「コスパ」や「タイパ」という言葉を頻繫に耳にするようになり、より安く、早く手に入るものが“良い”とされる現代。どこにいても効率を求められるなかで、自分が本当に良いと思えるものが何かを深く考えることは少なくなった。
そんな流れに抗うかのように1951年から世界中の“本物”と向き合ってきた会社がある。100年近い歴史をもつイタリアのアウトドアブランド『LA SPORTIVA(以下、スポルティバ)』を中心に取り扱う、日本用品株式会社だ。
会社の理念に“本物を伝える、本物とつなぐ”を掲げる彼らにとって“本物”とは。
「人に伝えたいもの」
ブランドの歴史や、製品が完成するまでの背景。そしていいものを伝えるため、長く使ってもらうためにどのような仕事をしているのか。プロダクトマネージャーの加藤智裕さんと、マーケティングを担当する長崎誠さんに、存分に語ってもらった。
(取材・執筆:伊藤 千梅、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
──加藤さん、長崎さん、本日はよろしくお願いいたします!お2人は元々、アウトドアに興味があったのでしょうか?
加藤:僕はずっとキャンプをやっていて、アウトドアの製品には元々興味がありました。最近は山の中を走るマウンテンランニング、いわゆるトレイルランをやっています。
長崎:僕はアウトドアというよりも、どちらかというと靴が好きなんです。学生時代に陸上競技をやっていて、1日に何度も靴を履き替えていたのが始まりですね。靴のデザインや性能の違いにテンションが上がるタイプです。
──それぞれの思いが合って、スポルティバの製品に携わっているのですね。このブランドの強みはどのような部分になりますか?
加藤:スポルティバは、アウトドアのいろんな種類の靴を取り扱っているんですよ。登山靴やクライミング専用のシューズ、マウンテンランニングシューズに、ハイキングもあります。どのカテゴリーでも世界トップレベルの品質を維持しているのは強みだと思いますね。
また、それぞれのカテゴリーのいいところを、別の種類の靴にも応用しています。例えば、登山では滑らないように踏ん張るため、意外と下りの方が足の疲労度が高い。それを軽減させるために、登山靴の裏には大きなソールがついています。
そんな登山靴の「疲労軽減」の機能を応用して、最近発売されたハイキングカテゴリーの「エクイリビウムシリーズ」にも、大きなブロックのソールがついているんです。このように、お互いのカテゴリーのプロダクトをフィードバックし合って、高めていけるのも強みだと思います。
──いろんなカテゴリーがあるからこそ、新しい発想が生まれるんですね。
長崎:他にも、スポルティバは「語れる要素」がすごく多いブランドです。2028年で100年続くブランドになるので、シューズやカテゴリーごとに培ってきた歴史があります。アップデートを繰り返して今があるので、靴のテクノロジーや、開発経緯に関してなどネタは豊富です。
加藤:例えば、革を縫って登山靴を作るのが一般的な時代に、縫うのではなくて「接着」して作る発想を定着させたのも、スポルティバです。日本では「売れないだろう」と言われていた接着の靴を先駆けて開発し、今では一般的な形となっています。
長崎:そういった背景を好きになってくださる方もすごく多いですね。愛用してくださる方たちからは、質問攻めにあうこともあります。そのくらいこのブランドが好きな人が多いなと感じています。
──加藤さんは「プロダクトマネージャー」という役職に就かれていますが、具体的にどのようなお仕事を行うのでしょうか?
加藤:仕事内容は大きく分けると2つあります。1つは製品を実際に売り場に投入した後の対応です。お店の方やお客さんのフィードバックを汲み取って「こんな意見が出ていますよ」と、イタリアの工場に伝えていきます。
もう1つは、修理です。近年スポルティバは「環境問題」に注力しています。お客さんも、使い捨てではなく修理して使おうと意識してくださることで、修理の件数が増えてきていますね。
──長崎さんは「マーケティング」の部署だそうですが、どのようなことを行っていますか?
