ヴィクトリーナ姫路が体現する「地域が中に入ってきてもらう」状態とは。

株式会社姫路ヴィクトリーナ 代表取締役社長 上原 光徳

ヴィクトリーナ姫路が体現する「地域が中に入ってきてもらう」状態とは。

株式会社姫路ヴィクトリーナ 代表取締役社長 上原 光徳

バスケットボールのプロチームである大阪エヴェッサの立ち上げの中心人物であった上原光徳さんをご存じだろうか。現在のBリーグの前身でもある、bjリーグ黎明期をサバイブし、大阪エヴェッサ、西宮ストークスの代表を歴任してきた。

その上原さんは今のヴィクトリーナ姫路について「大阪エヴェッサを立ち上げた当時の状態と同じ」だと言うが、「もう3チーム目はやらない」とも言っていたそうだ。それにも関わらず、株式会社姫路ヴィクトリーナの代表を引き受けた理由はどういったものなのか。

その理由を伺った際に「ヴィクトリーナ姫路が最終形態」と表現された意味とは。ヴィクトリーナ姫路の特殊性とプロスポーツチームとしての共通点を、上原さんの人間性を垣間見ながら伺った。

オーナー企業のいない”株式会社姫路ヴィクトリーナ”が描く未来と、スポーツチーム運営企業が売っているものの”正体”にせまる。

(取材・執筆:伊藤 知裕、編集:中田 初葵)

大阪から西宮、そして姫路へ。チーム経営で違ってきたこと。

――― スポーツ業界でご活躍されていらっしゃった上原さんのお話を楽しみにしておりました。現在の役職につかれた背景から教えていただけますか?

スポンサー様や、後援会様など、約400社に支えられている非常に素晴らしいチームでしたが、ファンマーケティングにおいては少し立ち遅れているところがありました。BtoCにおいては私に多少の知見があったためコンサルティングをしておりましたが、2022年12月に副社長を拝命しました。そして、前任の社長がV2降格の責任を取って退任することになり、2023年6月より代表へ就任することになりました。

――― スポーツの仕事に関わるきっかけはどういったものだったんでしょうか?

上場企業のヒューマンホールディングスで、企画、マーケティング、広告宣伝部の総括をやっていたので、新しいマーケットに対して様々な事業展開をしていました。

その中でバスケットボールの事業を始めようとしていまして「儲からないからやめとけ」なんて言われることもありました。ですが、当時のbjリーグでトップを走っていたアルビレックス新潟の試合をみて「すっごいスポーツがこの日本にあるんだ!」とめっちゃ感動して。オーナーと一緒にチームを作ったというのがスタートです。

――― 一からプロスポーツチームを作るというご経験をされている方は多くないと思います。多くのご苦労をされたのではないでしょうか?

親会社から援助をもらいながらスタートできた。まずそこが一番大きかったですね。お金を使う時にめっちゃ怒られて(笑)、「いくら金使うんだ!」と言われながらやりましたけど、そういうところから始まりました。

その後、西宮ストークスの経営にも関わりました。ストークスの場合も責任企業(オーナー企業)はいましたが、大阪エヴェッサの親会社ほど大手企業ではなかったこともあり、より地域に支えられながらもシビアに収支をみるようになっていきました。

――― プロスポーツビジネスにおいて直面しがちな資金面の課題と向き合われてきたことがうかがえます。株式会社姫路ヴィクトリーナはいかがでしょうか?

姫路ヴィクトリーナにはオーナー企業がないんですね。オーナー企業がある場合は資金的に安定しやすい側面がある一方で、オーナー企業からのプレッシャーも大きくなりやすい傾向があると思います。姫路ヴィクトリーナにはそういったプレッシャーはないんですが、うまく経営ができないとチームがなくなってしまいます。

特定の企業に支えられているというより、地域のみなさんに支えられているのがヴィクトリーナ姫路というプロチームです。3社経験してきて、大手企業の”子会社”から地域に根差した”チーム”へ移行していって、ヴィクトリーナ姫路は”最終形態”かなと思っています。私の考え方では、プロスポーツはローカルコンテンツ(※)だと思っています。

※詳細は「大河チェアマンとの共闘!欧州の総合型クラブと日本の実業団チーム、共存によるバレーボール界の発展」をご覧ください。

姫路にあっても、チーム運営において変わらない大事なこと。

――― ローカルの文脈で言うと、姫路はどういった地域なんでしょうか?

