「相手のことを大切にしていないと、その人の本来のパフォーマンス以上のものって、絶対に出てこないんですよね」
そう語るのは、合同会社Add Life Farm代表・米澤綾子さん。2022年に会社を設立し、「グッドライフジム」の運営を手がけている。成果や数字だけが評価されやすいフィットネス業界において、米澤さんが選んだのは「人を大切にする」という、遠回りにも見える経営だった。
その原点は、ジム経営よりも前に、広告・ブランディングの会社を経営してきた経験にある。漫画家やアニメーターと向き合う中で、成果物のクオリティはスキルだけでなく、感情や信頼関係によって大きく左右される――そんな現場を、何度も目の当たりにしてきた。
業務委託という働き方だからこそ、個人の挑戦や成長が正当に評価される仕組みをつくる。トレーナーという仕事に、もう一つの武器を持たせ、その先の人生まで見据えられる環境をつくる。
Add Life Farmが目指すのは、ただ身体を鍛えるジムではなく、人が自分の意志で成長し続けられる場所だ。その思いが、どこから生まれ、どのように形になってきたのか。米澤さんに話を聞いた。
(取材・執筆:伊藤 千梅、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
――最初にグッドライフジムを知ったきっかけについて教えてください。
結婚して最初に住んだ場所の近くにグッドライフジムができて、家にチラシが届きました。ちょうど半年後に結婚式を挙げる予定があったので、チラシを見て「じゃあ行ってみようか」と。最初はお客さんとして、夫を引きずっていったのがきっかけです(笑)。
――実際に通ってみて、どんな点に魅力を感じましたか?
マンツーマン指導と、グループでわいわいすることのいいとこ取りのような「セミパーソナル」という形が、私たちにすごくマッチしていました。基本ジムは続かないタイプなのですが、ここでは続けることができましたね。
夫婦で通っていたのですが、しんどい時もみんなで「あと10秒!」と言い合いながらやるような、部活みたいな雰囲気も楽しかったです。「こんなジムなら続けられるかもね」と話していました。
――そこから、実際にジムを運営する立場になった経緯を教えてください。
夫は弁護士をしていて、通っていた頃にグッドライフジムの本部とご縁があり、顧問弁護士として関わるようになりました。私も広告制作やブランディングの会社を経営していて、ジムができて2年目くらいから、研修資料の作成や今後の展開にも関わらせていただいたんです。

――事業者側として関わる中で、運営への想いが生まれていったのでしょうか?
通っていたジムのトレーナーさんから「今後フランチャイズ展開もしていく」と伺って、夫婦で「話だけでも聞いてみようか」と。その後、社長さんとお会いする機会があり、「何か新しいことを夫婦でやってみたいね」と話し合って、新しく会社を設立することにしました。
――グッドライフジムに共感した点は、どこでしたか?
『日常にフィットネスを』というコンセプトには強く共感しました。価格も良心的で通い放題、当日キャンセルや予約もできる。そんな柔軟なジムはなかなかないですし、「お昼休みにちょっと行こうかな」と気軽に通えるのは魅力的でした。
あとは、セミパーソナルだからこそ、ジムに通う仲間と一緒に頑張れる環境がある。大人になって、みんなで目標を持つことはなかなかできないですが、それが実現できる場所をつくれたらと思いました。
――手軽さや仲間と頑張れる環境に魅力を感じられたグッドライフジムですが、他のジムとはどんな違いがありますか?
他の有名なジムのパーソナルトレーナーだと、コンテストでの優勝経験や、資格の有無などが重要になってくるかと思います。ただ、うちは採用において経歴の優先順位がものすごく低いです(笑)。
ジムでの運動は決して義務ではないですし、スタッフにもお客さんにも楽しんでもらうことが一番大事だと考えているので、スペックよりも人柄を重視しています。なので、元々市役所で働いていた子や元プロサッカー選手の子、コンサルタントとして働いていて小さい頃からバスケ三昧だった子など、おもしろい経歴の人たちがそろっています。

