「転職が当たり前」。そう言われている現代でも、当然ながら一社目から自分のやりたいことを実現でき、かつそれを評価してくれる会社に就職できれば、そもそも転職という選択を取ることはきっとないだろう。まして私含め"正社員"として働く人間からすると、自分が続けるか辞めるかの意思を表示することでキャリアを積み重ねていけること自体、幸せなことかもしれない。
スポーツ業界ではチームスタッフも"年俸"として雇用契約を結ぶケースがある。裏を返せば、1年以内に活躍しないと来年契約更新に至る可能性が100%とは言えないということ。当然、さまざまなクラブや業界を経験したりすることで見える世界もあれば、1つのチームにいるからこそできる経験もあるため、どちらが良い・悪いの話ではない。選手と同様に、なかなかシビアな契約がある中でも、2016年の入団以来ずっと1つのチームでマネージャーとして活躍をし続けるのが、2021-22シーズン優勝クラブ:B.LEAGUE『宇都宮ブレックス』のチームマネジャー・武田有人(たけだ ゆうと)氏。
前編では彼のキャリアを紐解きながら「チームで必要とされ続けるために大切なこと」という内容をご紹介。本記事の後編では「マネージャーを目指すあなたへ」というテーマにて、武田氏の実体験を踏まえたリアルをお届け。まさしくBリーグでマネージャーの仕事を希望しているあなたこそ、この記事は読んでほしい。
※注釈) 宇都宮ブレックスでの役職名を『マネジャー』と表記/ 一般的な役職は『マネージャー』と表記
(取材:構成=スポジョバ編集部 小林亘)
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__前編では最後「チームマネージャーの先に何があるかわからない。だから自分たちが道を創る。そのために40歳でも50歳でも、やれるところまでチームマネージャーをやりたい」という素敵なお話をありがとうございます。一方、勉強不足で恐縮ですが、チームマネージャーという職業について、業界的にも仕事的にもどんなキャリアが現状としてはあるのでしょうか?
武田:まず職業としての話でいくと、おそらくチームマネージャーはずっとチームマネージャーではないかと思います。僕のようにアシスタントマネジャーからマネジャーになるとか、少し役職名が変わるという階段はあると思いますが、おそらくどこまででもチームマネージャーかな……と。その中でも変化があるとすれば経験や適正に応じてGMやコーチになったり、分析関係の分野に行くという方もいます。
業界の話ですと、Bリーグができる前までは、企業チーム(現『アルバルク東京』はトヨタ自動車バスケットボール部、現『川崎ブレイブサンダース』は東芝バスケットボール部など)にいた先輩方は、チームマネージャーとしてある程度やりきった後は、元々の所属だった企業に就職しているケースも。ただ、bjリーグができたり、その後統合してプロ化が進みBリーグができた今、「『プロチームのチームマネージャーとしてチームに所属されていた方』が、辞めたあとに何しているか?」と聞かれても、正直それはまだ前例がないというか、わからない状況です。もちろん、お伝えした通りキャリアチェンジという形でルートはあるのですが、『チームマネージャーの先』という意味では、今はまだないのかなと。
僕の場合は、それこそ一度社会人になってコーヒーの良さを知って、カフェって面白いなと思う部分があったりもしますから、チームマネージャーがもし仮にできなくなってしまった場合は、カフェを始めてバスケットと絡めてアパレルとかやっても楽しそうだなぁ……なんてざっくり思っている部分があるくらいです。いずれにしても、どんな未来があるかは、前例がないからこそやりきった先に見つけて、僕らが創っていくしかないなと思っています。
__目の前のことを一生懸命頑張った先に見える景色を見たいといった言葉は、武田さんを表すような気もしています。キャリアそのものが挑戦ですね!
武田:そこに尽きます!実際母親から「今の時代は何が起こるかわからない。明日死んでしまうかもしれないし、自分のやりたいことをやりきって、突然命を落としてしまったとしても「やりきった」と思えるくらいにやらないとダメだよ」と常々言われていて、本当にその通りだなと思っています。
世界に目を向けると、本当にいろいろなことが起きているわけじゃないですか。だから明日とか未来の話ではなくて、とにかく「目の前のことを1つ1つ積み重ねていこう」っていうのが、僕の人生観でもあります。くどいかもしれませんが、その先でしか見られない景色があると思いますし、その景色を見たいと思って、チームマネージャーを希望してBリーグに入ってくれる方々が増えたら、これ以上嬉しいことはないかもしれません。