長崎:自分の部署では「お客さんにシューズの良さをどう伝えていくか」を考えて実行しています。ブランドの歴史や魅力を、いろんな方に共感していただくために、認知を広げて価値観を伝えるお仕事です。
また、イタリアの人たちはアバウトで、説明書もざっくりとしています。なので、仲介役のような形で、内容を噛み砕いて「意訳」し、小売店さんやお客さんにわかりやすく説明することを心がけています。
──これまで仕事をしていて、印象に残っていることはありますか?
加藤:購入する日本人と、開発するイタリア人の考え方の違いですね。最近はだいぶ減りましたが、縫い目の間隔がずれていたときに日本のお客さんから「なんでこうなっているんだ」とお問い合わせをいただくこともありました。でもイタリアは「こんなのは普通だよ」と。物事の捉え方の違いはよく感じていました。
でも、お客さんに「それもイタリアのブランドの味なんだ」と徐々に納得してもらえてファンになってもらえたときは、やりがいがありましたね。
長崎:僕は、靴の素材屋さんと一緒に小売店さんに向けて事務所で製品説明会をしたんです。それで理解を深めてもらって、後日お店の方がスポルティバの商品をSNSで発信してくれたことがうれしかったです。そのように商品の魅力が浸透したときは「やってよかったな」と感じますし、これを続けていきたいなと思いました。
──日本用品株式会社さんは72年の老舗ですが、会社はどのような雰囲気で、どんな人が多いですか?
加藤:私が1番の古株ですけれども、長崎を始め若いスタッフも入ってきて、刺激があっていいですね。物もはっきり言うし、風通しはいいと思いますよ。
長崎:僕が入社したときに感じたのは「少数精鋭」。人数がそんなに多いわけではないけれど、みんなで手を貸し合って、1つの仕事をしっかりまとめている印象がありました。みんなが協力してくれるので、僕も協力したいという気持ちになりますし、それがお互いにいい効果を生んでいると日々感じています。
──少ない人数で働いているなかで、個人として大切にしていることはありますか?
加藤:私が大切にしているのは、コミュニケーションですね。得意先との関わりが多いので、対話をして信頼感を高めていく。特に修理を行うときには、自分を信頼してもらうことは非常に大事にしています。
長崎:僕は「攻め」の姿勢です。与えられたことをやるのではなく、自分で「これがやりたい」と思ったことを仕事にしていかなきゃいけないポジションだと思うので。電車に乗っているときに「こんなこと仕事だったら面白いよね」と思いついて、それを結果的にイベントにつなげたり、デザインに落とし込んだりしています。
ただ、自分で思いつくアイデアはざっくりとしたものが多いので、できればいろんな人に考えを共有して、意見を出し合ってブラッシュアップすることが理想です。そういう人がいると、もっとアイデアが出ると思うので、いいなと思います。
──「積極的な人」のほうが仕事はしやすそうですね!
長崎:受け身ではなく、能動的な人が僕は好きです。面倒くさいぐらい意志がある人と仕事がしたいなと思っています。
加藤:「これやりたい」という目標がある人はいいですね。指示待ちではなく、自分が何をすればいいかを考えて動ける人。別に失敗は構わないんですよ。失敗したらそれを元に、また進化すればいいので。
──もし誰かが失敗しても、それはチームみんなでフォローし合うのですね。
長崎:それこそ僕は、役職にとらわれずみんなに協力を仰いでイベントをやります。社長にMCをやってもらうこともありますよ。「これやりたいから手伝ってください!お願いします」と伝えて、失敗したら「すみません!失敗しました」という。そうしたら「じゃあ次はどうしようか」とみんなで考えてくれる。そんな会社なので、まずは自分から行動ができるかが大事だと思います。
──日本用品株式会社さんの企業理念が「本物を伝える、本物とつなぐ」ですが、個人として“本物”とはどのようなものだとお考えですか?
