周りに決めつけられた世界から適応世界へ。アダプティブワールドの挑戦

NPO法人アダプティブワールド理事長 齊藤直

周りに決めつけられた世界から適応世界へ。アダプティブワールドの挑戦

NPO法人アダプティブワールド理事長 齊藤直

「障害者スポーツ指導」

あなたはどんなイメージを持っているでしょうか。特別な資格が必要?指導側が気を使って、楽しませなきゃいけない?

その答えは、全て「NO」です。

今回、スポジョバがお話を伺ったのは、国内で唯一無二の、障害者専門のスポーツ指導のプロ集団「NPO法人アダプティブワールド」の理事長を務める齊藤直さん(41歳)。パラリンピックが注目を浴びる一方で、未だ本当の意味で障害者スポーツの裾野は広がっていないと齊藤さんは話します。20年以上、障害者スポーツ指導に携わってきた齊藤さんが感じた現場のリアル、更には、目指す「アダプティブワールド」その思いにも迫ります。

(取材・構成=荻野仁美)


大人気!個別指導教室。ひとりひとりに合わせたプログラム

ーーアダプティブワールドのHPを見ると、各教室の様子がブログで見られるのですが、とても楽しそうです!夏はラフティング教室もやっているんですね!

齊藤:はい。季節の教室、色々とあるのですが、12月~3月はスキーもやっています。僕が障害のある子たちにスキーを教えたくてアダプティブワールドをスタートしたっていうのがあるのでシーズン中はよくやっていますね。後、一年中動いているのが個別指導教室で、めちゃくちゃ人気ですね。

ーー個別教室の内容って具体的にどんなことをするんですか?

齊藤:すごく沢山ありますよ。0から自転車練習する子もいれば、縄跳びする子もいる。最も多いのが水泳とマラソンですね。個別指導教室では僕たちがゴール設定をしていくので、例えば「親子で海で泳げるようになりたいからプール教えて下さい。」とか、わかりやすいゴールがある方もいらっしゃるんですけど、殆どが「何かさせたいんですけど先生お願いします!」っていう方ですね。じゃあ今はまだ走れないですけど1年間練習してマラソン大会出てみましょうとか、水泳記録会に出てみましょうとか。その目標から逆算してプランニングして行きます。

ーーまさに、ひとりひとりに合わせたプログラム作りからスタートするんですね。

齊藤:もっと言うと、親御さんと相談するんですけど、ロッカーを使えるようにっていうのもプログラムに入っていたりします。1人でロッカーが使えるようになると市民プールも1人で行けるようになる。でもずっと介助者が必要な状態だと障害者スポーツセンターしか使えない。その子が大人になって生活していく上で、そういう世の中のルールを覚えていく事がすごく大事。なので、お願いしますって言われた時には、お着替えとかロッカーの使い方も全部レッスン時間に含みます。過度なお手伝いはしないし、声掛けでここまで出来るようになりました、とかそういう事もプログラムしていきます。

ーーなるほど!単にスポーツを教えるだけでなく、社会生活を営む上で大切なスキルもスポーツを通して身につけて行くんですね。

齊藤:障害がある子たちには、自己コントロールとか協調性とかそういう事を覚えるのにスポーツって、とっても良いんですよ。僕は「永続的にやる必要があるマストなもの」って言っているんですけど、マストな物が何かをきっかけに止めるのってよくない。その為に、常に次のステップを作っていくんです。






自ら扉を開けていく。世界が変わる瞬間

ーー長年、障害者スポーツ指導に携わってきた齊藤さんが、現場で楽しさを感じる時ってどんな時でしょうか?

齊藤:こういう風に教えたらこう出来るんだとか、こういう風に対応するとうちの子こうなるんだみたいな、そういうのがわかった時の親御さんのキラっとする感じは違いますね。学校や病院の先生に○○君はそういう事出来ませんって言われると、もう疑いなく出来ませんって世界に入っちゃうんです。でも道具の使い方や指導方法を変えると出来る事っていっぱいあるんです。出来ないって思い込んでいた親御さんが、うちの教室に来て、出来た!が増えると、それだけで喜んでくださるのは勿論なのですが、じゃああんな事は出来ますか?こんな事は出来ますか?って、出来る方の世界を親御さんが開け始めるんですよ。それは指導側のこちらもすごく楽しいですね!

ーー世界が広がる瞬間ですね。それは、すごくやりがいがありそう!

齊藤:うちは、やっていくとパラリンピックに出るような選手を育てるっていうわけではないんです。障害がある子が生まれて、この子と一緒にスポーツを楽しめるとは思ってなかったっていう利用者の声が多いんです。例えば、個別指導教室の生徒さんと出る水泳大会で、親御さんとのミックスクラスとかもあるんですよ。一走目お子さん、二走目お父さん、三走目が他の生徒さんで、四走目コーチみたいな。お父さんが自分の子どもと一緒にスポーツを楽しめる。そういう場って障害のある子の親御さんってほとんどないんですよ。だからすごく喜んで頂けますね。

ーー生徒さんご本人はいかがですか?