__まさしく、チームマネージャーという仕事の入り口についてもお伺いしたいです。武田さんがキャリアをスタートした頃に比べると、そもそもポストは増えたんじゃないですか?
武田:仰る通り昔と比べてチーム数がかなり増えたので、チームマネージャーを雇いたいというチームは非常に多いと思います。僕自身も個人的に「どうやったらBリーグでチームマネージャーになれますか?」と質問いただくケースが多々あります。
実は僕の弟もチームマネージャーを目指していて、今季からBリーグのチームに加入できることになりました。
ただ、弟の就職活動の際に相談を受けたり、過程を見ていて痛感したのですが、大学生が就活をする時期って、Bリーグはシーズンのド真ん中なんですよね。それで、シーズンが5~6月に終わる頃には、大学生はもう卒業してしまっているわけです。だから就活の時期とチームが募集をする時期がズレてしまっていて、なかなか新卒ですぐチームマネージャーになるということは難しいかと思うのです。
__めちゃくちゃリアルですね……。とはいえおめでとうございます!参考までに、弟さんはどう就活を進めていたんですか?
武田:ありがとうございます!弟は僕と8歳離れているのですが、物心ついたころから僕のあとばかりついてくるようになりまして(笑)。高校も大学も同じところの出身です。拓大では4年間マネージャーをやっていましたし、卒業後はプロのチームマネージャーになりたいと話してくれていました。弟が4年生のときに僕も手助けをしたいと思って「チームマネージャーを探しているチームはないか」と情報収集をしていたのですが、やはりシーズン真っただ中なので中々見つかりませんでした。
当然、見つからないことは想定していたので「チームマネージャーになることだけを考えていて、結局チームが見つかりませんでした、4月からニートですっていう状況だけは絶対に作るな」と弟に話して、チーム探しと平行して、就活はするように促していました。結果からお話ししますと、弟もチームが見つからずに卒業してから一般企業に就職しています。その後、チームから出ていた公募に応募して、採用していただき転職をしました。僕としても、とても嬉しかった反面、このやり方が正解だとは思っていません。僕も弟も、一度入った企業に途中で退社をすることになり迷惑をかけてしまっていますので、推奨なんてできませんし、全員が全員この方法でなれるとは限らない。だからこそ、ここのズレがなんとかならないのかと考えています。
__なかなかシビアだな……とも思いますが、当然全員が全員、希望通りの職に就けるわけではないというのは一般的にも言えることなので、その仕組みをなんとかしたいという言葉だけでも力強いと感じます。
武田:ちなみに、ご存知とは思いますがチームマネージャーって資格とかもないんですよ。たとえばトレーナーさんであれば、チームに入れなかったとしても資格を活かしたお仕事ができるかと思いますし、そこで実績を積んで、タイミングを見てシフトできる可能性もあるかと思うのですが、マネージャーはそれができない。強いて言えば、チームに所属せずにマネージャー業をするのであれば「芸能マネージャー」になることかな……というくらいで、でもそこからチームのマネージャーに転職するというのもハードルが高いかな、と……。
だからこそ、これから「Bリーグのチームでマネージャーになりたい!」という方がいらっしゃれば、なるべく早い段階から、ボランティアだったり何かしらのアルバイトだったりをBリーグでして、チームやスタッフとコネクションや繋がりを作っておくことが一番スムーズに就職活動を進められる方法なのではないかと思っています。これは中途でチームマネージャーを目指す方にも言えることかと思いますが、プロの現場を体験して、チーム関係者に自分自身を覚えておいてもらう、ということが非常に重要で、それだけでも優位に立てますから。一方、同時進行で僕らは「チームマネージャーになりたい!」という方が1人でも増えるよう、仕事の魅力をもっと発信していかなければ……!とも感じています。
