カッコいいだけのデザインは要らない。プロスポーツを盛り上げるデザイナーが、アツい想いから作る〇〇【前編】

デザイナー・演出家 高良 和忠

カッコいいだけのデザインは要らない。プロスポーツを盛り上げるデザイナーが、アツい想いから作る〇〇【前編】

デザイナー・演出家 高良 和忠

「会社を辞める」という選択は、非常に勇気の要る決断だと思う。「やりたいことがある」「どうしても実現したい夢がある」としても、お世話になった会社・先輩への想いは、そう簡単にサヨナラできるものでもないだろう。それでも転職という選択をする人が多い中で、次なる道に「独立」を選択する人の勇気は、”会社から会社”の転職よりはるかにハードルが高いと思う。

今回お話を伺った高良和忠(たから かずただ)さんは、今年の7月に大好きなバスケチームを去り、独立という新たなフィールドに立った。まさに「独立したて」の彼にインタビューする中で、仕事1つひとつに対する思い入れや芯の強さを感じることができた。前半は会社員編。後半は独立編と2本立てでご紹介する。この記事は、独立を視野に入れているあなたに、ぜひ読んでほしい。

(取材:構成=スポジョバ編集部 小林亘)



「僕は、デザインでスポーツに関われるなんて思っていませんでした」

__高良さんはこの夏に独立されたと伺っています。その辺りの経緯は後半にお伺いできればと思うのですが、まずは独立に至るまでのお話、伺えますか?

高良:ざっくりお伝えすると、大学を卒業した後、専門学校に行ってデザインを学びました。その後、amanaグループ内の制作会社にデザイナーとして入って、そのあとにプロバスケットボールクラブ「千葉ジェッツ」でデザイナーとして働いてました。どっちも5年ずつくらいですかね、席を置いてました。そもそもあんまり会社に縛られるというか、ルールとかも好きじゃないんですよ(笑)。僕はバスケをずっとやってたんですけど、それこそ「なんで3歩歩いちゃいけないんだろう」みたいな、無駄に常識を疑うタイプで、会社員向きじゃないというか(笑)。もちろん自分の力で食べていきたいって想いもあってこの道を選んではいるので、独立はずっとしたいと思ってました。

__私もバスケ好きでして、話を始めたら止まらなくなりそうなので一旦軌道修正しますね(笑)。会社員時代の話も少しお伺いしたいです。そもそもプロバスケチームのデザイナーという席に座っていただけでも凄いと思うのですが、その辺りの話も聞かせてください。

高良:のっけからすみません(笑)。でも、正直”たまたま”です。前職時代の同僚が先に千葉ジェッツへ広報として転職して。彼から「ウチの会社、デザイナー募集してるけどどう?」って誘ってもらったんですよ。それがキッカケです。今思えば、当時の日本のバスケってあんまり把握してなくて、千葉ジェッツはもちろんBリーグの存在すらほとんど知りませんでした(笑)。

__意外ですね(笑)。ということは、スポーツチームでデザイナーをやろうっていう頭はあんまりなかったんですか?

高良全くなかったですね。最初は転職するか迷いましたよ(笑)。たぶん、チラシとかばっかり作るんだろうなぁなんて生意気にも思ってたんで(笑)。ただ、やっぱり僕も学生時代までずっとバスケやってきて、いつか競技に恩返ししたいって思っていたんです。それに仰る通りでチームに所属するデザイナーって希少で、仕事もあって無いようなものだったから、もう開拓していこうって。

__バスケに恩返しという根幹の部分が、高良さんに火を灯したわけですね!

高良:やることは自分で増やせばいくらでも生まれるだろうと思って。そういう内容も含めて色々履歴書には書いたんですよ。でも僕、履歴書を書くのがすごく苦手で、千葉ジェッツ以外に7社くらいデザインの制作会社を受けたんですが、全滅してました(笑)。ただ、その時ばかりは裏側までビッシリ書いた記憶があります。それを当時の社長の島田さんが気に入ってくださったようで、転職できたって形です。





初めてだらけの毎日でも、充実した毎日を送れたのは。

__情熱が島田チェアマンに伝わって何よりです。やっぱり採用する側も、熱のある人を雇いたいとも思いますし。ところで、入社時はどんなお仕事をされていたんですか?

高良:WEBバナーから始まって、チラシ、グッズ、会場のポップとか、もう全てですね。でも、当時を否定するつもりも上から目線でもないんですが、やっぱりバナーもポスターもデザイン自体も考え方が良く思いませんでした。だから「これよりは100%僕の方がイイのができる」って自信だけはあって。もちろん、たとえば佐藤可士和さんとか有名デザイナーに発注したら、とんでもなく良いものが完成すると思うんです。僕はそのレベルには全然ならないですけど、そこを目指してまずは1つずつ最低限を上げていこうって、とにかく暗中模索で色々やってました。

