スポーツをやっている全ての人が、その競技で実績を残せるわけではない。全国大会への出場や世界へ挑戦できる人は、本当に1~2割ほどの物凄い努力をされてきた一握りの人だと思う。では、残りの約8割の人は、スポーツの経験をスポーツ以外の分野でどのように生かしているのでしょう。
(株)TOY BOX:テニスエッグ代表の塚本さんは「僕は全国大会に出場したこともない、普通のテニスプレイヤーでしたよ」と笑顔で語る。そんな彼が、当時大阪ではかなり珍しいとされたインドアテニスを個人で立ち上げた理由は?「絶対無理だよ」「そもそも塚本って誰?」と言われた逆境を跳ねのけられた原動力とは?
会社を起こすという選択は中々できることではないが、塚本さんの生き方は、スポーツ好きのあなたにとって参考にしかならないはずだ。
(取材:構成=スポジョバ編集部 小林亘)
__塚本さんは「世の中の役に立つ人間になりたい」という想いで、テニススクール(テニスエッグ)を始められたと伺っていますが、まずご経歴から伺えますか?
塚本:そうですね!小学校のときの文集に「世の中の役に立つ人間になりたい」って書いたのは、今も鮮明に覚えていて、僕が人生で迷ったときは、どっちのほうが世の中の役に立てるかなって考えたりしているくらい、自分の軸になっています。まぁ、テニスに関してですけれど、僕は兄の影響で中学から硬式テニスを始めまして、高校は地元の公立高校。ダブルスで近畿大会には出るくらいでしたけれど「インターハイ出ました!」とかの実績はなくて。テニスは大好きでしたけど、テニスだけで人生を決めるのは怖いなと思って、浪人して大学に行ったんです。でも勉強しなかったので、思ったような学校には行けなかったんですけどね(笑)。
__もともとは普通のテニス好きな学生だったんですね!早速ジョークもいただいてありがとうございます(笑)。大学時代や卒業後のお話も伺えますか?
塚本:まさに大学時代の出会いが、僕の人生を決めたんですよね。大学生の頃、弱小テニス部だったんですけれど、みんなと一緒に頑張ってたんですよ。弱かったけど部活が楽しくて、もっとテニスが好きになって、テニス漬けの毎日にしたいなって思って、テニススクールでアルバイトを初めたんです。そこで新卒入社する会社の社長さんと出会うんですよね。社長、スクールの常連さんで、インカレとか出ている人で上手かったから、一緒に練習したりして、すごく仲が良くってですね。
__その流れでいくと、お誘いを受けてその社長さんの会社に就職された、ということですか?
塚本:そうです!社長が新しい事業として「テニススクールを始めるから、一緒にやらないか」ということで、僕が働いていたクラブから3人くらいですかね、大学を卒業と同時にその会社に入ったんです。だから創業メンバーですね。
__いきなり立ち上げを担うって、結構チャレンジですね!でも、それだけ塚本さんもテニスを仕事にしたいという気持ちがあったんですね!
塚本:テニスなら、世の中の役に立てるなっていう自信はありましたので!ちなみに入社後、25歳で一応支配人という肩書をもらって。結構頑張ってたんですよ!すごく流行ったんですから(笑)。一生懸命テニスがんばるし、元気もいいしやる気もいっぱい。そんなメンツをまとめて、黒字化させることができたって評価いただいて、本社で働いてほしいと言われて。内部のことをやってくれって言われて、一旦現場を離れたんですよね。悲しかったですけど、サラリーマンやからさ。だから26とか27歳くらいで異動した形です。
__テニスコーチの仕事ではなく、社長がやっていた会社で働くことになったということですか?
塚本:そうです!細かい話をすると、本社に戻る前に社長が手掛ける別事業・ラーメン屋さんで働いたりもしたんですよ(笑)。それで本社に入ったのは僕が30歳くらいのときかな。社内の信用はあったから、色んな人に可愛がってもらっていたんですが「社内の仕事よりも、やっぱりテニススクールとか現場で働きたいな」「でもこの人たちのために頑張りたいな」とか、色んな感情を抱きながら、将来について考え始めたんですよね。
__ラーメン屋さんですか!結構異色のキャリアを歩まれていますね(笑)。とはいえ、テニススクールで働きたい気持ちを持ちながら、20代の後半を過ごされていたわけですね。
塚本:そうそうそう(笑)。でも30歳とかで本社に入ったとき、社内では「儲かる儲からない」の話が結構飛び交っていて。オタクも多少あるでしょ?(笑)。社内で「この営業先からいくら受注できました!」とか(笑)。僕、そういうのがあんまり好きじゃなくって。仕事としては、会社をどのように作っていくかっていうのを担うポジションだったので、めちゃめちゃ勉強にはなったんですが。ただ、そういう話を聞くたびに「こいつら美味いラーメンも作れへんのになぁ」なんて思ってしまったりね(笑)。だから「塚本は偽善者や」とか言われましたけど、でもやっぱり「世の中の役に立てると実感できる仕事がしたい」「もっとお客さんと接してやりがいを感じたい」と思って、退職を決意。辞めることもすごく悩んだんですが、やっぱり会社と自分の目指す方向の違いを感じたままではいられなかった。当時35歳かな。年収も1000万近くはあったんですが。