__未来の創造、入り口の拡大、仕事の価値向上と、武田さんは本当にアツいですね!……ちなみに、武田さんのようにアツい想いを持っている方であれば最高と思いますが、思う限りで結構ですので、どんな方がチームマネージャーに向いていると思いますか?
武田:個人的には"人間くさい人"が向いていると思っています(笑)。というのも、チームマネージャーの仕事って、1つ1つ分解していったとき、たとえばボトルを洗ったりとかタオルを洗濯したりだとか、これって誰でもできるようなことになってしまうと思うんです。でも、それが一気にバッと並んだ時に卒なくこなすのは難しいし「誰でもできるような仕事内容だから、誰でもいい。」というようなポジションではないと思っています。だからこそ、人間性とか性格とかが大切だと思っています。
それこそ選手との距離感も非常に近いポジションになります。これは意見が割れるところでもあると思うのですが、僕個人としては、仲が良くて何でも頼みやすい存在の方が絶対良いと思っているんですよね。自分が仮に選手の立場だとして、色々お願いをするときに、親しいスタッフのほうが圧倒的に頼みやすいだろうなって思うので。ただ、仲良くなりすぎてしまうと言わなきゃいけないことが言えないとか、変に一喜一憂しちゃうということがあって「仲良くしすぎない方がいい」という意見もあるのを理解した上で、それが出ないように、仕事を全うしながら……ですね。いずれにせよ、仲良くしていてダメなことはないと僕は思います。
__仰る通りすぎます……。ちなみに今日の練習でもバスケ以外の話題でも選手から話しかけられてたりしていて、凄く素敵だなと思いました!
武田:あはは(笑)。ありがたいですよね!でもこれはブレックスの良さの1つだと思います。本当に選手・スタッフ関係なくみんな仲良しなので「良いチームだな~」と日々感じますね。
ちなみに先ほどの話に戻ってしまいますけど、仲が良いからこそ、それこそ試合前とかも基本いつもと変わらない空気をつくってあげたいなと思って声掛けをしたり、おちゃらけたりするのですが、一方でやりすぎないようにしようと気を付けています。空気を読むと言いますか、変な話、僕がふざけてリバウンドを取りに行って、選手の怪我に繋がったりしてしまったら最悪じゃないですか。そこのラインはしっかり引いた上で仕事を全うするようにだけは心がけています。それ以外、コートを離れてしまえば本当に楽しく、コミュニケーションを取らせてもらっています(笑)。
__プロフェッショナルですね、本当に。ちなみに個人的にマネージャーの仕事って、痒い所に手が届くというか、周りへの気配りとかも結構大切なのでは?と思うんです。武田さんは6年もブレックスに居るからこそ、ツーカーで分かる部分もきっとあるんじゃないかなと思うのですが、その点いかがでしょう?
武田:やっぱりチームマネージャーの仕事は、仰る通り選手の痒い所に手が届くと言いますか、欲しいなと思っているタイミングで"それ"を出せる気遣いとかは必要だと思っていまして、アンテナは常に張るようにしています。リバウンドを取っているときも周りをチラチラ見て、何か探している選手が居れば声をかけにも行きますし。
ただ、6年も居させていただいてるので、だいたい選手が何を探しているかはわかるようになります(笑)。「それ、あそこにありますよ」って、もう探す前から言っておくこともよくやりますし「あ、これは伝えておかないと忘れるな」ということは事前に伝えたりしますね。もっと言えば「これが無いからパフォーマンス上がらなかった」というのが最悪の着地だと思います・・・なので、『マジカルバナナ』みたいな考え方に近いかもしれませんが、何か1つの事象に対して「Aが起きた。ということはBやCが必要になるのでは?」と連想しながら、常に頭を回して考えています。何かが起こってからではなく、起こる前に、たとえ起きてしまってもそれに瞬時に対処できるように。そういった広い視野をもった方も、チームマネージャーに非常に向いているのかなと思いますね!
__『マジカルバナナ』は会社員として働く上でも大切だと思うので、良いコメントをありがとうございます!改めて、武田さんからチームマネージャーの仕事のやりがいや大変なことについても伺えますか?
武田:やっぱりBリーグは年間60試合あって、宇都宮のホームゲームも各都道府県へのアウェー遠征もあって、準備だなんだって……。仕事の仕方や分担はチームによってさまざまかとは思いますが、結構大変なことも多い。力仕事もあるし、夜遅くまで作業をすることもあります……。正直、楽しい事ばかりとは言えません。僕やトシさんのように、ずっと同じチームでやっている方も、色んなチームを渡り歩いている方もいらっしゃいますが、共通して言えるのはBリーグから必要とされる人材で居続けないといけないことだと思うんです。だからこそ一生懸命仕事をして、その頑張りを見てくれる方がいて、感謝の言葉をいただけることは、どれだけ大変なことがあっても「やっててよかった」って、達成感を感じやすいポジションだとも思いますね!また、前編でもお伝えした通り、試合に勝利したとき、優勝した時のやりがいは、何にも代えられないものがあります。
