サッカーエージェントのリアル。Jリーガーのキャリア形成を支える、代理人としての"極意"とは

(株)イマージェント:代表取締役 馬淵 雄紀

サッカーエージェントのリアル。Jリーガーのキャリア形成を支える、代理人としての"極意"とは

(株)イマージェント:代表取締役 馬淵 雄紀

某日曜ドラマでも話題になった『代理人』という仕事。

選手の移籍先を探したり、怪我をした選手の契約をうまく取りまとめたり……。さまざまなシーンが取り上げられていたものの、一体これはどこまで真実なのでしょうか?

「すごく良い観点で作られてはいるとは思いますよ!ただ実際は……」と、プラスアルファして業界のリアルを、今回はサッカーエージェント兼弁護士として活動をされている、馬淵 雄紀(まぶち ゆうき)さんにインタビュー。

「エージェントってどんな仕事?」「マネジメント会社との違いは?」「業界のリアルを教えてほしい!」等々、さまざまな話をしてくださった馬淵さんのインタビュー。そして最後には、彼が弁護士資格を取得した背景についても語ってくれた。極めて稀な二足の草鞋を履くことを選んだ理由は、「◯◯を良くしたい」という強い気持ちでした。


(取材:構成=スポジョバ編集部 小林亘)


曖昧だからこそ明確に。エージェントとマネジメントの違い

__某日曜ドラマでも取り上げられていた仕事ですが、馬淵さんはエージェントさんですよね?まずはマネジメント会社との違いについて教えてください。





馬淵:それは明確です。

・エージェント……選手の競技に直結する契約をする人。選手と所属クラブ、球団との契約を交渉する。プラス、他クラブや他球団との移籍交渉など

・マネジメント……所属クラブや球団を除く第三者との契約をアレンジする人。雑誌やメディア、CMやTV出演をはじめ、パーソナルトレーナーや管理栄養士等、さらにはスポーツメーカー含め、選手が行う競技に関連して所属球団以外の契約を調整するなど

このように大きく異なります。もちろん個人種目か団体種目なのかであったり、競技によっても境目が変わってきたりもします。アスリート個人のマネジメント事務所だと、マネジメント会社だけどエージェント業のようなことも含めて行っているところもありますし。

ただ、サッカー界におけるものとしては僕の中の定義としては明確に持っていて、お伝えした通りです。とはいえサッカー界でも、選手や監督等の指導者がその区分けを全員理解しているか、と聞かれると、そこは難しい部分でもあるんです。


__仕事内容としては、具体的にどんなことをされるんですか?





馬淵:当社の場合はクライアントの上限をおおよそ40人程度って決めていて、今だと監督等の指導者含め35人とエージェント契約を結んでいます。その上で、クライアントの契約交渉、移籍交渉等がメインの業務になりますね。大きい話で行くと「海外に挑戦したい!」という選手がいたとして、今の所属クラブとの契約の取りまとめから海外のクラブへのセールス(海外のエージェントの選定含む)から、実際にオファーに発展した場合の交渉等々を行い、選手が海外挑戦できるよう諸々整えていく形です。

もちろん全員が全員、海外に行ける訳ではないので、あくまで客観的に見た、1人ひとりの選手の市場価値・評価を擦り合わせながら、希望する年俸交渉、契約更新、移籍等々のサポートをするのが、大まかな仕事ですね。あとは会社によって「ここまでやります!」みたいなところもありますけれど、当社はあくまでエージェントとしての機能だけ、と限定して、選手とは契約を結んでいます。


__35人のクライアントの1人ひとりの契約を見るって、結構大変では、、、?





馬淵:今の当社の体制だと、1人ひとりとしっかりコミュニケーションをとりながら選手を見ていくとなると、先ほどお話した人数が限界かな、とも思っているんです。どの仕事にも当てはまりますが、特にこの仕事のトラブルの元は、クライアントと上手くコミュニケーションが取れないことで、実際に業界でそのようなトラブルの話を聞くこともあります。ですから当社では、ちゃんとクライアント1人ひとりとしっかりコミュニケーションを取るために、アッパーを決めています

