元日本代表主将・長谷部誠が設立した思考力、行動力、人間力を養うサッカースクール。育成年代で「世界水準」を身につける独自のアプローチとは?

MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB コーチ 成川 雄士

元日本代表主将・長谷部誠が設立した思考力、行動力、人間力を養うサッカースクール。育成年代で「世界水準」を身につける独自のアプローチとは?

MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB コーチ 成川 雄士

「世界と関わることで、視点を増やす。そうすることで自分と異なる意見も受け入れ、その上で自分の考えをもてるような人になってほしい」

そう話すのは、元サッカー日本代表キャプテン・長谷部誠氏が立ち上げたサッカースクール「MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB」のコーチ・成川雄士さんだ。

長谷部氏と高校の同級生である成川さんが創設メンバーとして携わり、地元・静岡県で始めたこのスクールに「世界で活躍できる子どもたちを育てたい」というコンセプトを盛り込んだ。

長谷部氏が出版した自著『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(2011年、幻冬社)が示すように、日本代表でも歴代屈指のキャプテンとなった同氏の最大の魅力とは「人間力」だろう。それは、世界を舞台に戦いながら、物事を深く観察し、考え続けてきたからこそ身についたものに違いない。

ドイツで圧倒的な地位と名誉を築いた長谷部氏が、サッカーを通して世界各国を巡るなかで蓄積した実体験を軸に、日本の将来を担う子どもたちに伝え還元する──。思考や行動、そして“世界を知る”という環境を子どもたちに用意することを目的にスクールを始め、現在は静岡と東京の2拠点で活動している。

そんな長谷部氏が現役中の2017年に立ち上げたスクールの骨子を築き、育成年代の子どもたちにとって重要な「考える力」を伝えているのが成川さんだ。子どもたちが世界を知る環境のあるスクールとはどんな場所なのか。チーム単位で活動するクラブチームとはどんな点で異なるものなのか。そこで働く“大人”たちに求められるものとはなにか。成川さんに話を聞いた。

(取材・執筆:伊藤 千梅、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)

世界を身近に感じてもらうサッカースクール

――― 早速ですが、成川さんが長谷部さんと一緒にスクールを立ち上げた経緯を教えてください。

長谷部とは静岡県の藤枝東高校時代の同級生なんですが、彼が私を誘ったことがきっかけです。彼は高校卒業とともに浦和レッズに加入してプロになり、2008年からドイツに渡ってブンデスリーガでプレーしてきましたし、日本代表としても長くキャプテンを続けていました。プロとして海外を拠点としていたわけですが、2016年には日本ユニセフ協会大使に就任しました。長谷部自身が積み重ねてきた経験を日本の未来を担う子どもたちに、サッカーを手段として還元したいという思いで、このスクールは2017年にスタートしました。

――― なぜ長谷部さんは成川さんを誘われたんでしょうか?

私は大学在学中からヴァンフォーレ甲府の育成組織でコーチをしていました。その後は、清水エスパルスのジュニアチームで指導をしていました。長谷部から誘われたのはこの時です。彼自身は指導の経験がなかったので声をかけてくれたんだと思います。清水エスパルスでの仕事も充実していたので「このタイミングか…」とも思いました。ただ率直におもしろそうでしたし、チームで指導することとも違った学びがあると思い、一緒にやってみることにしました。

――― 「MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB」のコンセプトには「世界で活躍できる子どもの育成」があります。そのために行っているのはどんなことでしょうか?

子どもたちに海外を身近に感じてもらうため、動画の配信をしています。サッカーにまつわるものだけでなく、長谷部が世界のさまざまな場所で撮影してきた映像を共有しています。長谷部は、世界で活躍できる子どもを育成する上で、「世界を身近に感じ、想像力を働かせる」ことも大事にしているので、普段はなかなか触れることのできない地域などを感じられることも貴重な機会として提供しています。それに、動画だけでなく、6年生の希望者を対象にドイツ遠征も行っています。

