『水辺の遊び』というと、皆さんはどんな光景を思い浮かべるでしょうか。サーフィンやセーリングなどのマリンスポーツ、家族や友人と楽しむ釣り、あるいは川や海辺でのバーベキューやピクニック。いずれの体験も自然と一体になり、リラックスできる貴重な時間です。
そんな水辺の時間をもっと自由に、誰もが安心して楽しめる水上体験を提案しているのが、日本国内総代理店として足漕ぎカヤックなどを扱う株式会社アミューズの【HOBIE(ホビー)プロジェクト】。HOBIEを通じて、従来のマリンスポーツ市場にとどまらず、より幅広い層に水辺の楽しさを伝えたい。さらに地域の資産の再発見やそのPRを通じて地域活性化にも繋げていきたい――そんな想いから新たなプロジェクトを立ち上げたのが、株式会社アミューズの沼野陽人さんです。沼野さんが長年マリン業界に携わってきた確かな経験をもとに、このプロジェクトにかける想いと見据える未来について、お話を伺いました。
(取材・執筆:斎藤 僚子、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
マリン業界に携わって20年以上になるという沼野さん。大学時代にセーリングと出会い、ヨットで風に乗って海を進む爽快感や自然の力に触れ、その魅力に引き込まれたそうです。
「マリンスポーツを始めたきっかけは大学でヨット部に入ったことでした。そのときに初めて風に乗って水の上で遊べる楽しさ、それと同時に風の力の凄さや海の怖さなども知りました。大学卒業後は6年間商社に勤務しサラリーマン生活を送っていましたが、1年目に初めて自分で小さなヨットを買いました。ヨットをどこに保管しようかと考えていたところ、逗子の海岸に、舟の保管に環境の良いヨットクラブを見つけ、ヨットを保管しクラブメンバーとなりました。先輩や友人たちにも一緒にヨットをやらないかと声をかけたところ、だんだんと仲間が増えてきまして、その様子を見ていた当時のクラブマネージャーから、『一緒にクラブの運営をしてみないか』と誘われたんです。そのときはまだ会社に勤め始めたばかりでしたので、なかなか考えられなかったのですが、機会をみて29歳のときに3000人ほどの社員がいる会社から小さなヨットクラブに転職をしました。
ヨットクラブでは会員制の組織を作りスクールを開いたり舟のレンタルや販売などを行ったりしていました。また、まずは『乗ってみたい』と思う人に体験してもらう機会なども作っていました。日本では、自由にヨットに乗れる場所が限られているため、ある程度指導を受けて乗れるようになった方にはクラブに所属していただき、長く楽しんでもらえるような仕組みづくりをしていました。」
マリンスポーツの聖地、湘南で新たなスタートを切った沼野さん。非常に大きな決断をされたように感じます。そんな中で沼野さんが当時の日本のマーケティング事情を踏まえ、より手頃に楽しめる舟を探していたところに出会ったのが、HOBIEだったといいます。
「その頃、日本では小さな舟をつくるビルダー(造船を専門とした職人や業者)さんたちが減ってきてしまったタイミングでした。大型や輸出用なら作る業者さんはあったものの、舟は海外から輸入するのが主流となっていました。そんな中でも、小さくて手軽に買えるような舟がないかと探していたところ、たまたまHOBIEというブランドがまさに探していたような舟を発表したんです。しかしHOBIEというアメリカのブランドは知ってはいたものの、当時はそこまで注目していませんでした。ところがある日、クラブメンバーさんとのセーリングツアーのための下見に出たところ、ビーチに見たことない舟が置いてあったんです。『この舟はなんだろう?いいな』と思ったそれがHOBIEの新商品でした。
周辺の人から近くのショップの人が輸入している舟だと教えてもらうと、早速話を聞きに行きました。これなら、今まで僕が教えてきた生徒さんたちにも満足してもらえるのではないかと思って、きちんと輸入の登録をしようと相談を持ちかけました。その後、正式にHOBIEと交渉をして輸入販売する権利を取得しました。僕はHOBIEを売ったり広めたりすることをしたかったので、権利は取り扱っていたショップの方に得てもらって販売促進は僕がやるという風に始まりました。」
こうしてHOBIEを取り入れる先駆けとなった沼野さん。ヨットだけでなくカヤックの普及にも力を注いでいきます。そして、興味を持ってHOBIEを求めてくれる人たち以外にも、その魅力を伝えていきたいと思うようになったといいます。
「HOBIEに興味を持って買いに来てくれる人は日本中にいたものの、『まだ見たことがない人にも届けなければ広まらない』と感じたんです。それなら、自分から見せに行こう——そう考えて、HOBIEだけを携えて日本中を巡る準備を始めました。そのようなところにエンターテイメント企業の当時アミューズの会長である大里から突然の電話がありました。大里も、HOBIEに魅力を感じていて、その良さをもっと世の中に普及できるのではないかと考えていたそうです。そして『HOBIEをマリン業界の中だけでなくそれ以外の層に広めることを追求していくべきだ』とおっしゃったんですね。
それは僕も同じで、まさにこれからやろうとしていることだと伝えると、『それならアミューズと一緒にスピード感を持って日本中に広めないか』と提案されたんです。とはいえ、まったく違う業界でしたので一旦時間をかけて考えました。でも、アミューズが長年のエンタメ事業で培ったノウハウを活かし、既存の枠にとらわれず新たに一から何かを作り上げようとしているというその想いを聞いて、『それって、自分が目指していることと同じだな』と感じたんです。なので、自分も一緒に挑戦してみようという気持ちになり『やります』と答えました。」
沼野さんがプロデュースするHOBIEプロジェクトは、水の上での過ごし方に、新しい価値観を提案しています。「遊び方は人それぞれ」そう語る沼野さんは、“水辺=アクティブ”という固定観念から離れ、もっと自由で、自分らしい水辺の楽しみ方があるということを伝えたいと話します。