得点やアシストを決めた時はもちろん、記録には残らないけどいいプレーをした時、練習試合があった時の活躍具合や、怪我をしていればコンディションを聞いたりしたりとか。あとはクラブの強化部の方と話をして、現状の選手の評価や頑張り具合を聞いて「クラブはこう見てるよ」ってフィードバックしたりもする。場合によって踏み込む時は「ここをもっとこうしたら評価されるよ」って話もしたりします。コミュニケーションの取り方、言葉の選び方は選手のパーソナリティに合わせてチョイスしていますね。いずれにせよ、僕が選手とクラブの間の潤滑油になりたいですし、それがエージェントとしての役割かなとも思うんですよ。




エージェントの仕事を丁寧に話してくれた馬淵氏



エージェントは、選手だけでなくチームとの関係性も大切

__今までの話ですと「選手」が主語だったと思います。選手がよりよく評価されるように動く。ただ、それをサポートするためにはクラブ側とのコネクションの数もキーポイントかなと思うのですが、いかがでしょうか。





馬淵:それは間違いないです。やっぱり試合を見ていて、とあるクラブAに対して「ここのポジション弱いな」なんて感じることはあるんです。その時にクラブに対して「このポジションにこういう選手いたらもっと上手くいきませんか?」ってセールスしたりもします「やっぱそう思う?」「そうなんだよね」「誰か良い選手いる?」って話になってくると、選手を売り込みやすくなるので、仰る通りクラブとのリレーションは大切ですね。

強化部長との親密度によりますけれど、大体欲しいポジションまではある程度顔見知りになると教えてくれます。それを超えて更に入り込んで関係を作れると「1番手はどこどこの誰々で、2番手で当社の誰々」といった順番を教えてもらえたりもします。そこまで行けたら最強ですが、全クラブそうはなれないと思うので、できるだけ精度の高い生の情報を聞き出せるように上手く各クラブの強化部長さんたちとお付き合いさせていただくことが、大事だと思いますね。


__関係が密になってくれば「こういう選手いない?」って、クラブ側から聞かれたりすることもあるんじゃないですか?





馬淵:ありますね。それこそ怪我でFWいなくなってしまって「1枚足りなくて、馬淵さんとこ1人動かせない?」とかって確定的な選手が欲しいっていう連絡もあれば「動かせそうなボランチいない?」という情報収集のための電話も来ます。

もちろん業界に入りたての頃は「ウチにはこういう選手がいます!どうですか!?」という一方的な提案になってしまいますけれど、それが成熟していって双方向のコミュニケーションになると、かなり良い関係かなと思いますね。

その意味でもおおよそ40人程度っていうアッパーはありますけど、逆に言うと、スケールメリットで、それくらいの人数がいるからクラブから誰かいないか、と言う話にもなると思っています。当社は大型デパートまでにはなれないと思うのですが「あそこはいつも良い商品揃ってるよね」と言われるセレクトショップみたいな存在にはなりたいと思っています。だから40人っていうのは自分のためでもありながら、選手のためでもあると思っていますね。


__今の話でいくと「FWで動かせる人がいないなー」となってしまった場合は、どうされているんですか?





馬淵:「ウチは今いないんで、仕入れたら連絡します」のパターンか、「仲良いエージェントで情報回しておきます」のパターンか、もっと言えば「直近そういう話を誰々としていて、あの選手可能性あるって言ってましたよ」と伝えるパターンとかですね。お互いWin-Winになれるようにはしていて、そこから「馬淵さん、この前はありがとうございました」って、エージェント同士でも良い関係を作れるようにはしています。

当然コンペの相手には良くなるんだけれども、マインドとしては「日本のサッカー界をよくしたい」という同志であれば、情報のやりとりは積極的に、密にさせてもらってますね。


__ライバルでもあり協力者という関係が、すごく素敵です!ちなみにざっくりした質問で恐縮ですが、今ってエージェントさんはどれくらいの人数がいらっしゃるんですか?





馬淵:一応今、JFAのWEBサイトで「仲介人リスト」って出るんですが、通し番号だけで400人以上いるんです。来年に制度が変わるんですが、今の制度だとちょっとお金を払えば誰でも仲介人活動ってできるんですよね。

だから全員が全員活動をしているわけではないと思うのですが、新規選手を取りに行く競争が年々激化してきているんですよ。バッティングしてコンペに勝たないと新しい選手が取れない。その時に「業界で弁護士資格を持っててサポートしてくれる人っていないよ」と話した時に「すごいですね!」とはなるんですが、それで当社に決めてくれる選手って意外に少ないんです(笑)。あんまり弁護士資格があっても、特に若い選手は響かないので、コンペは色々考えながら話をしていますね。