――― 実際に海外を経験できるのですね。

ドイツ遠征後には、保護者から「性格が変わったようです」と言われたことがあります。多くの子どもたちが、初日は現地の子どもたちが話しかけてくれても「コーチ、助けて」という顔でこっちを見ていましたが、数日が経つと一緒にボールを蹴っているんです。「何を言っているかわかるの?」と聞いたら「いや、わかりません」と(笑)。

でも、言葉がわからなくても積極的に関わり合いをもとうとするなど、必ず子どもの変化があります。ドイツが好きになって、高校進学後、ドイツ留学した子もいたほどです。ほかにも、海外に興味をもって英語の勉強を頑張っていると報告をもらうこともあります。

子どもたちに世界を感じてもらうために始めたものですが、そうやって子どもたちの変化に触れ、うれしい報告をもらえると、このスクールを始めて良かったと実感しますね。

子どもの「考える力」を促すために“すること”と“しないこと”

――― 世界を身近に感じること以外にも、子どもたちの育成をする上で大事にしていることはなにかありますか?

長谷部自身が大切にしている「考える力」です。今は、わからないことは調べればすぐに出てきますし、失敗してもすぐにリセットボタンを押してやり直せるような時代です。日常的に、うまくいかない時にどうしたら成功するかを自分で考える機会が減っているようです。だからこそ、まずは「自分の頭を使う」ことにトライしてもらいます。

――― それはどのようなアプローチでしょうか?

目的から逆算して、練習メニューやコートの形、ルールを設定しています。またウォーミングアップには、ドイツ代表やブンデスリーガの各チームが行っている「ライフキネティック」という脳科学、運動学などを融合したプログラムを採り入れています。

他にも、月に1回ほど、長谷部からの動画メッセージで子どもたちに投げかけを行っています。例えば「なぜ外国の選手は挨拶の時に握手をするの?」といった質問を共有して、専用のノートに考えを書いてきてもらいます。

それを受けて、長谷部が自分なりの答えを動画で撮影して返しています。そういったピッチ外でも考えることを促すようなアクションをしていますね。

――― ピッチ内外で考えるきっかけを得られるような仕組み作られているんですね。子どもたちとの接し方ではなにか工夫していますか?

そうですね。あえて「声かけをしない」ことも意識しています。誘導するような言葉をかけないようにしながら、子どもたち自身に答えを出してもらう。もちろん、最初は間違うのも当然だと思いますが、大人が我慢することも大事だと思います。

大人が先回りして答えを与えてもあまり力にはなりません。成功にしても失敗にしても、自分で考えて導き出したプレーのほうが記憶に残りますし、その後の習熟度が早いものです。答えを教えてしまうと、仮にその時は成功したとしても、指示を待ってしまう悪い習慣付けになりかねません。もちろん、技術を教え込むべきところや、こちらから促すこともありますから、バランスは大事にしています。

スクールコーチだから経歴よりも試される“個”への対応力

――― 指導者として、またこのスクールで働く上で大事にしていることはありますか?

私たちが大事にしているのは、サッカー選手や指導者としての経歴よりも、人間性の部分です。優れた経歴よりもまずは人としてしっかりしていることが重要だと考えています。高校でサッカーをやっていなかった人で、子どもへの接し方や保護者への対応などがトップクラスのコーチもいます。経歴ではなく、まずは「子どもたちをうまくさせたい」という情熱をもっている人と一緒に働きたいです。

――― 「MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB」で活躍する人の特徴はありますか?

バランス感覚がある人だと思います。スクールなので、ドリブルやシュートに特化したものはわかりやすいですが、子どもたちの悩みは決して一つではありませんからね。

指導方法にしても、褒めるほうがいい、叱ったほうがいいなど、さまざまな考え方があります。これは、どちらかだけが正しいということではないと考えています。

子どもたちに寄り添ってあげることも必要ですし、背中を押して基準を示してあげることもそうです。緩める瞬間と引き締める瞬間、どちらも必要です。子どもとの距離感や、保護者の方々とのコミュニケーションなど、相手によって接し方を使い分けられる人は活躍してくれると思います。

――― チームとして活動するサッカークラブとスクールでは、コーチの働き方も異なるのではないでしょうか。どのような違いがありますか?