__デザインだけではなく、演出も担当されていたと耳にしていたんですけれど、その点に関しては未経験ですよね?大変ではなかったですか?

高良:そうなんですよ。最初はヤバかったです(汗)。ただ、やっていく内にデザインと同じことだって気づきました。特に人に喜んでもらうところは一緒で、ちょっとしたベクトルの違いなだけです。それがいきなり「どんな曲にしよう……」みたいに始まったら難しいですけど、今回は何がしたくて何を届けたくて、どんな風に思われたいかって考えたときに「じゃあこういう曲が良いんじゃないかな」「炎が出たほうがいいじゃん」とか。その辺りの考え方はデザインと何も変わらないと思ったので、最初は大変でしたけど、結構すぐ入り込めましたね。

__デザインも演出も、さまざまな案件を手掛けてきたわけですね。それこそ最初は「チラシばっか作るんだろうな」と思っていたかもしれないものの、仕事は楽しかったんじゃないかな?と想像します。

高良:仰る通りで、全部楽しかったです(笑)。やっぱりバスケに恩返ししたいって気持ちで来たので、当たり前ですけど、どんな仕事も手を抜かないってことだけは決めてやってて。それこそ僕を誘ってくれた広報が「TwitterでこれPRしたいから、画像作って」とか依頼をくれるんですけれど、そういう細かい案件も全部本気でやっていました。あとはやっぱり広告ですね。僕がアートディレクターとして企画・進行して、フォトグラファーの選定はもちろん、映像制作会社さんと一緒に作ったりとか。約5年で「やっとここまでたどり着けた」って感じで嬉しかった。あと「来年はこうなっているべきだから、今年はこれをやる」って翌年やその先を想定してクリエイティブを作って、広告もそういう先々を考えながら出せたのは、すごく楽しかったですし、毎日が勉強でした。




自身もディレクターとして携わった、千葉ジェッツAT多田 我樹丸さんのジム『GsLABO』の壁面デザイン。イラストは田村大さん。


クリエイティブで大切にしていることは「問いかけ」

__もう一つだけ、前職である千葉ジェッツに関わるお話を伺いたいです。それこそ退職される前に、新ロゴを手掛けられたとも聞いているんですが……。

高良:そうですね。あれが千葉ジェッツで僕がクリエイティブ・ディレクターとしての最後の仕事になりました。あのロゴの一番の役目について説明させて頂くと、やっぱりバスケってまだまだ知名度も低いと言いますか、当時の僕がそうでしたけど、チケットもみんなで頑張ってお客さんに伝えて、買っていただいて、なんとか満員の状態をつくっていたんです。だからこそ、もっと地域の方々に知ってもらうことが第一だと考えていたんです。それこそ子どもたちでも商店街のおばちゃんでもわかるような。地域に馴染みやすい、すぐ理解されるようなロゴにしようってことで、携わらせてもらいました。

__新ロゴをつくるときに大切にされたこととかも教えていただけますか?

高良:チームが何を目指したいのか、どんなことを伝えたいのかっていう”想い”の部分と、スポンサーさんやファンとの”関係性のバランス”がとても大事だということ。あとは歴史ですね。どんな風にチームが歩んできたのかっていう部分を、創設時からいるオリジナルメンバーにはかなり色々とヒアリングしました。小林さんが取材されていたオッチーとか。「昔どうだったの?」って。僕がいなかったその期間を知らずして新しいものは作れないと思っていたので、彼ら・彼女らに「ウチっぽくていいね!」って言われたときは、すごく嬉しかったですね。

__やっぱりチームに所属しているデザイナーさんって珍しいと思うんですよ。それこそ高良さんが外注のデザイナーさんだったら、また違ったクリエイティブになったのかなと思うんですが、いかがです?

高良:それこそもっと「バスケっぽいもの」にしていたかもしれませんね。なんとなくバスケっぽくて、想いが詰まってない、カッコいい風の王道なロゴになったかなと思います。だからこそ、チームに所属してデザインをやるっていうことは、とても大切だと自分にとっても勉強になりました。色んな人に話を聞いて、どうやったらその想いを伝えられるだろうって考えて……。みんなの想いがギュッと詰まった新しいロゴは、自分が外部の人間だったら絶対できなかったとも思いますから。





デザインとスポーツは、かけ離れているようで密接なもの。だからこそ伝えたい。

__現在は独立されていますけれど、やっぱりチームでデザイナーとして働いてよかったって思われているわけですね。

高良:それはもちろんです。あの経験がなければ、今の僕はありませんから。デザインの仕事ってそもそも絵が好きな人だったり、体育会系の人とは真逆に育った人がやるもんだと勝手に思ってたんです。結果的にはスポーツをやってこなかった人の方が人数としては多いんじゃないかと思いますが、僕みたいにスポーツをずっとやってきた人だからこそできるデザインってあると思うんです。そういう意味では、希少価値も高いと勝手ながらに思っていましたし、今も思っています。

