FC今治に「岡田メソッド」の定着を。未来に見据えるのは日本代表監督、その先のインストラクターへ

FC今治 アカデミーG グループ長 林雅人

FC今治に「岡田メソッド」の定着を。未来に見据えるのは日本代表監督、その先のインストラクターへ

FC今治 アカデミーG グループ長 林雅人


夢は日本代表の監督になってオランダに勝つことです

そう語るのは、FC今治でアカデミーグループ長を務める林雅人さんだ。

オランダや中国など、長らく海外で指導者としての経験を積んできた。

そして現在、FC今治では小学生、中学生、高校生の各年代のアカデミーがうまく機能するように統括する役割を担っている。

「岡田メソッド」を軸にした指導を、各カテゴリーの指導者に浸透させていくことも大きな仕事の一つだ。

自身が日本代表の監督になってオランダに勝つこと、そしてその先にある最終目標の指導者を指導するインストラクターになるために。

林さんは、今日も現場に立つ。

(取材:構成=スポジョバ編集部 渡邉知晃)

アカデミーグループ長としての役割とは

ちょっとしたことで何にも動じないというのは、海外に行ってからの一番の強みだと思います

FC今治で、現在アカデミーグループ長を務める林雅人さんは、海外経験が豊富な指導者だ。選手としてオランダでプレーした後に、オランダやタイ、そして今治に来る前は中国の女子チームで指導をしていた。中国では、2年間基地の中に缶詰で「365日合宿のような」生活を送っていたという。

いろいろな面で日本とは違うので、自分の指導もそうですけど、幅が広がりましたね

FC今治では浙江省のチーム(杭州緑城足球倶楽部)にスタッフを派遣し、アカデミーの指導を行っていた。林さんが浙江省の女子チームのヘッドコーチをやっていた際には、よく練習試合を行っており、当時からFC今治のスタッフと接点があるという関係性があった。さらに、オランダ時代には、現在FC今治のホームグロウンGグループ長を務める矢野克志さんと試合会場でよく顔を合わせていたという。

いろいろな繋がりを経て、中国が終わって日本に帰ってきた時にすぐ連絡がありましたね

現在の林さんは、アカデミーグループ長という役職で活動している。FC今治には小学生年代のジュニア、中学生年代のジュニアユース、高校生年代のユースと3カテゴリーのアカデミーグループがある。

一番のメインは、その選手たちができる限りトップチームに入れるように、プロ選手に育成できるように、選手育成とスタッフ育成を統括するという役割です

各カテゴリーを巡回し、所属する指導者や選手が問題なく活動することができているかを確認し、問題があればそれを解決していく。

そして、林さんの役割はそれだけに止まらない。チームの中にいろいろな部門がある中で、メソッドの部門、お金の管理を含めた運営面、指導やメディカルの部分、寮など全てを管理するといい、その仕事は多岐に渡る。

いろいろな皿が同時に回っている状態で、その皿がしっかり回っているかどうかというのを見る、管理するのが私の仕事です




岡田メソッドを浸透させていく

FC今治では、チームのオーナーである岡田武史さんが提唱する「岡田メソッド」に基づいた一貫した指導が行われている。岡田メソッドは、”主体的にプレーできる自立した選手と自立したチームを育てる”ことを目的とした、サッカー指導の方法論の体系である。

岡田メソッドの重要な部分は、年代は小学生から16歳の高校一年生までに、我々が提唱する岡田メソッドの中の原理原則という、サッカーのプレーとか考えに基づく判断の基準をしっかりと身に付けさせるというのが大きな一つですね。そしてサッカーだけではなく、自立した、自分で物事を考えられる、行動できるような人を育てるという意味も含まれています

下は小学生から上は高校一年生の16歳までということで、各学年、対象の年齢によって指導方法や教える内容も変わってくる。

原則が最初は大きなものから始まり、年齢が上がると段々小さな細かい部分に入っていくので、最初の年齢の小さな頃は攻撃の目的や守備の目的という大きな部分から教えていきます

個人のテクニックに始まり、2人の関係や3人の関係と、学年が上がるにつれてやることが少しずつ増えていく。年齢に合った指導を行うことで岡田メソッドの浸透を計り、レベルの高い選手を育成していく。これがFC今治の、今治市としての全体のレベルアップにつながっていく。

ほとんど地元の選手だけですね。ジュニアやジュニアユースは99%が愛媛県の選手です

Jリーグクラブの下部組織というのは、チームによっては全国各地から優秀な選手が集まってくることもあるが、「今治モデル」の育成型ピラミッドで地域全体の強化を図っているFC今治のアカデミーの選手たちは、ほとんどが地元の選手で構成されている。

