前回は陸上のゴールについて解説しました。
今回はスタートに関する「フライング」について解説します。
だれもが一度は「フライング失格」という言葉を聞いた事があると思います。
陸上競技の大会では、何秒以内のスタートがフライングと判定されるのかあなたはご存知ですか?
また、公正なレースの為に設けられているフライングのルールは、選手が全力を出す妨げになっている可能性がある事をご存知ですか?
フライングについての理解を深め、いかに選手が0.1秒の世界で戦っているかを実感しましょう!
陸上競技における不正スタート(フライング)とは、スタート合図から0.1秒以内に体が動いてしまう事です。
フライングという言葉は、フライングスタートの略称で、英語では「False Start(=不正出発)」といいます。
現在ではフライングをすると一発で退場というルールですが、フライングに関するルールは今までに何度か改正されています。
2002年までの陸上競技では、同一選手の2度目のフライングが失格対象でした。
1度目のフライングは審判に警告されるのみで、2回目のフライングから失格ということです。
しかし、次第に駆け引きとしてフライングを使う選手が出るようになったため、2003年に2度目のフライングが起こったらその組の選手全員が失格という厳しいルールに改正されました。
抗議の声があがったため、国際陸連(IFFA)は、2010年にフライングに関するルールを再び改正し、そのルールが今も適用されている、「1回フライングをしたらその選手が失格」というルールです。
フライングで一発失格になるというこのルール改正は、競技時間を短縮し、時間内にテレビ中継を終わらせるというスポンサーの都合を優先させたと考えられ、選手よりスポンサーを取ったものだと批判されています。
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オリンピックでも、1回目のフライングで失格になるルールが採用されています。
フライング発見の為に、スタートの合図から0.1秒以内にスターティングブロックに力が加わるとセンサーが反応するピストルと連動した不正スタート発見装置が使用されています。
圧力センサーが反応すれば「音を聞く前にスタートした」と判断され、フライングとなり、失格になります。
なぜフライングの反応速度基準は「0.1秒」なのでしょうか。
これは、人間が音を聞いて体を動かすまで最低でも0.1秒はかかるという医学的根拠から成り立っています。
医学的には、人間が外的刺激を感知し、大脳が判断して、身体が反応するのに最低でも0.1秒はかかるといわれてきました。
しかし近年、研究により人間は同じ刺激を繰り返し受けていると、情報が大脳までいく前に小脳で反応して身体を動かす事が出来ると検証されました。
よって、反応時間は短縮できるということになります。
何度もスタートの練習を繰り返し、0.1秒以内に反応できる陸上選手の存在の可能性が浮上しています。
しかし、検証は統計に過ぎず、基準を変えるための理論的裏付けが必要なのですが、身体を動かすための信号は極めて微弱で、動きを伴った状態では計測出来ないそうです。
そのため、今でもフライングの基準は0.1秒になっています。
フライング一発失格は実際あるのでしょうか。
2011年に韓国の大邱で行われた陸上世界選手権の男子100m決勝でフライング失格がありました。
失格になったのは、「人類最速のスプリンター」と評されているウサイン・ボルト選手です。
2010年に1回のフライングで失格というルール改正が行われてから早い時期であったため、フライングでの一発失格に世界が衝撃を受けました。
2017年に行われたダイヤモンドリーグ上海大会の男子100mでもフライング失格がありました。
失格になったのは桐生祥秀選手です。
「ちょっと早まったかな。スタートでまさか失格するとは思ってなかった」と悔しがりました。
桐生選手自身の感覚ではぴったりなスタートだったそうです。
2020年に行われた日本室内選手権の男子60m障害決勝でフライング失格がありました。
日本室内選手権はワールドランクに関わるポイントを多く獲得出来る大会の一つです。
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失格になったのは金井大旺選手です。
日本室内選手権での金井選手のスタートの反応(リアクションタイム)は0.099秒でした。
金井選手は、2019年の日本選手権でも同じく0.099秒の反応でフライング一発失格になりました。
今回はフライングについて詳しく解説しました。
「0.001秒でも速く」という選手が全力を出し切れなくなってしまっているのではないかという意見もあります。
これから陸上競技の大会を見るとき、スタートにも注目してみてください。
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