(株)イマージェントと契約するクライアント(選手)の一覧 ※HPから一部抜粋



ほぼスカウト!?エージェントとして必要な要素

__今の話にも引き続きですが、良い選手を獲得する、つまり良いセレクトショップであり続けるために、馬淵さんがどんなアクションを起こされているかも教えてください。





馬淵:いやー難しい質問ですよね。僕としては良い事を言ってるつもりでも、刺さらない人には刺さらないじゃないですか(笑)。魔法の言葉があるわけではないですから、毎回毎回反省しながらですね。ただ、先ほどお伝えした通り、新しい選手を獲得しようと業界内での動きが活発化してきているんですよね。プロになってからの選手に声をかけるのでは遅いですし、大学生や、さらにアンダーカテゴリーの選手に声かけているくらいです。その子たちが成功するかしないかの保証が何もない時点で。


__ええ!?そんな早くから声かけているんですか!?





馬淵:昔はシーズンスタートのキャンプを見に行って「あの選手、今年メンバーに絡めそうかな」ってチェックして、トレーニングマッチで交代で出てたりして面白いと思ったらGO。提案して話つけてって感じで間に合ったんですけど、それじゃ今ではもう遅いので、同業者たちは大学や高校の部活とかに顔を出して監督に顔を売ったりしていますアンダー代表の獲得競争をしている人たちは、クラブユース選手権他アンダーカテゴリーの各大会を見に日本全国を行脚したり、世界大会を視察に海外を行く人たちもいます。それくらい競争は激化している状況です

とはいえさっきの話ではないですが、僕の場合は大学リーグを視察しながら、1〜2年生に最近では声をかけていて、声をかける選手も、当社のポジションバランスを見つつリクルートしていますね。


__ほぼほぼスカウトですね(笑)。仲介人(エージェント)という名前的にも、間に立っている人ってだけに見られがちかもなと思っていたので、今の話が聞けてよかったです!





馬淵:でもそういうところはあると思います!だからこそ、立ち位置は明確にしておかないといけないですね。マネジメント契約だけなのにエージェント的立ち回りをされる人もいますし、選手と契約しているはずなのに、クラブエージェント的立ち回りをされる人もいます。利益相反の観点から、本当に自分は何者でどの立場かを明らかにしないと

あくまでクラブとの友好関係を作った上で、選手側なら選手側のエージェントですと。クラブと話す中でも、自分のクライアントの要望をできるだけ反映できるように、契約をできる限りキレイにまとめて、狭い業界で継続的に契約は続いていくので遺恨を残さずに次に同じ状況になっても上手く交渉する余地を残す。かつ、多様なニーズに応えられるように多くの引き出しを用意しておく。それが良いエージェントなんじゃないかなと思いますね。


__チラッとお話にも上がりましたけど、馬淵さんは弁護士さんでもあるじゃないですか。この弁護士資格を持っているということは、あまり選手には刺さらないと言ってましたけれど、そもそもなぜ取ろうと思ったんですか?





馬淵:結論からお伝えすると「スポーツ選手の権利を守るなら弁護士資格取った方がいいな」と思ったからです。サッカー選手って、やっぱりJ1の選手であれば数千万円から数億円行く人がいて、小金持ちになれるんですよね。そうすると、色んな人が寄ってくるんですよ。結果、トラブルになっちゃうことが多くって。僕がまだ資格を持っていなかった頃の話ですけど、度々一般的な法律問題に巻き込まれる選手がいて、その際に相談されることが何回かあったんです

の時は当時働いていた法律事務所の上司とか他の先生にお願いをしていたんですけれど、その時に自分が資格を持っていれば人にお願いしなくても良いし、自分がその選手のことを良く知っているし、ワンストップでできるから、持っていたら便利ですし、いざという時に選手を助けてあげられるんじゃないかなと思って、(弁護士資格を)取ったところはありますね




