キッカケは『みんゴル』だけど、気が付けば自分にはゴルフしかなかった。苦難を乗り越えた先にあった、輝かしいキャリアとは

プロキャディ/女子プロゴルファー石井理緒選手の専属コーチ 栗永 遼

キッカケは『みんゴル』だけど、気が付けば自分にはゴルフしかなかった。苦難を乗り越えた先にあった、輝かしいキャリアとは

プロキャディ/女子プロゴルファー石井理緒選手の専属コーチ 栗永 遼

プロになれる実力がありながら、突然襲ってきた悲劇。その現状を受け入れ、大好きな業界にある別の道で生き続ける。この選択、なかなかできることではないと思います。ちなみにあなたは、得意とする武器が明日から全く使い物にならなくなってしまったら、どんな選択を取りますか?

今回お話を伺ったのは、プロキャディとして全国を飛び回って活躍をされている栗永 遼(くりなが りょう)さん。前編では、彼がキャディとして歩んできた道のりについて記します。そこには多くの苦悩と感動、そして笑いがあり、多くの人に勇気を与えてくれるはずだと私は信じています。

(取材:構成=スポジョバ編集部 小林亘)


プロゴルファーを諦めても、ゴルフに携わることは絶対諦めない。次に選んだ道とは

__栗永さんは、プロキャディとして全国飛び回って活躍されていると伺っていますが、もともとはゴルフをやられていたんですよね?始めたキッカケからお伺いできますか?

栗永:初めてゴルフをやったのは7歳くらいのときですかね。ゴルファーは「お父さんに連れて行かれてはじめた」という方がほとんどなんですが、僕はそれ2番目でして。1番目の理由はゲームで…。

__げ、ゲーム…?『みんなのゴルフ』とかですか?

栗永:あ、そうです!『みんゴル』にめちゃめちゃハマっていて(笑)。そんなとき、たまたま家の倉庫にあったクラブを見つけまして。「これじゃね!?」って。そこで家の庭に穴を掘って練習し始めたのが最初です(笑)。毎日のように僕が練習しているものですから、見かねた祖父が「一緒にプロの試合を観に行こう」って連れて行ってくれたんですよ。そこで行われていたジュニアレッスン会で、増田伸洋プロに教えてもらったんですが、初めて生で見るプロゴルファーはカッコよくって、とにかく嬉しくて。それで教え通りに打ったら僕、ナイスショットを出しちゃって。あの日以降、ゴルフ漬けの日々が始まったっていう感じですかね。

__まさか『みんゴル』がキッカケとは(笑)でもプロに出会って、褒めてもらえて、憧れて…と、『みんゴル』様様ですね(笑)。ちなみに、キャディに転向することになった理由を聞いてもよろしいですか?

栗永:大学2年生のとき、ドライバーイップスになったんですよ。身体が思い通りに動かない。それこそ中高とドライバーはすごく得意で、OBも年に1回するかしないかだったのに、突然なんです。フェアウェイに行かない。OBが止まらない。滅多になかったんですが、90とか94とか打つようになってしまって。「さすがにプロゴルファーは厳しいな」「でもそれしか考えてなかったし、この先どうしよう」「俺、就活すんのかな」とか、色々考えてましたね。

__それはツラい……。

栗永:この悩みを大学の同級生であり親友の稲森佑貴プロに相談したんです。そうしたら「キャディやってみたら?」って。何気なくポンって言っただけだと思うんですが、僕の中ではしっくり来て、興味を持ったんですよ。そもそも大学のゴルフ部で「教え上手」って言われていて。僕が教えたら良い結果になることが多くて、すごく評判もよくって。だから「キャディならできそうだな」って思えたというか。一線から退く決断をしても、違和感はそこまでなかったんです!




▲写真[左:稲森佑貴プロ、右:栗永さん] ※本人提供


そもそも”プロキャディ”とは。少しずつ、着実に歩み始めた第2のキャリア

__プロキャディに転向するって決めたのは大学2年生の頃だったと思うのですが、その後はどのような形で、キャリアを歩んでこられたんですか?

栗永:大学を中退して地元の香川に戻って『3.7.3.ゴルフアカデミー』という僕の師匠に当たる方のところで3年、ハウスキャディ兼インストラクターとして働いてました。そこでプロキャディという仕事の在り方を教わって、2016年からスポットで入るようになり、2019年からは正式にプロキャディとして働いてますね。

