「周りのプレイヤーに比べ、自分はそこまでスキルがない」
「どれだけ一生懸命頑張っても、おそらくプロにはなれないだろう」
スポーツに携わってきた方であれば、一度や二度、その夢と現実の壁にぶつかった経験があるでしょう。大切なのはその後。もう一踏ん張りするか、別の道を行くか。
「選手を4年間プレーして終わるのが、とにかく寂しかったんです」
こう語るのは『ジェフユナイテッド市原・千葉(Jリーグ)』にて、現在アカデミーフィジカルコーチとして活躍する加藤裕氏。元々はサッカーの指導者を目指していたという彼が、フィジカルコーチという道を選んだ理由は、ただ単純に「サッカーに携わり続けたい」という強い気持ちからでした。
「好きだからこそ良くしたい」
フィジカルコーチの仕事をはじめて約9年。第一線で活躍する中で見えてきた業界の課題感とは。その課題を解決するために起こすアクションとは……?
(取材:構成=スポジョバ編集部 小林亘)
__加藤さん発案のもと、フィジカルコーチのインターンを募集されるなどの活動をされたと伺っています。その背景についてまずは聞かせてください。
加藤:サッカー界のフィジカルコーチという仕事は、どちらかと言うと閉鎖的だなと個人的に感じています。きっとなりたい人はいると思うんですけれど、どうやったらなれるのかわからないとか、なってみたけど、実は思っていたのと違うとか。
僕自身はたまたまフィジカルコーチとして働いてますが、学生時代にはどうやってフィジカルコーチになったらよいのかよく分からなかった。その入り口が昔から不思議だなと思っていた。また実際なってみても思っていたのと違うとか。求められることと、自分のやりたいことが違うとか。メディカルの知識はあるけど、フィジカルコーチとしての業務が出来ず、「こんなはずじゃなかった」となる人もいる。だから、あまり情報が表に出ていないからこそ、「やってみたい!」と手を上げてくれる人に向けて、インターンとして現場を見てもらう事がまず重要だと感じて、取り組みを始めたという経緯です。
__閉鎖的、というお話がありましたが、ほかのスポーツでトレーナーやコーチをしていた人がサッカー界に入るケースはいかがです?
加藤:サッカー界は実はそれがあんまりないんですよ。サッカー界の中で動くことがほとんどなんです。結構、サッカーのフィジカルコーチって、かなり競技に入っていく役割が多いので、監督とセットでチームを移籍するケースが多いんです。そのような形で、業界の中でフィジカルコーチが回ってるような現状があるんです。
ただ、当然人ですから、歳を重ねていくわけで、若い人が入らないとクラブは運営できなくなってしまうかもしれませんし、もっと言えば若い人が入って新しい知見を、これまで培ってきたベテランの方々と掛け合わせていくことで、新しい気づきが生まれるんじゃないかなとも思っているんです。だからこそ、今の状態を切り崩したいという想いもあって、インターンの採用を始めたのもありますね。
__加藤さんがインターンに力を入れられている理由が凄くリアルですね。一方で、100-0ではないと思うのですが、それこそ「パーソナルトレーナーやっててサッカー界でフィジカルコーチしたい!」と、リアルタイムで考えている方は、何からアクションするのが良いんですか?
加藤:閉鎖的とはいえ、結構手を上げてくれる方には開放的なんですよ。今はwithコロナ時代なので難しいかもしれませんが「コーチの仕事を見学したい」「実際に体験したい」って、問合せフォームから連絡したら、意外と「いいですよ」って言ってくれることも少なくないですし、あわよくばピッチレベルで体験できたりもするんです。
実際僕も大学のとき『横浜FC』のインターンに行かせてもらったときは、普通に味スタ(味の素スタジアム)に入って、フィジカルコーチのサポートとして試合で一緒に動かせていただいた経験もあるので、自分から名乗り出てくれる人に対しては、チャンスをどんどん渡してくれるみたいな風土もあるので、そこはぜひ積極的にチャレンジするのがいいと思います。その経験から繋がりを作れたり、見て学べるので。
__積極的に手を上げた人、募集が無くても打開できるチャンスがある一方で、インターンと風呂敷を広げて多くの人にチャンスを与えたいという想いが、加藤さんは強いんですね。
加藤:サッカー界で活躍できるフィジカルコーチを増やすというミッションを掲げて取り組んでいるので、今インターンは学生だけですが、中途の方がダメということは一切ありません。フィジカルコーチの実際の仕事を近くで見て学べる環境を整えることができれば、たとえば他のクラブで「フィジカルコーチが欲しい」となった際に、ウチでインターンをしていた方に声をかけて送り込むことだって可能だと思うんです。
また、僕だけが見ているわけではなく、監督やコーチ、マネージャー、役職ある方もインターンを見ているんですよね。「あのインターンの子はこういう子だね。これが課題だけど伸びしろあるね」など声をかけてくださるので、存在を感じてもらいやすいわけです。結果、もし「そういう方がいるなら、ぜひウチで雇いたい」といった話になれば、クラブとしても求職者としてもメリットは大きいじゃないですか。そういう風に、閉鎖的なサッカー界が開放的になることで、活気づいていければいいなと、自分にできることから始めさせていただいてるんですよ。
次回(Vol.2)▶そこまで入り込む!?ただ単純にトレーニングを教えることだけが役割ではない!
※11/17(木)公開
【PROFILE】
加藤 裕 (かとう ゆたか)|ジェフユナイテッド市原・千葉(Jリーグ):アカデミーフィジカルコーチ
サッカーは小学校1年生から高校3年生までプレイ。東京学芸大学進学後、サッカー部に入部するものの、周りのレベルの高さを初め「自分はJリーガーになれるレベルではない」「4年間プレーして終わるのも寂しい」と考え、学生トレーナーとしてサッカーに関わり始める。その後、Jクラブに数多くのトレーナーを輩出している筑波大学院へ進学。修了間近な時期から『鹿児島ユナイテッドFC』に関わり始め、修了後はそのままチームのフィジカルコーチとして加入。鹿児島→長野→鹿児島→千葉という流れで現在に至る。現在はアンダーカテゴリのフィジカルコーチ。「もっとフィジカルコーチになりたい!という方に情報を表に出して行きたい」と自身がクラブに提案しインターンを募集するなど、コーチ業に留まらず活躍中だ。
娘さんが2人おり、休日は美容師さんごっこ、チョコレート屋さんごっこ等々「◯◯ごっこ」をして一緒に遊ぶのが日課。また、知人が尾道でコーヒーショップをされているそうで、そこからコーヒーを購入し飲み比べることも日々の楽しみだそう。当然、筋トレ大好きで毎日のルーティンに組み込まれているんだとか。
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