会員レベルを持っているんです。会員ごとに値段も違うし、権利も違う。すごく特殊なID体系をしているのですが、それを具現化できたのも我々だったからかなと自負しております。
──今、日本独自の要件というお話があがりましたが、AXSはシステムの大元はアメリカ。そのシステムを全世界で使用していることも御社の強みだと思いますが、アメリカのシステムを使っていることやグローバルなチケットサービスがあるからこそ解決できたことなどはありますか?
弊社では「アクシス グローバルコードベース」というシステムがありまして。世界中で同じコードを使っているので、アメリカやスウェーデンなど、AXSで新しい機能が追加されると、同じ機能がAXS全体で使えるようになるんです。例えば、「Payment Invite」という機能がありまして。前シーズンにシーズンチケットを買ってくれていた人に、「今シーズンもあなたのためにこの席を予約していますよ。○日に申し込んでくれたら、こんな特典がありますよ」というオファーが届くという機能です。これは海外のクラブでニーズがあって開発された機能。そうやって新たな機能が次々と追加されていくのは強みかなと思います。これをもって日本のクラブやリーグに提案もできるので。逆に、先ほど話した日本独自の要件も全世界で使える機能として搭載されています。
──確かに日本だけでは気付かなかった視点から生み出された機能が、自然と入ってくるというのは大きな強みですね。
はい。あとは開発体制、運用体制として、日本の業務時間が終わるとヨーロッパのチームが稼働し始めて、ヨーロッパが終わるとアメリカのチームが稼働し始めて……とグローバルに24時間体制で開発、監視を続けられるのも強みだと考えています。
──AXS Japan合同会社としての今後の展望や、この先考えている展開を教えてください。
ここ数年間は、1つのクライアント様でちゃんと結果を出せないと横にも広げられないと思ったので、とあるプロスポーツリーグに注力して、リーグが抱える課題を解決してきました。その経験を持って、これからは横に広げていくフェーズに入っていこうと考えています。今年から別のスポーツのプロリーグも導入されましたし、スポーツ以外でのクライアント様も増えてきました。親会社であるAEGが参画する日本の会場にもチケットサービスを提供していく予定です。一気に全てが変わることはありませんが、一つ一つ増やして積み上げていけたらと考えています。
──具体的に考えている展開などもあれば聞かせてください。
AXSは世界中にクライアントがいます、海外のクライアントで成功しているビジネスモデルやサービスを違和感なく日本のマーケットにフィットさせていくことで、日本のチケッティングをクライアント様、お客様にもっと喜んでいただけるものに変えていけるのではないかと思っていて。
──どういうことなのでしょうか?
アメリカでは、チームと連携しているベニュー、つまり会場がチケットの販売権利を持っているケースが多いんですよ。例えば、アメリカ・ロサンゼルスにあるクリプトドットコムアリーナは、NBAのロサンゼルス・レイカーズ、WNBAのロサンゼルス・スパークス、NHLのロサンゼルス・キングスの本拠地ですし、もちろん競技以外にコンサートなどにも使用されます。
そのチケットの販売権利を持っているのが会場です。すべて同じシステムを使っているので、来場者がアリーナ内でどのような行動をしているのかを把握しやすいんです。日本でも、そういうことができるようになると、クライアント様もお客様も便利になる。会場に来られるお客様を一番知っているのは会場であり、クラブ様という考え方ですね。その為に、モバイルIDチケットをはじめとした展開を私たちが提案したいと考えています。
──なるほど。そんななかで、御社は「日本一のチケットプロバイダーへ」という想いを掲げられているそうですね。
はい、日本で一番課題を解決できるチケットサービスを目指しています。そうなれば結果的に一番使われるサービスになっていくんじゃないかなと思っています。正直、まだまだチケットって買いづらいですよね。電子チケット化が進んでいますが、実際に電子チケットになって便利になったかというと、そこまでなっていないんじゃないかと、僕自身も思っていて。「紙チケットのほうが便利じゃん」と思っている方もまだまだ多いでしょうし、実際に紙チケットのほうが便利なところも多い。
だけど、チケッティング全体をデジタル化することで、クライアント様もお客様も、そして世の中全体も便利になるという世界は必ず作れるはず。そんな世界を目指しています。そしていつか、うちのシステムを使っている会場が全部満席になったらうれしいなと思っています。
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【PROFILE】
稲葉 健二
京都出身。ヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に在籍したのち、チケット事業の立ち上げに寄与。その後、アクセスジャパン合同会社にて日本一のチケットプロバイダーを目指して業務に取り組んでいる。マイブームは料理やスケート、スノーボード。BリーグやSVリーグRリーグ、プロ野球等様々なスポーツにも目を向けているそう。
設立年月 | 2021年06月 | |
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代表者 | ジェイソン・マーティン・ボクサー | |
従業員数 | 35名(業務委託含む) | |
業務内容 |
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