__たしかに。Adobeのおかげで入りやすくなってる部門だとも思うので、むしろそっちの方が強いかもしれませんね。

高良:過去の経験で、自動車メーカーの広告案件があって。某スポーツ選手と自動車の写真を使った広告だったんですが、やっぱり選手の力強い動きとか表情と、その自動車をどう融合させるかが重要になってくると思うんですね。でも、僕から見たら一番NGだと思ったカットが選ばれたんです。当時のディレクターに「なんでこのカットを選ぶんですか?」って聞いたら「フォルムがいい」って言ったんです。その方は絵は本当に上手いんですけど、「それだけで選ぶか?」って単純に思いました(笑)。スポーツ選手が持ってるカッコいい表情とかシズルって、もちろんその人が全てではないですが、スポーツをやってきた人じゃないと中々わからないのかなって正直感じましたね。元スポーツマンとして、「こういう写真のほうが絶対カッコよく広告を作れる」っていう感覚。それを活かして、自分が今デザインとスポーツの両方を活かして仕事できてるのはすごくラッキーです。それにもしこの記事を読んで、スポーツ人生からデザイン人生に切り替えたいって人が「そういう道もあるんだ」って思ってもらえたら……もう、死んでもいいかもしれないですね(笑)

__デザイナーとしての活躍はもちろん、演出家としての活動も見逃せない高良さん。前半戦最後の質問になりますけれど、何か物事をつくるときに大切にされている、モットーみたいなものがあればぜひ教えてください!

高良:僕が一番大好きなブランド『ISSEY MIYAKE』の三宅一生さんが「問いかけが大事だ」と、ある特集で仰っていて。僕にはそれがガーンと響いて、かなり重視しています。千葉ジェッツの新ロゴに関しても、応援してくれるブースターさん、スポンサーさんに対して、何かしらメッセージとして問いかけがない以上、クラブからの一方的な発信になってしまってはダメなんです。ただ批判が生まれてしまうだけでコミュニケーションではないです。だから、ただカッコいいものを作るのではなくて、グッズひとつでも、どう着てもらいたい。とか、広告でも、それをどう解釈してもらって……とか。カッコだけつけるんじゃなくて、誰かに届くものだっていう“想い”を添えた上で、優先順位を間違えてはいけないんです。僕はそれが大切だと思います。ちなみに独立してからは、所謂「外部の人間」になったので、把握するまでの時間がかかったり、また違った大変な部分も多くなりましたので、直近の課題です(笑)




自身がデザインした『GsLABO』のロゴ。文字が全てバスケットボールの骨格から作られている。

>>>「後半:独立編」に続く


【PROFILE (会社員編)】高良和忠 デザイナー・演出家

東京都世田谷区生まれ中央区銀座育ち。高校時代から部活のウェアのデザインに携わっていたことをキッカケに、東京農業大学を卒業後、東京コミュニケーションアート専門学校へ進学しグラフィックデザインを学ぶ。ファッションではなくグラフィックを選んだ理由は『A BATHING APE®』の創業者NIGO®氏のグラフィックがキッカケ。専門学校を卒業した後、amanaグループ内の制作会社へ。この会社には、プロバスケットボールクラブ「千葉ジェッツ」のイケメン?広報も在籍していた。その彼が先に転職した数か月後、「ウチのチームがデザイナー募集してるんだけど、どう?」とリクルートを受けたことで、凡そ5年半勤めた制作会社を後にし転職。入社後はWEBバナーやチラシから始まり、グッズやポスター、会場装飾、そして会場演出など、千葉ジェッツのクリエイティブほぼ全てを手掛けた。

将来の目標(夢を語るのが嫌いらしい…(笑))は、学校の制服を作ること、そして学校自体も作ること。「学生の個性は様々だから、落ち着いたデザインになるのはわかるものの、もっと自慢したくなるような制服を作りたい。街中で学生を見るたびにあれかな、これかなって毎日考えてますね」と話してくれた。また「学校という建築への興味」、「通う生徒と色々話しながら伝えられるのはめっちゃ楽しそう」、「答案用紙を作ってみたい。『疲れたら一回ペン置きましょう』みたいな気軽な仕掛けを作ったら勉強も楽しくなると思う」と、楽しそうに目標を語る姿も印象的。目標とする人物は『ISSEY MIYAKE』で有名なデザイナーの三宅一生氏、ファッションブランド『Off-White™』創業者であるvirgil abloh氏、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏。デザインをする上で大切にしていることは「問いかけ」。


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