齊藤:ひとつひとつ教えていく事で全く出来ないってところにいた子が出来る様になった時。子供ってすぐに世界が変われるんですよ。スキー滑れたら、すぐに「俺、スキー滑れる!」ってなるんです。親御さんの方が「え、何で?何で滑れるんですか?」って聞いてきたり(笑)世界が変われた子たちは見てて面白いですね。

ーー立ち上げて18年、障害者スポーツが置かれる環境は変わってきましたか?

齊藤:パラリンピックが広まって障害者スポーツが見られるようにはなってきたけれど、障害がある子たちがスポーツ出来る環境が広まったかっていうと広まっていないのが事実です。僕たちも、教える側を増やそうとしていますが、どうしても集団指導が難しいので。教える側の数が増えれば増えるほど、教わる側の数が増えますよね。





特別な資格は必要ない。大切なのは人と話す力

ーーそんな背景があって今回、指導者を募集していますが、どんな方が向いていますか?

齊藤:人と接するのが好きな人ですね。僕たちが指導するのは障害児ですけど、その前に人間なので、それぞれに感情があって、思いや願いもあって。だから人と話すのが好きっていうのは大切なポイントですね。目と目を合わせて、しゃがんでその子と話が出来る人。

ーーどんな指導にも必要な根本的なスキルとも言えますね!特別な資格は必要ないって事ですね。

齊藤:そうですね。「今日、○○君こんな事が出来て、あんな事したんですよ!」って、親御さんに話すコミュニケーションスキルは大事になってきます。人と話すのが好き、人と接するのが好きって人、大歓迎です。僕がっていうより、子供達と親御さんが大歓迎です。

ーー指導をする上で、これだけは覚えておいて欲しい!って事はありますか?

齊藤:嘘がつけない子達なので、指導が嫌だったら嫌って言うんです(笑)だから、こちらも傷つく時は傷つく。でもそういった中でやっていくので、指導力は確実に身につきます。傷つくかもしれないけれど、そういう時に、今、何がいけなかったのか、どうしたら違うアプローチが出来るのかっていうのを能動的に学びに行ける人で、将来、教師やインストラクターになりたいと思っている人には、これ以上ない学びの場になると思います。

ーーなるほど!指導力はかなり身につきそうです。健常児との指導の違いはいかがでしょうか。

齊藤:そうですね。例えばスキーのハの字で滑る指導方法って身につけたら、みんなに使えるじゃないですか。でもそれは障害児の場合、使える子と使えない子がいて、ほとんどの場合使えない。その子に応じて組み立て直すっていう事が必要になってきます。

ーークリエイティブかつ発想力が必要ですね。でも、きっとそこが楽しいんでしょうね!

齊藤:はい!新しい事を学び続けるとか、自分で指導を考えられるとか、自分で考えた指導が伝わって喜びを感じられるとか、そこに楽しみを感じられる人が向いていますね。全く出来ない子たちを自分で工夫しながら、ああじゃないこうじゃないってしながら、0から1の所に持って行ける所に喜びを持てる人ですね。





「目指すのは最後の1ピース」アダプティブワールドへ

ーーアダプティブワールドという名前に込めた思いを教えて下さい。

齊藤:アダプティブって形容詞で、適応するとか適合する、順応するって意味があるんでですけど、形でいうとパズルの最後の1ピースみたいにイメージしているんです。健常者社会が良かれと思って作ったものって沢山あって、障害者社会がこういう風にして欲しいんだよって思っているものもいっぱいあって。でも色んなものが、ちぐはぐなんですよね。それは18年前も今も一緒で。僕らが、最後ぱちんっとパズルの様にハマる事によって、双方がうまく行き来出来るようにって思って。そういう世界が広がったらいいなと思っています。

ーー少しはその世界の実現に近づいているでしょうか。

齊藤:僕たちが直接指導出来るのは年間1000人~1500人くらいが限界なんですけど、学校の先生に指導方法をお伝えして、先生たちがうちのメソッドを出来るようになったら、その生徒側は一気に5000人、1万人って増えて行く。そういう事をどんどんやっていきたいですね!

ーー今後、新しい取組みは考えていますか?

齊藤:今はまだ僕たちが自力でやっているだけなんですけど、スキー場とかスポーツセンターとか健常者が利用している施設の障害者部門をアダプティブワールドがオペレーションするとかですかね。例えばスポーツパークの中に、障害者○○とかあったら何か面白そうじゃないですか?そういった行きたいな!って思える展開作りはしていきたいですね。

ーー街中に溶け込んだ、より身近な施設のイメージですね!素敵です!

齊藤:そうです!一緒にやってくれる仲間が増えれば増えるほど、現場で指導できる数も増えますし、学校や施設の中に入っていければもっと増える。その為に仲間たちを求めています!




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【PROFILE】

齊藤直(さいとう・なお)

1979年生まれ。東京都練馬区出身。日本体育大学卒業。大学時代、アメリカに留学して障害者スポーツを学び、帰国後の2002年に「アダプティブワールド」を仲間たちと立ち上げる。3年間の任意団体活動を経て、2005年にNPO法人化。現在は、特別支援学校での指導法指導や、講演・講義活動も精力的に行っている。趣味は釣り。好きすぎて船舶免許も取得。今までの釣果で一番の大物は、87cmのブリ。





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