――多様なバックグラウンドを持つ方が活躍されているのですね。
そうですね。夢がある人もいますし、まずはトレーナーとして頑張ってみたいという方もいます。
ただ正直、トレーナーという職業がすごく稼げる仕事かというと、そうではないのが現実です。結婚して子どもができたときや、年齢的・体力的な変化があったときに「もう一緒に働けません」となるような会社にはしたくないんです。
――トレーナーという職業の壁を取り払おうとされていることが伝わります。どんな状況になっても、関係を続けられるようにしたいということですね。
頑張ってくれているトレーナーやスタッフの子たちは、自分がどうなろうと守らなきゃいけないと感じています。人は成長していくものだと思いますし、私がこれまで培ってきたものを総動員してお手伝いしたい。トレーナー業に付随することでも、まったく別の分野でもいいので、「プラスアルファ」をきっちり鍛えながら、トレーナー業も続けていける。そんな環境づくりを意識しています。
トレーナーという職業は、体力的なところもあり、現場で活躍できる時間はそれほど長くない。だからこそ40代、50代になった時、それにもう一つの夢ややりたいことを掛け合わせられる場所があれば、より人生の幅が広がると思うんです。
今いるスタッフも頑張ってくれているからこそ、その先をきっちり提示してあげたい。選択肢は無限に広がっているんだよというのがAdd Life Farmのコンセプトでもあるので、そこに向き合っていくことが私の仕事だと思っています。
――プラスアルファとして、実際にどんな挑戦をしているスタッフの方がいますか?
実際、今働いているスタッフも「この前サプリの資格を取ったんですよ」とか、「ヨガの雑誌に載りました」など、私の知らないところでどんどんチャレンジしていて。それが本当にうれしくて、支援していきたいという気持ちが湧いてきますね。
関わってくれている人たちの生活は保証したいですが、好きなことをやっていいという思いが根底にあるので、管理下に置く必要はないと思っています。仕事だけでなくプライベートや趣味においても、ハングリー精神を持ってもらえる人のほうが、チームでいた時に“化学反応”が起きるかなと思っています。

――その姿勢が、業務委託という働き方の中での「安心感」にも繋がっていそうですね。
今は正社員であっても、終身雇用が当たり前ではない時代です。そうした中で業務委託という働き方には、より一層「現状維持は衰退だ」という意識が求められると感じています。
成果が出なければ報酬は発生しない。その厳しさはありますが、だからこそ成長に貪欲な人がしっかり評価される仕組みを整えたいと思っています。
たとえば今後、新しい事業に挑戦したいスタッフがいれば、トレーナー業とは別に契約を結び、成果に応じた報酬を明確に設計するつもりです。頑張った人に、きちんと報いる。その構造を「見える形」にすることが、安心してチャレンジできる土壌になると思っています。
――お話を伺っていると一緒に働く方々を大切にしたいという想いが伝わってきます。人を大切にしたいという想いには、何かきっかけがあるんですか?
広告の会社での経験が大きいですね。私は新卒で漫画とアニメーション専門の広告会社に入ったのですが、その広告は、実際に漫画家さんやアニメーターさんに描いていただくスタイルでした。
お支払いする金額は、たとえば原稿なら1枚いくら、キャラクターを使うならいくらと、最初から全部決まっているんです。
その中で、「こうした方がいいと思うんですよね」「この企業さんには、こうしたほうが合ってる気がするんですが…」と、こちらが熱を持ってプレゼンを重ねていくと、先生側もだんだんラリーを返してくださるようになるんです。
「ここ、もうちょっと調整したいんだけど何時まで待てる?」と、締切前なのにギリギリまで粘ってくださることもあって。誠意を持って向き合えば、相手もその熱量に応えてくれる。そんな経験を何度も何度もしてきました。
――思いや熱量が、相手の心を動かすということですね。
そうなんです。でも逆に、20本以上の案件を抱えていた時期には、ただ締切をリマインドするだけの毎日になってしまって……。
先生もすごく繊細な方が多いので、こちらのちょっとした言い方にカチンときて、深夜3時に長文のメールで「お前は俺を殺す気か!」みたいなものが届く、といった経験もしました(笑)。
そういう時は、やっぱり作品が締切に間に合わないことも多くあり、こちらの熱量があからさまに結果に出るんだなと感じました。
――関わり方ひとつで、結果が大きく変わることを実感されたんですね。
だからこそ、自分の思っていることや誠意は、きっちり言葉にして伝えたい。それでダメなら仕方ない、くらいのマインドが自然と育ちました。
相手のことを大切にしていないと、その人の本来のパフォーマンス以上のものって絶対に出てこないんですよね。関係は1対1でも、そこに気持ちが乗ると掛け算みたいになって、一人じゃ絶対に辿り着けないところまで行ける。
それがすごく楽しくて、うれしくて。いい意味で「裏切られた!」っていう瞬間が、私は本当に好きなんです。だから、関わってくれる人には真摯に向き合いたいし、大切にしたい。いつもそう思って働いています。