過去にはバレーボールのチーム数が、日本で1番多かったこともあるらしいですね。そのぐらいバレーボールが盛んな地域でした。それは立ち上げた後に気が付いたことでしたが(笑)。今のオーナーでありチームの立ち上げをした、元女子バレーボール日本代表監督の真鍋さんの地元でもあります。

また、我々が八市八町と呼んでいる播磨エリアは、商圏として120万人くらいあります。そして、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、姫路は臨海工業地帯として素晴らしい企業が集まっています。そういった意味でも、マーケットは素晴らしいと思っています。

――― その播磨エリア、姫路エリアに対して、ヴィクトリーナ姫路はどのような位置づけでいるべきだと考えていらっしゃいますか?

ヴィクトリーナ姫路は地域のシンボルです。一般的にはヴィクトリーナ姫路というコンテンツを売っているのが株式会社姫路ヴィクトリーナですが、私たちはそういう考えとは少し違うんですね。あくまで株式会社姫路ヴィクトリーナは運営させてもらっているという立ち位置です。

――― ヴィクトリーナ姫路は株式会社姫路ヴィクトリーナだけでくくられるものではなく、姫路という地域のくくりの中にあるということでしょうか?

まさにおっしゃる通りです。私たちは多くの人に支えられています。スポンサー、後援会、ファン、行政、協会、そして子どもたち、本当に多くの人たちに支えられています。そういった地域のみなさんのヴィクトリーナ姫路を、我々が責任をもって運営させてもらっています。この位置に立つことで、プロスポーツチームは理念に基づいて運営することができると思うんですね。

――― なぜ理念に基づいて運営する必要があるんでしょうか?

ヴィクトリーナ姫路が地域のみなさんの元気や笑顔の源になっている、そこに自分たちが共感できるというのはプロスポーツチームを運営する組織にとってはとても大事です。営業が企画をするようになったり、営業、マーケ、管理本部、選手など全員で集客したり、いかにみんなが同じベクトルを持てるようになっていけるか。おそらくプロスポーツチームというのはそれがないと成り立っていかないですね。

――― 周囲を巻き込むこととは関連があるのでしょうか?

例えば、行政との関わりにおいても同じです。姫路に5000人を収容できる規模のアリーナを作っていただくのですが、市長とお話していることがあります。「姫路ヴィクトリーナだけでは2000から3000人くらいの集客になるから、残りの2000人を一緒に集めよう!」みたいな。想いを共有して周りの人たちと一緒に取り組む感じですね。

姫路だから感じた、ヴィクトリーナがすごくなる理由。

――― そうは言っても、想いを共有できないことも少なくないのではないでしょうか?対立構造というか、「お金を払うんだから見返りが欲しい」と考えられることもあると思います。

私が常に考えているのは向き合うんじゃなくて取り込ませていただくという、要は中に入ってきてもらう感覚です。

二部へ降格した後に姫路ヴィクトリーナの代表を引き受けたんですが、「ヴィクトリーナすごくなるな」という思いにさせられるエピソードがありました。通常は降格するとスポンサーさんから減額とか打ち切りと言われることが多いんですけど、ほとんどなかったんですね。

――― そうなんですか?!

びっくりしましたね。大口のスポンサーさんだと何千万という契約をしていることもありますし、二部に落ちたら半額って契約書に書いてるところもあるんですけど。

「いや、落ちるはずなかって、予算取ってるからもうええわ。これ使えよ!」

と言ってくださるスポンサーさんもいて。やっぱり期待してくれているんだ、と。想いが伝わると動いてくれるのがこの地域かなっていう気はしますよね。今まで経験したことのないようなことが起きていますね。

――― その背景にはどういったものがあるんでしょうか?

ダントツで地域のみなさんに応援してもらえているのがあると思います。市長が応援してくれていますし、オーナーの真鍋さん自身も地元っていうのもあります。まだまだですけど、地域の活気や元気が出て、「おらが町のチーム」という雰囲気はこの8年間でベースができました。あと、お祭りがすごく好きなんですよね、神輿担ぎみたいな。そういう土壌はあります。

――― お祭りでヴィクトリーナ姫路という神輿を地域みんなで担いでいる感覚に近いんでしょうか?