「まず僕が一番に思っていることは、『水辺の遊び=マリンスポーツやアクティビティ』というイメージを変えていきたい、ということです。アクティビティと表現すると『僕はそこまでアクティブじゃないんです』という人も結構いるんですよね。旅に出ても、ハードに動くより『その先でゆっくり過ごしたい』何もせずのんびりしたい』という人もたくさんいます。僕はそんな人たちからも『HOBIEっていいよね』と言われるようにしたいんです。そうした層に届けば、HOBIEの間口も自然と広がって、市場自体も少しずつ拡大していけると思っています。
遊び方はたくさんあって人それぞれ。舟の上でただゴロゴロしてもいいし、ちょっとした移動手段として使ってもいい。自然を観察したり、食事をしたり読書をしたり…本当は水の上でも色々なことができるはずなのに、多くの人は『水の上ではそういうことはしてはいけない』と思い込んでいたり、そもそも発想がなかったりします。僕はただ、そんな“水の上での自由な過ごし方”を教えたいんです。そしてそれがHOBIEを使えばできるよ、ということを伝えたいんです。」
HOBIEは様々な水の上での時間を創り出すツールとしての魅力だけでなく、地域課題を解決する新たな切り口も担っています。現在、日本各地でHOBIEを利用できるベースが誕生しており、地域の魅力を引き出す“場”としても活用されています。
「日本各地の水辺には、それぞれ異なる魅力があります。これはアミューズの本社がある山梨県・西湖にベースをつくったときにわかったことですが、湘南の一等地から比べるとはるかに人は少ないけれども地域資産としてはとても価値がある地域だなと思いました。例えば、湖は海と違って波も少ないので水際まで来てくれる人が多くHOBIEのような道具にも自然と目が向きやすいんです。また、海は風や天候の影響を受けて波が高くなるとやむを得ないこともありますが、湖は風の影響を受けにくいので乗れない日があまりありません。このように地域にある資産のいいところを発信し続けることで、それを体験してみたいという人は徐々に出てきています。
西湖では当初、集客に苦労しましたが、地方でも水があるところだったら西湖と同じレベルまでは人を呼べるのではないかと思います。よく地方で『うちの地域なんて富士山も見えないし何もないんです』なんて言われたりするのですが、実際に探しに行ってみると地元の人たちは意外と気づいていない資産が結構あったりするんです。そこを提案してみると、それにまつわる昔話や伝承などが出てきたりするので、そういった話と結びつけて観光に繋げていく。そんな提案を今各地でしているような感じですね。」
地域には、地元の活性化のような観光的な側面以外にも様々な課題があるといわれています。沼野さんはその課題解決のひとつとして、HOBIEを使われていない水辺に導入できないか、そして日頃遊びに使うHOBIEを有事の際に活用することができないかという可能性を模索してきたと話します。
「例えば、海が近い湾岸地域には『防災桟橋』というものがあるんですね。しかし地域の方はその防災桟橋のことをよく知らない人も多く、古くてちょっと怖いイメージがあったりするところもあります。そんなふうに一般の方に知られていない防災桟橋を活用して何か活動ができないか――そう考えたのが取り組みのきっかけでした。そこで普段は遊びに使っている道具を、有事の際の救助や自助活動に役立てることができないかと提案したところ、ある地域で受け入れてもらうことができました。さらに平時はその桟橋をHOBIEのベースとして使わせてもらえることになりました。このように色々な提案や取り組みをする中で、HOBIEの安全性や、救助・物資運搬にも活用できる利点が認められ、警察や行政と協定を組んで活動できるようになってきました。
当初は全くタッチポイントではなかったところにもアプローチができているので、観光の問題とはまた別の地域課題の解決のためにHOBIEの活躍の場を見出せているのかなと思います。」
さまざまな可能性が期待できるHOBIE。お話を伺う中で、その多様性に何度も驚かされました。沼野さんは都市部や地方関係なくその地域ならではのHOBIEの使い方を楽しんでもらうことが理想だと話します。
「HOBIEでは、“ユニバーサルフロート”というコンセプトを掲げています。赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまで、また水さえあればどんな地域や場所でも、とにかく幅広い層にその地域ならではの“ミズアソビ”を楽しんでもらっている状態が理想です。
また、これはこの先にやってみたいことではあるのですが、子どもたちの学童のような感覚でキッズクラブを作って学校が終わったら水の上で遊ぶ——なんてこともできたらいいなと思っています。防災桟橋に子ども達が集まってHOBIEが出ていく。人が集まれば自然とその周りにはカフェなどができたりして、ちょっと暗いイメージだった桟橋が賑やかな場所になったりするかもしれません。こうしてHOBIEベースの周りから賑わいが生まれて、まちづくりにも繋げられたらいいなとも思います。そして、日本中にHOBIEベースというみんなが憩うことができる場をつくり、お互いの地域のいいところを紹介しあったり意見交換ができたりする場にもしていきたいですね。」
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【PROFILE】
沼野 陽人
大学時代からヨットを始め、インストラクターからクラブマネジメントを20年ほど務める。現在は株式会社アミューズにてHOBIEプロジェクトの統括者として、HOBIEの“ミズアソビ”の魅力を通じて、もっと自由に、もっと自分らしく過ごせる時間を提案している。
設立年月 | 1978年10月 | |
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代表者 | 大里 洋吉 | |
従業員数 | 346(グループ全体:637名) | |
業務内容 | ◆レーベル
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