__結構稼がれていたものの、やりがいや仕事に対する充実感を求めて退職されたわけですね。テニスエッグはそこから始めたんですか?起業という一大決心だったと思うのですが、創業当時の話も伺えますか?
塚本:会社を辞めるときに「これからどんな人生にするのか」と、すごく悩みました。やっぱり社会・人の役に立てる人間になりたかったですし、それを叶えるにはどんな選択をしたらいいのかと。でも思っていたのは、前の会社のように「儲かる・儲からない」ではなく、世の中の色んなものに貢献できて、人から「ありがとう」って感謝してもらえるような働き方がしたいってことだけは確かでした。だからこそ、そういう会社を探すより、自分で会社を作って体現したほうが、直接的に世の中のためになれるのではないかな、と思ったことが起業のキッカケではあります。
__「世の中の役に立つ人間になりたい」という塚本さんの強い思いと、何かを与えて感謝されるという直接的なやりがいを求めて、起業という大きな一歩を踏み出したわけですね。
塚本:起業って簡単ではないじゃないですか。だから「できるだろうか」「続くだろうか」と不安ももちろんありました。ただ、前職で学んだ知識や経験が活かせるとは思っていまして。お金の面で考えると、インドアテニスは最初の運転資金とか考えたら1億は必要ですし。「1億か…」とビックリしましたけど、やっぱり決め手になったのはやりがいの部分というか。テニススクールをやるなら理想があったんですね。「テニス業界ってこういうところあるけど、こうしていきたいな」「テニスをもっと普及したいな」と。資金繰りは大変だし、運営も楽じゃないとは思いましたけど、それでも世の中のためになる選択をしたい。その上で自分の想いを強く乗せられるインドアテニススクールを始めることを決断したんです。
__塚本さんはサラリーマンから1億かけてテニススクールを始めたってことで、結構苦労されたんじゃないですか?ノウハウとかもご自身で作っていったと思いますし…。
塚本:そもそも僕、普通の公立高校出身で、大学も弱小テニス部だったんで、テニス業界でエリートなわけでもないんですよ。結構エリートの人たちって、小さいころから繋がってるじゃないですか。でも僕はそういうのが全くない。「塚本って誰やねん」って全然知り合いもいない。協力してくれる人もいなかったので、本当に手探りと言いますか。でも、お金は直前の会社で培った知識や経験のおかげで「お金がないなら投資してもらおう」ってアイデアがあって。不動産投資みたいに建物作ってもらって、利回りを高めに設定して、インドアテニスのコートの部分を誰かに投資してもらおうって。意外とその話を聞いてくれる人も出てきて、実現できたんですよね。完成した瞬間は、すごく嬉しかったですし、これから自分の夢やミッションを叶える人生が始まることに、ワクワクした気持ちがありましたね。
__人脈もお金もなかったけれど、知識と想いだけで事業を始められたって本当にすごいと思います!
塚本:とはいえ、テニススクールに関しては自分の想いや理想が強すぎて空回りしてしまったというか、始めてから3年くらいは全然上手くいかなくて。僕があまりにも未熟だったんですよ。創業当時から『私達は、出会いと笑顔があふれる空間を生み続け、ここで働くスタッフの人生を物心ともに豊かにします』っていう理念は変わっていないんですけれど、思いの伝え方とか優しさとかが全然足りてなくて。「お客様のために」が独り歩きしてしまったような感じですね。そこから人を大切にする経営方法とかを勉強するようになって、今も勉強中なんです。
__「会社作り」を学ぶ中で、どのように塚本さんの理想へと持っていくと言いますか。いわゆる家族経営的なところを目指されていると思うので、最初のつまづきから、どう変化していったのか気になります!
塚本:世の中の役に立つ人間になるためにっていうベクトルを、より社内に向けたと言いますか。僕の中で、ONとOFFって分けられないと思ってるんです。だって時間が来たらバーン!って切り替えられないじゃないですか?もちろん24時間365日働けっていう話ではないですよ。でも、だからこそ会社って家族みたいな場所じゃないとダメなんじゃないのって思っています。厳しいときも優しいときもある。お互い同じ方向を向いて幸せになろうねって。しんどいときはちょっと休憩してねって。
