スポーツツーリズム=スポーツの参加や観戦を目的とした旅行や、地域資源とスポーツを融合した観光を楽しむツーリズムスタイルの事。
ここ数年、スポーツビジネスの世界で多く語られるようになった言葉。まだまだ新しい言葉であるこのスポーツツーリズムを事業領域として掲げているのが「ルーツ・スポーツ・ジャパン」です。このスポーツツーリズムが、今とても可能性のある領域だと代表の中島さんは話します。一体、どんな所に将来性を感じているのか、根底にある「地域活性化」の熱い思いも伺いました。
(取材:構成=スポジョバ編集部 荻野仁美)
ーースポーツツーリズムとは、具体的にどんな事を行っているのでしょうか?
中島:弊社では主にスポーツツーリズムの中でも、サイクリングを活用した「サイクルツーリズム」をメインに取り組んでいます。今のところ一番多いのはサイクリング関連ですが、ランニングやアウトドアスポーツ全般も今後は増やしていきたいと考えています。基本的な考え方としては、サイクリングを楽しむ人達と日本の地方をうまく繋ぎこみ、「幸せなマッチング」を生み出す役割を担っています。サイクリストには楽しく自転車に乗る機会を増やし、更に単にレースやイベントに出るだけでなく、日本各地の観光資源、その土地ならではの魅力を自転車を通して感じてもらう事を目的としています。地方側の人たちにとっては、サイクリストが来てくれて、楽しんでくれて、その地域のファンが増えて、地域経済が潤う。両方にとっての幸せを提供したいと思っています。その手段のひとつとして、サイクルイベントなどを行っています。
ーーなるほど!そのアイディアはどこからやってきたのでしょう?
中島:前職で、海外の国際自転車ロードレースに関わったのが最初です。日本でいう渋谷、新宿みたいな場所を自転車が走って、沿道の人が声援を送ってくれる、東京マラソンみたいなイメージですね。それを都会じゃないところ、ものすごい田舎とか、羊がいるような草原とかでもやるんですけど、普段全く人がいない場所でも、自転車レースをやると黒山の人だかりが出来るんです。それを目の当たりのして、すごく面白いなと。自転車は地域活性化の親和性が高いスポーツだと感じて、これを日本でもやりたいと思いました。
ーーそんな思いから、2012年に主催事業「ツール・ド・ニッポン」を始められました。
中島:初年度は全5地域で開催しました。当時は名前も「ツール・ド・ニッポン」ではなかった。第1回の開催地、石川県加賀市では、温泉が有名な土地なのですが、「温泉ライダー」というタイトルのイベントを実施しました
ーー温泉ライダーですか!(笑)
中島:地域活性化が目的なので、自転車イベントだけじゃなく温泉も存分に楽しんで欲しい。そのためには「加賀市サイクルフェスティバル」じゃない。温泉というワードを全面に出したかったんです。このネーミングは僕らじゃなく、開催地の加賀市の皆さんのアイディアです。
ーー実際に、地域の方の反応はいかがでしたか。
中島:運営に関わっている人だけではなく、地元に住んでいる人からも「普段、全然人がいないのに、この日になると人が沢山きてくれて嬉しい」とか「毎年この1日を楽しみにしています」とかお声を頂くこともあります。すごくありがたい。加賀の温泉ライダーでは、初回のイベントが終わった瞬間に地元の人と抱き合って泣きながら喜んだのを覚えています。
ーーそこから9年、イベントは成長してきていますか?
中島:今ではリアルイベントとしては全国20地域で開催して、年間約2万人が参加してくれていますが、実はここ数年はスマホアプリの開発も行っていて、アプリでの参加地域も20~30地域で参加人数も増えてきています。このスマホアプリ事業が今、もうひとつの柱になっています。
ーースマホアプリ!このコロナ禍にもマッチした事業ですね。
中島:新型コロナウイルスの影響で、僕らの会社でも2020年のリアルイベントは8割中止になりました。でもそこを僕らがリカバリー出来たのは、スマホアプリ事業です。このアプリを使うと、期間を分散して人を呼び込む事ができて、密を避ける事ができます。この企画自体はもともとあったのですが、このコロナ禍でリアルイベントの代替施策として世に出したら、ものすごく多くの自治体から取り入れたいと声を頂きました。ありがたい事にお問い合わせも多くて、今、手が足りないほどの状況です。
ーーこのコロナ禍でイベントを扱う業態は、なにかやれる形に変換していく必要があるわけですね。
中島:本当そうだと思います。「DOスポーツ」を体験する機会、提供の形は変えていかないといけない。ただし提供の仕組みは変えても、提供できる価値の源泉は変わらないはず。僕らはサイクリストと地域両方に喜んでもらえるコンテンツというのが大テーマなので、その手段がイベントであるかどうかは大事じゃないんです。もちろんスマホアプリ事業も「手段」の一つにしか過ぎません。イベントやアプリに限らず、今はやっていない新しい事業についても積極的に取り組んでいきます。
ーーそこのテーマをぶれずに持っている事が大切ですね。
中島:アプリも開発途上なので、どんどん新しい機能を追加したり精度を高めていきたいです。またツール・ド・ニッポンは全国でやっているわけではなく、まだ九州や東北ではあまり開催できていないんです。連携地域を日本全国に増やしながら、各施策・手段の精度も上げていきたいと思っています。また、今日は自転車の話しかできていませんが、会社としてはランニングの事業も行っていますし、今後は近縁のアウトドアアクティビティなどにも事業を拡大していく予定です。そんな流れもあり、新しい人手が必要となり今回の求人に至りました。
ーー中島さんが掲げるスポーツツーリズムは、スポーツ庁もスポーツ市場において今後拡大する領域であるという風にも言っていますよね。
中島:僕はスポーツ庁や国交省の外部委員も務めさせて頂いていますが、それら中央省庁など、国としても今後積極的に推進していく、将来性のある分野だと思います。
ーー中島さんから見たスポーツツーリズムの可能性ってどういう所でしょうか?