__すみません。そもそも「プロキャディ」ってどんなお仕事なんですか…?ハウスキャディさんは想像できるのですが…。

栗永:興味を持ってくださって嬉しいです!言葉の意味としては曖昧なところで「プロフェッショナルなキャディ」か「プロ選手のキャディ」か。僕は両方の意味があると思っているのですが、究極は誰のキャディをやっても良いマネジメントができること。選手のモチベーションのコントロールも、攻め方の相談に乗ることも、必要であれば雑談も。そういうのを含めて、対応していくお仕事だと捉えています。それこそボール拭いたりコース案内したりっていうのは、ハウスキャディさんとも同じだとは思いますね。

__そうすると、担当するプロゴルファーさんによって、キャディさんとしての立ち振る舞いも変わってきそうですね。

栗永:仰る通りです。それこそ皆さんご存知の渋野日向子プロみたいに、ずーっと笑顔を振りまくタイプだったら、話したほうが落ち着くだろうし。「ほかの人とは話さないで。バーディとっても笑わないで」って言うタイプの選手もいます。結構、空気を読むと言いますか、選手に合わせることが大切だと思っていて。僕の場合は1人の選手とずっとやるっていうより、いろんな選手とやっているので、毎週自分のタイプが違うんですよね。そういう仕事です(笑)

__技術的な話もされると先ほど仰っていましたけど、それこそ選手と「ここはフックかな、スライスかな」とか、そういった相談もしながら回っているんですか?

栗永:そうです!あ、ちなみにその辺りはハウスキャディとは全然違うと思います。たとえばプロって、1位になるか2位になるかで、賞金が倍くらい違うケースって多いんですよ。1位1500万、2位700万みたいな。当然、みんな高い順位で終わりたいから、プロキャディは「いかに高いスコアをプロと一緒に創っていけるか」が大切で、ハウスキャディは「いかに気持ちよく帰ってもらうか」が重要です。だからこそ、僕らプロキャディは技術的な相談ももちろん乗ります。その分、プロが勝てなかったときは申し訳なくなりますね。「栗永さんごめんなさい…」という選手もいれば「キャディがライン読み違えたから」という選手もいますから(笑)

__えっ…ぶっちゃけ、ストレスたまらないんですか?(笑)

栗永:そう思いますよね(笑)でも、全然ですよ!僕は選手が勝つためなら、何だって頑張りたいって思ってますし、何よりも楽しいですから!




▲写真[左:石井理緒プロ、右:栗永さん] ※本人提供


初めて触れ合ったプロと、あのときと同じ高松で、感動の再会を果たす

__これまでのお話だけ切り取ると、とても大変そうだなってイメージしてしまうのですが(笑)嬉しかった・楽しかったエピソードもぜひ聞かせてください!

栗永:それはめちゃくちゃあります。数えきれないくらい。一番印象的なのは、冒頭に少しお話した増田伸洋プロの話。実は、3年前くらいにキャディをやらせてもらって。ことの経緯として、僕が大学を中退して香川の『3.7.3.ゴルフアカデミー』に居たとき、師匠である南プロの知り合いの紹介で増田伸洋プロが来てくれて。「ウチの若手で頑張ってる子なんで、キャディで使ってやってください」って南プロが僕を紹介してくださって。「おぉ良いね!やろう!」ってプロも快諾。で、このとき僕『絶対ジュニアレッスン会のこと、初めて会ったプロが増田プロです』って言おうって決めてて。

__めちゃめちゃアツい展開…!

栗永:そのあと3人でご飯を食べているときに「増田プロ、実は僕がゴルフを始める大きなキッカケになったジュニアレッスン会で、初めて触れ合ったのが増田プロだったんです。だから僕、プロキャディやろうってお話いただいて、すごくご縁に感じました」ってお伝えしたんですよ。当時の写真もボールも見せて。「今もそのときも高松だったので、凄く感動しています」とお伝えしたら「あのときの子か、覚えてるよ!うれしいなぁ……」ってプロが泣いちゃって。

__すごい…それは巡りあわせというか…。僕も泣けてきました。

栗永:師匠にも言ってなかったので、ビックリしていましたね。あの瞬間は、キャディやっててよかったって思いましたし、この仕事を選んでよかったとも思えました。結局、コンビ組んで試合も10位台で終わっていい結果だったんです。そこから僕も自信がついたと言いますか、もっとキャディとして成長しなきゃって思うキッカケにもなりました。

