ぴあ株式会社が2021年に開講したスポーツビジネススクール・ぴあスポーツビジネスプログラム(ぴあSBP)。チケッティングはもちろん、ぴあのスタッフがスポーツクラブなどで出向してきた経験なども踏まえた、リアルで実践的なプログラムです。このぴあSBPは、同社スポーツビジネスマネジメント部・部長の坂井亮太さんが立ち上げメンバーの一員として、コロナ禍に立ち上げたものだということは前回の記事でご紹介しました。
その坂井さんは入社当時、ご自身が続けていた競泳以外のスポーツについての知識も興味もまったくなかったといいます。J1横浜F・マリノスへの出向を皮切りに、B.LEAGUE、ラグビーW杯2019、そして東京五輪などのスポーツイベントに携わり続けてきました。そんな坂井さんが現在感じているスポーツビジネスの魅力。そして大切にしていきたいことについて伺いました。
▼ぴあSBPの魅力を語った前編はコチラ
──坂井さんは幼少期から大学生まで20年間競泳を続けられていたそうですが、スポーツビジネスに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
坂井 最初は仕事としてやれと言われたから始めたところがあって……。
──えっ…、スポーツビジネスに関わりたくてぴあに入社されたわけではなかったんですか?
坂井 はい。就職活動を始めるときに“モノを売るのか、コトを売るのか”という選択軸で考えて、自分はコトを売るタイプだなと思っていました。その頃、人にメッセージを伝えられる仕事もしたいなと思っていたので、広告業界などの求人を見ていたんです。そのなかでぴあという会社に出会いました。今はデジタル化されていることも多いですが、チケットという紙切れ1枚に対して1万円、2万円を払うわけじゃないですか。そう考えたときに、そこに乗る価値を創る仕事、このチケットを通して人と人をつなぐ仕事は面白そうだなと思って。

──大学生まで続けられていたスポーツとは関係ないお仕事を考えていたんですね。
坂井 そうだったんですが……ぴあの入社面接で「競泳を20年間やってきました」と言っていたからか、入社後、スポーツ部門に配属になりました。だからスポーツビジネスに興味を持って入ってきたわけではなくて。結果的にスポーツビジネスに関わることになったというだけなんです。むしろ競泳しかやってこなかったので、他のスポーツのことは何もわからなくて。最初にJリーグの担当になりましたが、その時点で知っているクラブは清水エスパルスとヴェルディ川崎」と言ったことを覚えています。「今は『東京ヴェルディ』だよ」と笑われましたが。
──とはいえ、その後、立ち上がって間もなかったB.LEAGUEのプロジェクトリーダー、ラグビーワールドカップ2019チケットボックスマネージャーなど、スポーツビジネスの中心に入っていく仕事を任されていきます。スポーツビジネスに対して考えが変わった瞬間などはあるのでしょうか?
坂井 転機は入社3年目に横浜マリノス株式会社に出向したことですね。私は横浜出身ではないのに、出向のタイミングで横浜に引っ越しして、なんだかんだ今も横浜に住んでいますからね(笑)。
──仕事がきっかけとはいえ、横浜に馴染んでいったのですね。横浜F・マリノスでどのような経験をされたのでしょうか?
坂井 クラブで働いたことによって「この仕事は人の喜怒哀楽を伝えられる仕事なんだ」と知りました。そのときに「この仕事は世の中を良くしていくんだ」という実感が湧いてきました。今でも当時一緒に働いていた方々とはありがたいことに仲良くさせてもらっていますし、ビジネスパーソンとしての私を育ててくれたのは間違いなくF・マリノスだと思っています。

(横浜F・マリノス出向時代の坂井さん)
──具体的に、どのような出来事が坂井さんを変えたのでしょうか?
坂井 私はチケット・ファンクラブ担当としてマリノスで働いていたのですが、「お客様やクラブのためになることであれば、自由に考えて自由に動いてよい」という環境を与えてもらっていました。もちろん失敗もありましたけど、自分がやったことがダイレクトにお客様に届くことが実感できる、やりがいのある仕事でした。ここでいう「お客様」とはF・マリノスの試合にいらっしゃるファンやサポーター。今まで私が接したことのない人たちでした。その方たちに何かを届ける仕事というのは、喜びでもある一方、大変なことも多くて。だけど、そういう熱量の高い方々に届けるというのが面白かった。一方で、スタジアムが埋まっているのかというとまた別の問題でして…。
──マリノスのホームスタジアムは日産スタジアム。キャパシティーはおよそ72,000席と、日本最大規模のスタジアムですもんね。
坂井 そう。だからJリーグの試合で日産スタジアムが埋まることはほぼほぼありません。だけど、逆に言うと埋まっていないところはビジネスチャンスなんです。そこをどう埋めるか。そういう課題感が自分の中に生まれて「これは頑張りたい」と思いました。そして、自分を変えた出来事がもう一つありました。私はチケットとファンクラブの担当だったので、ファンクラブの改革をすることにしたんです。当時でいうと、ファンクラブの会員とシーズンチケットの会員がいて、データベースが統一されていなかったのですが、その改革の仕事を私に与えてくださったことはすごくやりがいがありました。3~4カ月というスピード感で色んなものを見直していきました。
──サポーターの思いや要望を大切にしながら、それまで別々だったものを1つに集約していくというのは、想像以上に大変だったでしょうね。
坂井 はい。すごく大変でしたが、この仕事をやり遂げられたことは自分にとっても非常に大きな出来事でした。もう一つ印象的な経験がありまして、この環境を与えてくださったことに、感謝しています。2013年11月30日、J1シーズンのホーム最終節。引き分け以上で優勝が決定するという試合でした。この試合で62,632人のお客様に来ていただくことができたんです。現在は更新された記録ですが、当時のJリーグの最多入場者数で、62,632人が入ったスタジアムは本当に圧巻でした。そのときに「横浜にはこれだけのポテンシャルがあるんだ」と感じました。それは衝撃的な体験でした。本当はその人たちに勝ちを見せられると次につながるんですが、負けてしまって……。そればかりは事業側ではどうにもならない話なんですけどね。他にもいろいろありますが、そういった出来事をいくつも経験して「この世界にもっと貢献していきたい」と思って、スポーツビジネスに対する気持ちは大きくなっていきました。
──坂井さんのキャリアにおいても、マリノスでの経験は得難いものになったわけですね。その後もさまざまなスポーツに関わられていますが、そのなかでマリノスの経験が特に生きたと思うものはありますか?
坂井 人脈づくりです。仕事ではないので触れられなかったのですが、マリノス在籍期間中、いろいろなクラブの方とつながるようにしていました。というのも、当時のクラブは私が思っていた以上に縦割りの感覚があって、例えば、お隣の川崎フロンターレさんのことはほとんど分からない。だから横串で情報交換ができたほうがいいんじゃないかと思って、関東のJクラブのフロントスタッフを集めて飲み会を開催したりしていました。最初は仕事にならなくても、続けていくうちにいろんなところでつながってきて。その人脈は今も大切にしていますし、人とつながっていくという考えは今でも大切にしています。