中島:まずは「地方創生」って言葉が日本全国、色んなところで語られる大きなテーマで、日本全体の共通課題、共通認識だと思うんですけど、そこに非常にマッチングしている点です。更に、僕らの扱っているアウトドアスポーツって屋外でも密にならないスポーツとしてwithコロナ時代に合致していますよね。それと僕がずっと思っていて、コロナで加速したなぁと思うのが、ITが発達してオンライン化が進めば、逆にリアルな体験の価値が増す。例えば、リモートワークが一般化すれば、移動時間が減って自分の時間が増える、それでいて日常的にはほとんど体を動かさない。そうするとスポーツで身体を動かしたり、自然のある所に行きたくなってきませんか?
ーーわかります!登山やキャンプの人気が高まってきていますよね。
中島:そういう文脈にもスポーツツーリズムは合致すると思うんです。コロナ前からあった流れですが、本当に今、チャンスだと思う。スポーツツーリズムって言葉はここ10年くらいで出来た言葉ですが、各自治体もどんどん使い始めて、各施策に盛り込んでいますからね。
ーー「ルーツ・スポーツ・ジャパン」この社名に込めた思いを教えて下さい。
中島:「日本にスポーツを根づかせる」という思いがこめられています。スポーツが出来る環境、スポーツで得られる喜びっていうのを日本全国にもっともっと増やしていきたいです。僕らが今、扱っているのはサイクリングやランニング、ウォーキング、アウトドアなどの日本の「道」や「街全体」を使っていくスポーツ。どの地域にも必ずある「道」を全てスポーツフィールドにしていくこと、それが僕たちが出来る「日本にスポーツを根づかせる」ということなのかなと思います。
ーー今後は会社をどんな風に成長させていきたいですか?
中島:「スポーツビジネス」っていうと、まず最初にスタジアム・アリーナ系、プロチーム、プロ興行などを思い浮かべる人が多いと思います。僕自身もそういった領域に仕事として従事したこともあるし、1ファンとしてはもちろん大好きです。一方で、僕らが今、事業として取り組んでいるスポーツツーリズムっていう領域もビジネスとしてすごく面白いし、将来性もある。この領域を第一人者的に、ビジネスとして広めていく存在になっていきたいですね。
ーー具体的な思い描く姿はどんな姿でしょう?
中島:繰り返しになりますが、サイクリングやランニングなどのアウトドアスポーツを通じて、日本全国に根を張るように活動していきたいと思います。全国各地に志を同じくするような仲間や連携先もいますし、正社員のメンバーも東京だけでなく地方にもいます(フルリモートワークを導入)。今回募集している社員もそうですが、各地に色々な形で仲間を増やして日本全国を盛り上げていける、そういう存在になっていきたいと思います。
【PROFILE】
中島 祥元(なかしま・よしもと)
1976年富山県高岡市生まれ。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科を卒業後、スポーツ関連ベンチャーの立ち上げに参加、のちに取締役を務める。2009年株式会社ルーツ・スポーツ・ジャパンを設立、2012年一般社団法人ウィズスポ(現一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン)を設立し両法人の代表。これまでにプロデューサーとして、自転車、ランニングを中心とした大小様々なスポーツイベントの立ち上げから企画運営、スポーツによる町おこし・地域活性化事業、公共スポーツ施設の事業開発等に従事。スポーツツーリズムやサイクルツーリズムの分野では官公庁の行政委員も多数務める。スポーツ以外の趣味はお笑いと音楽鑑賞。最近好きな芸人は「コウテイ」。
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