__前編で意気込みも伺いましたが、来シーズンの武田さんのチームマネージャーという仕事において、どんな活躍をしたいかも聞かせてください!
武田:個人的に、チームマネージャーはポジションだと思っているんですよ。ガードとかフォワード、センターってバスケのポジションがあって、その1つにチームマネージャーっていうポジションもある、ちょっと変な飲みこみ方をしているんです。これは選手からチームマネージャーに転身するときに自分を納得させるための考え方だったのかもかもしれませんが(笑)。ただ、やっぱり選手でもポジション毎にチームに何か貢献しないといけない、ということと同じように、チームマネージャーとしてチームに貢献しないといけないという想いで、キャリアをスタートさせて今日までやってきたつもりです。
ありがたいことに6年やらせていただいて、次で7年目。来シーズンはHCが佐々さん(佐々宜央:宇都宮ブレックスHC。昨年AC)に変わって1つ転換期になります。ただ佐々さんは長くブレックスにも携わっている人なので、新たな船出とはいえ今までのブレックスの良い部分を継続させてくれることは全員がわかっている。そこに自分の力も添えて、バックアップを強固にしていきたいというのが、僕のチームマネジャーというポジションとしてチームに貢献できることだとも思っています。2連覇にチャレンジできるチームをしっかり支えていきたいというのが、ざっくりですが目標です!
__ありがとうございます!それでは最後に、これから「マネージャーになりたい!」と思う方に一言メッセージをお願いします!
武田:人のために何かしたり、チームのために何かをすることで喜びを得られる。自分も一緒になって喜べるっていう部分を持っている人であれば、チームマネージャーの仕事は適任です。いろいろなことにアンテナを張ってフォローするのでちょっとお母さん役みたいなところもあるんですが、そこに挑戦したい、仕事として突き詰めたいという方であれば、きっとBリーグからも必要な人材として認められるんじゃないかなと思います。
あとは勝利すること、優勝って本当に最高だよっていうことは一番伝えたい。いろいろな方から「チームマネージャーってどうやったらなれるんですか?」と、自分のところにも連絡が入ってくるくらい、チームマネージャーをやりたい人、興味を持ってくれている人が増えてきているなと実感しています。チームマネージャーという職業は、正直大変だけど得られるものはそれ以上に大きい。まだまだ僕も突き詰めてやっていきたいので、この場所を目指してくれている人達には「待ってますよ」と伝えたいですね!……(完)
Q:加藤さんから見た武田さんはどんな方か、また仕事に関してどんなところを評価されているか、さらに武田さんに期待していることについて教えてください。
A:武田は大学時代からマネージャー業をやっていたこともあり、細かいところまで気がつき、選手の痒い所に手が届くところが素晴らしいです。かつ、タスク管理がしっかりしており抜け漏れがなく、先を読んで行動できるところが、彼の信頼を厚くしているとも感じています。
その信頼がある上で明るい性格だからこそ、選手を始めスタッフからも慕われる愛されキャラ。私はマネージャーとして長く活躍するためにはコミュニケーション能力と柔軟性が必要と感じていますが、武田はその両方を兼ね備えている存在です。彼の目標にもありましたが、私としてもぜひ、日本を代表するようなマネージャーになってほしい、これからもこの仕事を極めて、業界を牽引する存在になってほしいと思います!
※加藤マネジャーも観葉植物を育てることが好き。現在『ビカクシダ』という植物にハマっているとのこと。
(加藤 敏章/通訳 兼 チームマネジャー・GMアシスタント)
【PROFILE・その2】
武田有人:宇都宮ブレックス・チームマネジャー
バスケットの名門としても名高い拓殖大学在学時代、同期にはBリーグで2年連続個人賞3冠を受賞した藤井祐眞選手らがいた。「当時の藤井選手は武田さんにとってどんな存在だった?」と聞けば「マネージャーになろうと思ったのは、良い意味で彼の存在も大きいです。あんな化け物見ちゃったら、到底かなわないと思っちゃいますよ(笑)」と笑顔で話してくれた。また一方で「1年目から手術・リハビリをしていた僕を退部させずに待っていてくれた拓大バスケ部に恩返ししたい。それができるのは、マネージャーという道しかない」と、人情味あふれるコメントもくれた。ちなみに、翌2022-23シーズンから実の弟にあたる武田壮人氏もBリーグのチームスタッフとして働くことが決定している。「弟は文星芸大附属→拓殖大学→B1チームのスタッフって、僕と同じ道を歩んできているんですよ」と、とても誇らしげに語ってくれた。
余談に余談だが、父方の祖父が『日本のお手玉の協会』の元会長に当たるそう。宇都宮ブレックス#40 ジョシュ・スコット選手に「日本のジャグリングだよ」と、武田氏も当然得意としているお手玉を披露。その動画を撮影したスコット選手がInstagramのストーリーにUPし話題となった。
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