__その塩梅と言いますか、厳しさの中にあるやさしさみたいなものも、塚本さんの魅力だとは思うんですが、色々経営を学んでいく内に、塚本さんのお考えと会社の方向がマッチしてきたということですね!
塚本:僕が社員と「一緒に目指していこう」って意識を変えてから、だいぶ整ってきた印象はあります。まぁたとえばですけれど「彼女とデートだから休みたい」って全然OKなんですよ。有給もバンバン取れって言ってます。ただ、忙しいときは協力してなって。私も有給使ってテニスの大会とか出ていますから。何より目指しているのは「厳しくて優しくて強い」会社ですね。ただ表裏一体で「甘くて優しくて弱い」会社という側面も持ち合わせているので、そこを常に学びながらみんなで成長していく。僕がガムシャラに頑張るのではなくて、みんなと一緒に。今はまだ、その途中段階にありますね。
__設立から10年を迎えて、御社はこれからもっと成長されていくフェーズにあると思うんですね。そのために今回の求人もあると思うんですが、どんな人を採用したいとか、これまでどんな人を採用してきたかとか、教えていただけますか?
塚本:やっぱりまずは理念に共感してくれること。先ほどもお伝えしましたけれど『私達は、出会いと笑顔があふれる空間を生み続け、ここで働くスタッフの人生を物心ともに豊かにします』っていう理念ですね。やっぱり会社って、お金儲けの箱ではいけないと思うんですよ。だからこそ、人と人の心が通じ合うようなね、そんな雰囲気から作っていくには、思いを共感できる人だとすごく嬉しいなって気持ちではあります。
__塚本さんからは「理念に共感してくれること」がオーダーなわけですね!人柄の部分ではいかがですか?
塚本:集団の中の1人である、という意識を持っている人ですね。個々の能力を高めるのはすごく大切ですし、あくまで物事は個の力で進んでいくんですけれど、人の能力はお客様とか仲間のために使ってはじめて物凄く輝くし、本当に幸せな気持ちになれるのはその瞬間っていうことを、感覚で良いのでわかっている人だとウチにはピッタリだなって思いますね。
__でも、面接でそれを見極めるのって結構難しくないですか?塚本さんは面接でどんなことを聞かれているんですか?
塚本:いや、そうなんですよ!すごく難しくってわかりにくいんですよね。面接も普通です(笑)。とはいえ、それこそ新入社員には「人のためになる人間か、スーパースターか、どっちになりたい?」ってのは聞きます。それで「エキスパートになって、とにかく自分が目立ちたい、輝きたい」って人は採用してないですね。あくまで集団の中の個で、あなたが力を発揮することで集団が良くなるっていうのを絶対に忘れないでほしいとは思っています。因数分解すると[社会]→[会社]→[個人]じゃないですか。
__そうですね!つまるところ、社会・世の中の役に立つためには、個人が良くないといけないですけど、その矛先が同じかどうかが大切ということですね。
塚本:[個人]→[個人]ではなくて、[個人]→[会社]→[社会]っていう流れですよね。仰る通り、僕の座右の銘は「世の中の役に立つ人間になる」ということですけど、やっぱりそこが一番大事だと思うんですよ。当社を選んでくれた方には、ココを通じて色んな経験を積んで、毎日いろんなところで良い影響を与えてほしい。そういう人材(=たまご)が生まれる場所(=会社)として『テニスエッグ』があって、世の中の役に立てる人間を、少しでも多く輩出できたら、これ以上幸せなことはないですね。
__塚本さんの想い、たっぷり記事で伝えられるように頑張ります!今日はありがとうございました!
【PROFILE】
塚本 将二 / 代表取締役社長・コーチ
大阪府八尾市出身。兄の影響でテニスを始める。地元が硬式テニスが盛んなエリアだったことから、中学から大学まで硬式テニスをプレイ。大学生の頃に始めたテニスコーチのアルバイトをしていた際、常連の社長が「テニススクールを始める」ということで卒業後に入社。25歳でスクールの支配人を務め黒字化させたことが評価され、社長の右腕として別事業(ラーメン屋など)の成長も担った。さまざまな仕事を経験し収入もよかったものの、30代前半のときに、元々やりたかったテニススクールをイチから立ち上げた。これが現在のテニスエッグである。
座右の銘は、小学生の頃にも文集に書いた「世の中の役に立つ人間になる」という言葉。現在46歳だが、日本テニス協会主催の国内ベテランツアーには10年近く参加し続けているほどテニスを愛している。日本ランキングは過去最高で43位。ちなみにバイブルは『北斗の拳』。
▼テニスエッグの求人はコチラ
設立年月 | 2010年02月 | |
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代表者 | 塚本将二 | |
従業員数 | 40名(社員12名:アルバイト28名) | |
業務内容 | ・テニススクールの運営(インドア2校・ジュニアアカデミー1校)
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