サッカークラブは、平日に何回かの練習があって週末に試合があるというように、継続的な指導ができます。一方でスクールは、基本的に週に1回など限られた時間と回数しか子どもたちと関わることができません。

そのなかで子どもたちの糧となるようなインパクトをどのように与えるかという難しさはあります。その意味では、スクールにはスクールとしてのコーチの指導力が試されるかもしれません。

――― スクールで指導するおもしろさはどんなところでしょう?

スクールは、子どもたちがサッカーを本格的に始める入り口となるケースが多い場所です。そのため、サッカーの楽しさや、もっとやりたいと感じてもらうきっかけを与えられるという部分は、大きなやりがいですね。

また、スクールには悩みを抱えて入ってくる子もたくさんいます。クラブチームで試合に出られない、試合には出ているけどチームのコーチからは注意される、キャプテンを任されているけど怒られるなど……。6年生だと進路相談をしてくれる子も多いですね。

その子たちの悩みと真剣に向き合った時に、チャレンジしてくれたり、少しずつでも成長を見られたりするところは関わる意義を感じますし、楽しいところだと思っています。

クラブではなく、スクールの指導者はそこが生命線というか、子どもたち一人ひとりとどれだけ向き合って、ポジティブな方向に導けるかが大事だと思っています。

「MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB」が越えたい壁

――― 成川さんがこれまでサッカー指導に携わって感じた「サッカーの価値」とはなんでしょうか?

子どもたちを見ていて、サッカーは「ボーダレス」だと強く感じます。サッカーがあれば言葉の壁を越えて世界中の人と仲良くなれますし、意欲や人間性の形成といった、子どもたちのさまざまな成長を促してくれるものだと思っています。

――― 「MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB」を通じて、子どもたちにはどんなことを感じてほしいですか?

子どもたちには「文化の違い」を感じてもらいたいですね。世界との違いは、日本にいるとなかなか感じられないものです。例えば、ドイツ人と仕事の話をしていると強くダメ出しをされることがあります。ですがそれは、その人が嫌いだから言っているわけではなく、「その意見に対して言っているんだよ」と言われます。

日本に留まっていると、自分たちの視点だけで物事を見てしまいますが、世界に行くと日本の文化も異質なものだと気づきます。だからこそ、幼い頃から多方面にアンテナを張ってほしいですね。最初から「ノー」と言わず、物事を受け止められる人になった上で、自分の考えを持つ。子どもたちには、固定概念を取り払って、何事も受け止められる心と頭、それに対しての思考力と行動力を育んでほしいと考えています。

――― 最後に「MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB」が目指していることを教えてください。

たくさんの人に、スクールの活動をもっと知ってもらいたいですね。長谷部誠の経験を通じて、地域の財産になってくれるような選手を育てていきたい。子どもたちに小さい時から世界と触れ合って興味をもってもらい、誰に対しても親切にしてあげられるような人に育てていきたいです。そんな子どもたちを育んでいく上で、私たちのスクールが世界と日本の選手たちとをつなぐパイプ役になれたらいいなと考えています。

最近は台湾との交流も始まりました。選手たちだけでなく、我々スクールスタッフもグローバル化しています。英語に興味がある人や、日本だけではない国や地域でサッカーをしてきた人などは向いているかもしれません。海外ともやり取りをするので、ぜひ英語力を活用したい人にもスクール指導の門をたたいてほしいですね。

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【PROFILE】

成川 雄士(なるかわ ゆうじ)

長谷部誠氏が2017年に創設した『MAKOTO HASEBE SPORTS CLUB』の創設メンバーであり、「世界で活躍できる子どもたちの育成」を掲げ、現在もコーチ(スクールマスター)として携わっている。長谷部氏とは藤枝東高校時代の同級生であり、卒業後は山梨大学在学中にヴァンフォーレ甲府の育成組織で指導キャリアをスタート。甲府U-15の監督を経て、2015年からは清水エスパルスU-12でも監督を務めた。JFA公認A級コーチU-12ライセンス、ライフキネティック公認パーソナルトレーナーの資格を保有している。

第1位

第2位

第3位

第4位

第5位

設立年月 2016年12月
代表者 中野友美
従業員数 10名
業務内容

スポーツを通じて子どもたちの育成

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