加藤:「人に伝えたいもの」かな。誰かに「これはいいですよ」と言えることが、本物である1つの要素だと感じます。
仕事をしていて「伝えたい」というのはいつも感じていますね。当然、スポルティバの商品全てが完璧というわけではないですけれど、「これはすごいな」と感じるプロダクトがほとんど。商品を1つの形にするまでにすごく時間がかかっていると思いますし、長崎も言っていましたけど、スポルティバは「語れる製品」だと思います。
──長崎さんも、仕事で“本物”を感じたことはありますか?
長崎:僕らはアスリートのサポートもやっていて、クライミングシューズを使ってくれている契約選手たちのなかには、次のオリンピック、パリオンピックに出場する選手もいます。世界一を取るために競技をしている彼らが選んでくれているのを考えると、本物なんだと感じます。
また一流の彼らだからこそ、本物がわかる。靴とかに興味がなさそうな人でも、話を聞いてみると自分が使っている種類に関しては前のめりに話してくれることはよくありますね。
──世界のトップ選手たちにとっても“語れる”製品なのですね。
加藤:一流のアスリートが使うのは、本物だと感じます。それはクライミングだけじゃなくて、登山靴にしても。
長崎:命を預けるわけですからね。
加藤:命がけの現場で、トップのアスリートが使ってくれている製品なので、スポルティバはやはりすごいと思います。
──今日は長い時間お話を聞かせていただきありがとうございました!最後に、個人として今後の意気込みを教えてください。
長崎:自分自身は去年1年間を全力で駆け抜けたので、これを継続していきたいです。もっと認知度を高めるのもそうですし、ブランドイメージを確立して、より多くのお客さんに届けていく。それをどうしたら実現できるかを考えながら、仕事をしていきたいと思っています。
加藤:プロダクトマネージャーが携わる「修理」は、どちらかと言うと、ものを「買う」よりも、一般的にネガティブなイメージをもたれがちです。
でも、これからは「自然環境」への配慮という意味でも、「修理」の価値は世界的に高まっていくと思います。例えば使い捨てで買い替えてしまうのと、ソールを張り替えて使うのでは、ゴミの量は絶対に修理をした方が少なくなるわけですから。
大事にしているものを長く使うためにも、「修理は大事だよね」という印象を持ってもらえるようにしていきたい。だからこそ、最初よりも綺麗な状態で戻せるくらい、修理の業務レベルを上げていかないといけません。今後は、お客さんに「修理して良かったな」と思ってもらい、最終的には「ここで修理を出したい」と思ってもらえるところまで持っていければ最高ですね。
長崎:マーケティングは、実際買ってもらうために動いて、プロダクトマネージャーは、買っていただいた方の満足度をより高めていく。それぞれの立場から、お客さんにとって最高の体験を生み出すアプローチをしていきたいと思います。
一体何をもって“本物”というのか。その正解は誰にもわからないけれど、スポルティバは、誰かに「伝えたい」と思える商品で溢れている。彼らは今後も、自分が感じたことを語り、商品をたくさんの人へとつなげていくのだろう。
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【PROFILE】
加藤 智裕(写真右)
スポルティバジャパンディビジョン プロダクトマネージャー
新卒から日本用品株式会社に務める。修理やプロダクトに関する知識が豊富。これまでイタリアの工場と日本のお客さんの橋渡しのような役割を担ってきた。今後は1つの商品を長く使ってもらうためにも、修理に力を入れていきたいそう。
長崎 誠(写真左)
マーケティング/ブランディングディビジョン
2023年3月入社。学生時代は陸上競技を行っていて、スパイクやランニングシューズなどを1日で何度も履き替えていたことをきっかけに、靴好きとなる。日本用品株式会社には「語れる製品に携わりたい」と入社した。
設立年月 | 1951年06月 | |
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代表者 | 佐藤 義朗 | |
従業員数 | 10 | |
業務内容 | スポーツ用品の輸入販売
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