――Add Life Farmさん のジムとして、これから取り組んでいきたいことはありますか?
私自身も経験しましたが、妊娠・出産・子育てとライフステージが変わる中で、ジムに通い続けるのは、相当気持ちが強い人でないと難しくなってしまいます。
だからこそ、そういった人たちが心と体を一緒にメンテナンスできる場所として、オンラインスタジオのようなものを考えています。よくあるワンコインで動画が見放題、という形ではなくて。私が大事にしたいのは「気持ち」の部分なんです。
ジムで動く時間自体は40分なので、動く時間自体を取ることは難しくありません。問題はそこに向かうまでの気持ち。「今日はいいかな」「また今度でいいかな」と思ってしまう、その一歩手前をどう支えるかだと思っています。
私はコーチングをずっと学んできたので、まずは心の状態を整えるところを担当したい。その上でお家でもできるプログラムを用意していきます。トレーナーの子たちは身体のプロなので、私は心のケアを担当する。そんなふうに、両輪で回せるサービスを今つくっているところです。
――その発想の背景には、ご自身の経験も大きく影響しているんですね。
そうですね。私自身の経験がかなり大きいです。子育てをしていると、どうしてもうまくいかないことがたくさんあって「まあ、しょうがないよね」と、どこかで自分に言い聞かせながら妥協していた時期がありました。
そんな時に、母と夫から「最近、話すことがらしくないね」と言われたんです。母には「あなた、どこに行ったの?」とまで言われました。でも、その時は自分ではまったく気づいていなかったんですよね。無意識のうちに環境に引っ張られていたんだと思います。
これはすごく怖いことだなと感じました。「やりたいこと、あったじゃん」と、外から言ってくれる人がいないと、自分では気づけないことがある。だからこそ、そういう気づきの場をつくりたいと思うようになりました。

――それを今の会社や事業に落とし込んで、届けていこうとしているんですね。
そうですね。そういうコミュニティができたら、すごく大きなエネルギーになると思っています。「これやってみたい」「あれも気になる」という声を拾って、サポートできるような循環が生まれれば、そこからまた新しいことが始まるかもしれない。これは近いうちに形にできたらと思っています。
――そうやって人と向き合っていく中で、会社としてはどんな存在になっていきたいですか?
まずは、この会社に関わってくれている人たち全員が、自分の目標をきちんと追える環境にいること。Add Life Farmという「農場」に、何を加えていくか。それによって、その人自身の人生の風景も変わっていくと思うんです。
そのお手伝いをしたい。だから、スタッフの子も含めて、トレーナーとして入ってきた子にも、新規事業を立ち上げる経験をさせてあげたいんです。

――かなり踏み込んだ形で、挑戦を後押ししようとしているんですね。
ちゃんと純利益の中から予算を確保して、たとえば50万円でもいいから「これでやってごらん」と渡してあげたい。トレーナー業を続けながらでもいいし、子育てをしながらでもいい。それぞれのペースで、夢や目標に向かって挑戦できる人たちが集まる場所にしたいと思っています。
会員さんも、そういう人たちであってほしいですね。大きなプロジェクトでなくとも、小さなことからでいいんです。ただお金を稼ぐためだけに働くとか、ただ生きるために一日を過ごすとかじゃなくて、夢に向かっている時間のほうが人生は楽しいじゃないですか。
そのためには、やっぱり仲間が必要です。Add Life Farmが、そんな居場所になれたらいいなと思っています。
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【PROFILE】
米澤 綾子(よねざわ あやこ)
合同会社Add Life Farm代表。2022年に会社を設立し「グッドライフジム」を運営。元々は広告・ブランディング会社を経営し、漫画家やアニメーターなど多くの表現者と向き合ってきた経験を持つ。人を大切にする経営と、個人の成長や挑戦を後押しする仕組みづくりに力を注いでいる