地域全体で選手を育てる、強くなるという考えがあるので、アカデミーも県外から選手を獲ってくるのではなく、やはり今治や東予エリア、もしくは愛媛県という地域を大切にするという意図も含まれて、8,9割は県内の選手で構成されています

アカデミーの指導をする中で、意識していることは岡田メソッドに基づいた「原則」の部分だ。起こった現象ではなく、いつ何を見て判断するのかを明確にしている。

サッカーは、実は同じようで同じ現象はほとんど起きないので、この原則の考え方の部分を選手たちに理解させるということは特に大事にしている部分ではあります

これまで取り組んできた「岡田メソッド」の効果というのは確実に表れている。

林さんがFC今治に来た当初は、チームのほとんどのカテゴリーが県リーグレベルだったが、今ではジュニアが四国ナンバーワンになり、ジュニアユースは全学年が四国大会のレベルでプレーし、初の高円宮杯全国大会出場もしている。

U-18チームが来年度四国のプリンスリーグ所属になれば、全カテゴリーが四国リーグでプレーするということになるので、結果という意味では出ていると思っています

こういった結果というのはFC今治のアカデミーに限った話だけではなく、今治東中等教育学校が高校サッカー選手権の全国大会に愛媛県代表として出場するなど、今治市を含む地域全体がレベルアップしている。

令和2年に行われた愛媛県高校サッカー新人大会の決勝戦のカードが、今治東対今治西になるという、今までなかったことも起きているので、今治全体で盛り上がって来ていると思います

昨今、今治市の子供たちの人口というのは減っている中で、サッカーを習いに来るスクール生の数を保てているのは、FC今治の取り組みの成果と言えるだろう。





林さんがこれから目指すもの

FC今治独自の取り組みである「今治モデル」は、他のJクラブとは違った取り組みとして行われてきた。クラブとして共通の”プレーモデル”や”メソッド”を持ち、全カテゴリーが一貫した指導を行っている。

一つは共通言語というところ。我々が共通して発する言葉。原理原則もそうなんですけど、マークの原則やアプローチの原則はこうであると、原則を元に指導するので共通言語として出てくる言葉があるんですけど、その中で曖昧だった言葉も独自の共通理解の言語で言語化しているところが特徴かなと思います。言語化することによって明確になり、理解が早くなるんですよね

林さんが、かつて選手として、その後は指導者として活躍していたのがオランダだ。

僕が日本代表かアンダー世代の代表監督をやってオランダに勝つというのが夢なので

以前からずっと持ち続けている夢だ。その夢を叶えるために、現在日本サッカー協会のS級ライセンスを受講している。S級ライセンスを取得すれば、Jリーグの監督をすることができる。今後は、チャンスがあればFC今治のトップチームの監督になり、その先に見据える日本代表の監督へ。

日本だけではなく、ヨーロッパでも監督をやってみたいです。でも、監督が最終ゴールではなく、僕の最終ゴールはインストラクターです

監督になることが一番の目標ではなく、指導者を指導する「インストラクター」になることこそが最終目標だと林さんは言う。

なぜ、インストラクターなのか。

僕はサッカー畑でずっと生きてきて、サッカーに関わり続けて生涯を終えるつもりでいるんですけど、その根底にあるのは日本のサッカーが強くなってほしいということなんです

例えば、林さんがチームの監督として指導した場合に、1チームには30名くらいの選手が在籍していたとして、その30名全員が選手を辞めた後に指導者になるかはわからない。しかし、仮に30名の指導者に対して林さんが指導した場合、彼らの元にそれぞれ30名の選手がいたら、900名の選手に影響を与えることができるのだ。

日本のサッカーが強くなることを考えた時に、より多くの人に影響を与えられるのがインストラクターなのだ。FC今治でアカデミーの指導者を取りまとめる現在の役割というのは、今後につながっていく。

教えようというよりは、導こうというような捉え方をしていますね。その指導者がどういうふうに考えて、何を見て行動しているのかというところで、どこの部分でつまっているのか、考えの理解度でつまっているのか、そもそも原理原則と大きく外れているのかどうかなど、まず指導者自身の方に気づいてもらうために、うまく相手の意見を引き出すということを個人的には意識しています

FC今治では、「岡田メソッド」の構築と浸透のために大きな役割を担っている。

その先に見据える監督、そして最終目標のインストラクターへ。

林さんの歩みは、まだまだ止まらない。






【プロフィール】林 雅人

出身地は岐阜県生まれ東京育ち、ニックネームはハンター。
オランダや中国など、長らく海外で指導者としての経験を積む。FC今治U18監督を経て、現在はアカデミーグループ長。「夢は日本代表の監督になってオランダに勝つこと。」そして最終目標は指導者を育てるインストラクターへ。


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