__『憧れの人とコンビを組んで試合に出た』というだけでも、かなり嬉しい経験ですね。ほかのスポーツではなかなかできない経験だとも思いますし。栗永さんがキャディを頑張り続ける理由も納得と言いますか。

栗永:あとは2019年に本格的にプロキャディを始めた年に、初優勝できたのは感無量でした。淺井咲希プロっていう、ちょうど渋野日向子プロとかがいる黄金世代と言われている選手と優勝したんですが、僕と同級生のプロキャディの子から彼女を紹介してもらって組むことになって。「今週お願いします!」で初めてコンビを組んで、どんなゴルフをするかも分かっていない状況から始まったので、最初はどうなるかと思っていましたよ(笑)




▲大切にしている「感謝と恩返し」という言葉が入った、栗永さんのノートカバー


信頼関係が全て。彼女から信じられ、自分も信じたから掴んだ初優勝

__初優勝のときの話も、聞かせてください。最初は、淺井プロとどんなお話をしたんですか?

栗永:「前の週、ショットはよかったんですがパターが入らなくて負けちゃって…」と悩みを相談してくれて。いろいろ話を聞いた結果「アドレス(構え方)を意識して今週頑張ろう!」って話をしました。それでその週の『CATレディース@大箱根カントリー』という試合を迎えたんですが、ビックリするくらいパターが覚醒しまして。自慢になっちゃうんですが本当にハマっちゃって。出だしからずっと首位だったんです。

__え、すごい!それは栗永さんの力ですね!!

栗永:「ライン読みは僕がやるから、そこに打つことだけ考えて」って言って、打ったら入って。また打ったら入って。「あれ?」ってなりました(笑)でも、とにかく僕らのテーマは「パターを頑張る」だったので、首位っていう自覚は無くて。で、そのまま最終日を迎えて、最終18番を2位の選手と2打差で迎えたんです。

__おぉ!そんなに順調だったんですか!素人目線だと、普通にやれば勝てるなって思っちゃいますが…?

栗永:僕もそう思ってて、最後はカップから40cmくらいだったから大丈夫だろうと。次ポンってやるくらいで入るだろうと。それが入れば初優勝。ギャラリーからの「うおおおお!」っていうのを聞きたくて、目を閉じていたんです(笑)……だけど、聞こえたのはざわめきでした。目を開けたら外してて、だいぶ下っちゃってて。選手は「また苦手なパターでやっちゃった…」って、頭が真っ白になってたとも思いますね。

__調子よく回れてただけに、前週のミスが蘇ってしまったんですね。

栗永:でも、彼女はすごかった。選手はこういうとき「フックかスライスか」を聞くことが多いのですが、聞いて来なかったんですよ。「今週やってきたことをやったら、入る?」って聞いてきて。僕は鳥肌でした。「絶対入るけん、やりきりな」って言ったら、本当に入って。

そのパターはすごくイヤだったと思うんですよ。ムズかしいパターだったし。でもそれを克服して優勝できたから、僕は大号泣でした(笑)その週一緒にテーマを決めて頑張ってきて、それを信じてくれたのが嬉しくて、優勝もできて。僕はプロゴルファーにはなれなかったけど、プロゴルファーを優勝させることができて本当によかったって心から思えました。あの経験が、今も僕を支えている1つであることは、間違いないです。

▶▶▶次回「プロキャディが絶対に叶えたい未来とは。目標は〇〇を創ることと現役復帰!?」につづく





▲写真[左:栗永さん、右:淺井咲希プロ] ※本人提供


【PROFILE】

栗永 遼 (くりなが りょう) / 1995年生まれ・香川県出身

ゴルフを始めたキッカケはTVゲーム『みんなのゴルフ』。7歳頃、祖父に連れられて参加したジュニアレッスン会にて、増田伸洋プロのコーチングによりナイスショットを出したことからゴルフに没頭する日々へ。大学在学中、得意だったドライバーのイップスになってしまった際に、同級生で親友の稲森佑貴プロに勧められキャディへ転身。2019年シーズンから本格的にプロキャディとして活躍し、同年8月には『CATレディース@大箱根カントリー』で淺井咲希プロと念願の初優勝。2020年シーズンからは石井理緒プロのコーチとしても活動している。

座右の銘は『感謝と恩返し』。ゴルフ以外で好きなことは競馬。「ジョッキーとキャディは似てる」と独自の見解も話してくれた。「ディープインパクトが全て」と語るほど競技を愛しており、休日の日課は競馬中継を見ること。推しは当然コントレイル。憧れは武豊氏。


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