サッカーエージェントにもさまざまな問題があり、その課題解決をしたいと語る馬淵氏



法律で、選手を守りたい

__それは素敵です。。。選手からしても本当にありがたいと思いますし。





馬淵:あとは選手も最近副業する選手が多くて。顧問弁護士じゃないけれども「こんなビジネスやってみたいと思っているんですが、気をつけることありますか?」って相談を受けた時に「ここが法律で問題になってくるから、この辺は気をつけた方がいいよ」って話たりするんですよね。それは選手の信頼を得る上でプラスだなと思います。

あとは先ほど少しお話ししたところですけれど、来年の2023年から、エージェント業務をするためには再びライセンスが必要になる予定なんです。2015年の規制緩和でライセンスがなくてもエージェントできるっていうのが現状なんですけれど、規制緩和したことによって様々な弊害が発生して、やっぱりライセンスはないとダメだよねってなって、現在FIFAが新ライセンス制度を作り直しているところです。そんな形で、制度って結構変わったりするので、だったら最初から弁護士になっておけば、少なくとも国内では誰にも何も言われないし信用も厚くなるだろうからと思って取った部分もありますね。


__弁護士という側面にフォーカスすると、サッカーの枠を超えて様々な競技に関わる活動も活発にされていますよね?





馬淵:そこは僕が弁護士になって自分の幅が広がった部分ですね。なかなか体育学部出身の弁護士も珍しく「スポーツに詳しい弁護士さん」ってことで推薦していただいて、様々な競技に関わる機会を得て、新しい世界を知ることができたのは嬉しかったですね。

少し前には代表選考で選ばれなかった某競技の選手の日本スポーツ仲裁機構への不服申立てをやったりとかもしました。最初は「サッカーのエージェントとしての信頼」「制度がどんなに変わってもエージェントとして活動を続けるため」「サッカー選手の権利保護」と思って弁護士資格を取った部分もあるんですが、今ではサッカー以外の選手のために、エージェント業とは違うけれども、弁護士としてもっと多くのスポーツに関われたら非常に嬉しいなと思います。


__業界で唯一と言っても過言ではない、エージェント兼弁護士。この二足の草鞋があればこそ、幅広い活動ができていると思いますが、馬淵さんの今後のビジョンについてもぜひ聞かせてください。





馬淵:まぁ、二足の草鞋を、スニーカーくらいにしていきたいなーと(笑)。でも嬉しいことに、先日某サイトで『日本のサッカーエージェント会社TOP10』みたいなのが発表されてて、当社が10位にランクインしていることを某クラブの強化部の方に知らされたんですよね。「何かの間違いじゃないかな?」とも思ったんですが、本当に書いてあったので、ありがたいなと思います。これからもクライアントの信頼関係を大切にしつつ、着実な会社運営をしていきたいです。

それから、エージェント業は非常に人気も増えてきて「やってみたい!」と手を挙げる方も非常に増えてきています。だからこそ、あまり法律とかルールをさることながら、職業倫理を理解せずに、例えば選手側のエージェントなのに、その選手の移籍に関して、選手に加えて双方のクラブからエージェントフィーをもらうようなことをしているエージェントもいて、FIFAが問題視しています。その辺りも含め、あくまで「サッカー界を良くする」という未来に向かって、これからも誠実に1人ひとりと向き合っていきたいと思います。





[上]:(株)イマージェントの企業ロゴ [下]:イマージェント法律事務所のロゴ






【PROFILE】

馬淵 雄紀|(株)イマージェント:代表取締役

1982年生まれ。愛知県出身。幼少期からサッカーをしており、筑波大学在学中に「自分はプロにはなれない」と感じたこと、また某TV番組で『サッカーの代理人』が取り上げられていたことを機に、筑波大学大学院を卒業後、法律事務所に就職しサッカーエージェントの仕事を始める。7年務めた後、FIFAのエージェントライセンス制度が廃止されると同時に、株式会社イマージェントを起業し独立。また、周りに弁護士が多かった影響もあったことや、スポーツ選手の権利を守る上で、自身が弁護士であった方がさまざまなメリットがあると考え司法試験を受け弁護士資格を取得。その後、Jリーグを中心にサッカーエージェントをする傍ら、弁護士としてサッカーはもちろん、サッカー以外のスポーツにおける法務を担うなど多角的に活動を続けている。

昨年9月から始めたフットゴルフに現在もドハマり中。少なくとも3ヶ月に一回はラウンドしているとのこと。ベストスコアは『64』。



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