(ぴあSBPの卒業生、パートナー企業や登壇講師、運営事務局スタッフらが一堂に会する「ホームカミングデー」にて。前列中央左が坂井さん)
──その後もさまざまなスポーツや大会に関われていきますが、特に印象的なものはありますか?
坂井 コロナ禍での東京オリンピック「TOKYO2020」ですかね。僕はベニューチケッティングマネージャーで、現場の対応をしていただけでしたが、そもそも「お客さんがいないオリンピックなんてどういうこと?!」という状態で。
──確かに前代未聞でしたよね。
坂井 そもそも開催も1年遅れましたし。とはいえ、ほとんどの会場が無観客の中、場所によってはまん防(感染まん延防止重点措置)に従って、少しだけお客さんが入れた会場もありました。観客のいる会場を見たときに、お客さんのありがたさを感じました。ビジネスの視点ではなく「お客さんがいるだけで、選手やプレイヤーの皆さんのモチベーションが全然違うな」という点で。コロナ禍では、オリンピックに限らずオンラインで応援ができるシステムなどもありましたが、その後、実際またお客さんが入るようになった会場を見て、やはりお客さんがいることがスポーツだなと思いました。その時に改めて、リアルの必要性を再確認しました。もちろん収益の柱にもなりますし。そのうえで「スタジアムとお客さんをつないでいるものは何か?」と考えると、それがチケットになるわけで。私たちぴあが担っている役割は非常に大きいんだな、と非常に強く感じました。

(左から2019ラグビーW杯、東京五輪、世界陸上東京大会の各パス)
──そうしてぴあSBPを立ち上げられたんですね。ぴあSBPを始めたことで、坂井さんご自身は考え方に変化が現れるなど、何か影響はありましたか?
坂井 やってきたことは正しかったなと思いました。ただ、このぴあSBPというスクールや、ぴあSBPで教えている考え方を広めたいと思った時に、広めていく難しさを感じたのも事実でした。でもそういう課題を感じているからこそ、私が世の中に発信していく必要がある。そういう意味では、ぴあSBPを始めたことで、ぴあSBPの存在そのものや、プログラムのベースとなる考え方を広める必要性、伝える必要性を、より感じるようになりました。
──はじめは「仕事でやれと言われたから」という理由で足を踏み入れたスポーツビジネス業界ですが、これまでキャリアを歩まれて坂井さんが改めて思う、スポーツビジネスの面白さや魅力はどのようなものですか?
坂井 関わるスポーツにもよりますが、リーグスポーツだったらまずは毎週末、勝ち負けがあること。これって普通の会社だとありえない話ですよね。前提として事業に、勝ち負けは関係ないです。勝敗に関係なく、集客しなくてはいけないですし、ビジネスをしないといけない。そんな中で毎週末試合がある、勝敗がある、というのはすごく面白いなと思います。
──確かに。なかなか普通の仕事では味わえない刺激ですよね。
坂井 それと、スポーツで人を元気にしたり、幸せにしたり、豊かにすることができること。スポーツって悪い要素がないんですよ。だから、公共の財産として扱われている。クラブの規模は中小企業ですが、行政が何かしらサポートしてくれます。すごく簡単に言うと行政が後押ししてくれる会社なんです。だからこそ、公共性を持って、スポーツが地域を豊かにするという社会貢献ができます。ぴあでは「これからは『心』の時代」と提唱しています。そういう意味では、スポーツも音楽などのエンタメも同じ。ただスポーツはエンタメよりも地域に根付いていて、その地域を豊かにすることができる。地域貢献というところにダイレクトに関わっていけるというのは、スポーツビジネスの魅力であり、やりがいでもあるのかなと思います。

【PROFILE】
坂井 亮太(さかい りょうた)東京都出身。都立西高校~立教大学コミュニティ福祉学部コミュニティ福祉学科卒。3歳から大学卒業まで競泳に励んでいた。ぴあには2009年に入社し、横浜F.マリノスへの出向、2019年ラグビーW杯チケットボックスマネージャー、TOKYO 2020 ベニューチケッティングマネージャーなどを経験。
| 設立年月 | 1974年12月 | |
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| 代表者 | 矢内 廣 | |
| 従業員数 | 517人 (2025年3月31日現在・連結) | |
| 業務内容 | 音楽・スポーツ・演劇・映画・各種イベント等のチケット販売
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