そうですね。400社のスポンサーや後援会さんからの「頑張れ姫路」「頑張れヴィクトリーナ」なんていう声を受けながらやっています。

これがプロスポーツチーム運営の本来のあり方で、本当に冗談ではなくて、こういうヴィクトリーナ姫路が日本一になることがバレーボール業界を変えると思っています。代表を受けた要因っていうのは、それを達成したいという思いが強かったからですね。

ヴィクトリーナ姫路の想いの正体。

――― ヴィクトリーナ姫路は歴史が長いというほどではないかと思うんですが、どうして地域に受け入れられるようになったんでしょうか?

期待感ですね。8年前に竹下さん(元日本代表選手)が監督になって、地域リーグからV2、V1と上がっていったのは大きいと思います。これからもっと上に行くんじゃないかって期待感があって注目を集めたのはあると思います。

ただ、V1に上がっても12チーム中11位、10位、12位と振るわず、ついに入れ替え戦でV2に降格しました。そうしたら、「ええ加減にせえよ」って。勝利に飢えているというか、スポンサー効果というよりも応援・期待に応えて欲しいというのはあるのかもしれませんね。一番難しいんですけど(笑)。

――― 新リーグのSVリーグでヴィクトリーナ姫路がどのような立ち位置になっていくかがスポンサー様の満足においても重要になってくるのでしょうか?

そうですね。ベスト4になるとファイナルをホームでできることもありますし、監督、選手、チームスタッフ全員で同じベクトルで動いているんで今年は楽しみです。すごくね。

スポンサーさんからもすごく期待されているのを感じます。

――― プレッシャーがあるのかもしれませんが、それは楽しみですね。

プレッシャー(期待)を楽しみに変えることができないと、この仕事ってできないですよ(笑)。

――― ちなみに地域からの期待は強さだけから来るものなのでしょうか?ヴィクトリーナ姫路のことを知っているだけの方もいるように思います。

おっしゃる通りです。本当にこの仕事の難しいところです。どう認知をさせていくのか、来てもらうかっていうことですけど、それはもう辛抱強くやるしかないかなと思うんですね。どのタイミングで足を運んでくれるようになるのかは分からないので。

だから選手たちはオフシーズンにできる限りイベントへ参加します。またヴィクトリーナ姫路のセカンドチームとして「ヴィアーレ兵庫」があって、地域貢献部隊として学校訪問やイベントなどの地域活動をするようにしています。時間はかかりますが、直接触れ合うことで応援に来てくれるようになるんですね。

――― 草の根活動をしているお話をうかがっていると、やはり地域に根差していることがよくわかります。今後も取り組もうとされていることはあるのでしょうか?

バレーボールをする地域の受け皿になるということも考えて、アカデミー事業を立ち上げました。また、廃校の跡地利用を通じて姫路のスポーツの拠点を作ろうとも考えています。姫路にある女子バスケットボールチームの姫路イーグレッツや女子サッカーチームのASハリマアルビオンとの3チームで一緒になって取り組んでいくことでスポーツを通した地域の交流を生み出せたらいいよねって、3~5年先をイメージして話しているような感じです。

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【PROFILE】

上原光徳(うえはらみつのり)

愛媛県出身。大阪エヴェッサの親会社であるヒューマングループで広告宣伝等の統括を経て、bjリーグ創設時に代表取締役社長として大阪エヴェッサを立ち上げる。その後、西宮ストークスの代表取締役社長も歴任。2021年より経営戦略アドバイザーとして、株式会社姫路ヴィクトリーナに参画し、2023年6月より株式会社姫路ヴィクトリーナの代表取締役社長へ就任。

趣味はビートルズのCD収集。小さなころになかなか集めるのが難しかったCDを古いレコード屋さんで探し出すのが楽しみのひとつ。



 

第1位

第2位

第3位

第4位

第5位

設立年月 2016年03月
代表者 上原 光徳
従業員数 18名
業務内容

プロバレーボールチームの運営、アスリートのマネジメント

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