スポジョバ編集部が先日、東京・練馬区にある1軒の企業を訪ねました。
その名も「さわだスポーツクラブ」。地域密着で44年続く子ども向けのスポーツクラブで、幼稚園に体育の先生を派遣し運動指導を行っています。
今回お話を伺ったのは、2代目社長・澤田康徳さん(38歳)。
少子化や働き方改革が叫ばれる時代に、どうして幼児体育の場を提供し続けるのか?そこには澤田社長の熱い思いがありました。
(取材:構成=元スポジョバ編集部 久下真以子)
ーー社長というともっと年上の方を勝手に想像していたので、お若くて驚きました。
「もともと代表が私の父親なんですが、今もまだ健在で会長としてやっています。西武池袋線の石神井公園でこの会社が始まったんですが、きっかけは1964年の東京オリンピックメダリストの言葉なんです」
ーー55年前の東京オリンピックのメダリストの言葉?
「夫婦そろって体操でメダルを獲得した小野喬さん・清子さん夫妻です。父が弟子入りをしていたのですが、そのときに”これからは社会体育の時代だよ”という風なことを言われて。それまでは部活動を含めた学校体育が中心だったけれど、これからは東京オリンピックを機に小さい子たちが運動やスポーツに関わることが多くなるよ、と。今でこそ幼稚園に体育の先生がほとんど配置されていますが、当時はほぼ0%でした」
ーーお父様が、幼児体育の「開拓者」なのですね。
「そうです。練馬区だけでも40~50の幼稚園があったんですけど、その一部を紹介してもらって、会社を創業して、今に至ります。でも、”幼稚園でスポーツを教えている先生がいたな”という記憶は残っても、その会社の名前やバックにあるものは全然知られていない。女性が弊社を受けに来ることは増えてきたのですが、もっともっと携わる人が増えてほしいとは思っています」
ーー「体育」「スポーツ」というくくりの中でも、とりわけ「幼児」に特化した理由はあるのでしょうか。
「当時は保育園よりも幼稚園が主流でしたが、お母さんと2歳まで過ごし、幼稚園に入って初めて親元を離れた時間を過ごす。そこに運動を入れることで、より運動力が高まる。やらされているのではなくて、自然の中に入って遊びを中心とした運動をして、自分の身を守ったり、相手を思いやる気持ちを身に着けていく。そういったことを含めてやっていくというのはやはり3歳から5歳だろうというところで目を付けました」
ーー私も幼稚園出身で、よく遊びまわったのを覚えています。でも、確かに今は保育園に入れる人が増えていますよね。
「女性の社会進出の影響ですね。それ自体はすごくいいことだと思います。ただ、本当は幼児期にお母さんやお父さん、あるいは母性に関わっていないと、たぶんその子が大きくなって親がおじいちゃんおばあちゃんになったときに、面倒を見ないと思うんです。施設に預けて。”だって自分たちも小さいとき朝から晩まで保育園に預けられてたじゃないか”っていう世の中になるような気がしています。そこを何とか、親子のかかわりを何とか持ってもらいたいという使命感は感じています」
ーー幼稚園の子どもが減って保育園の子どもが増えてきたという実感は、いつ頃から感じていましたか。
「はじまりが10年前、顕著に表れたのは5年くらい前ですかね。今ではほぼ逆転してるんじゃないかというくらいには来ています。幼稚園の数そのものが減っているわけではないんですが、そこにいる園児の数が半分くらいになっているところはあります。一方で、幼稚園を”保育園化”して、預かりをしましょうというところは人数が増えている印象です」
ーーその中で、御社が新しい取り組みを考えていると伺いました。
「子どもたちの”朝活”です!我々も幼稚園だけでなく保育園にも対象を広げていますし、下は2歳から上は12歳など、年齢の幅も広げています。脳が刺激されるので、外で遊ぶことは大切。でも幼稚園によっては、登園してお歌が始まって、制作してお昼ご飯食べてという感じで、午前中に1つも遊ばないところもあるんです。園の事情だったり遊ぶ場所がなかったりということもあるので、任意でも構わないから朝から体を動かした方がいいのではないかという提案をしています。新しいビジネス展開なので、上手くいけば会員数も増えると思っています」
ーー小さい頃から体を動かすことが大事なのは理解できるのですが、実際にそれをやった子とやらなかった子では、違いは生まれるものなんでしょうか。
「顕著に表れるのは、”集中力”ですね。5分でも10分でも外遊びを入れることで心と体がスッキリするので、その日の集中力が全然違うんです。その後の制作や話を聞く時間というものにもしっかり入っていけるんですよね。先生やお母さんたちも、子どもがうるさいとつい怒ってしまうかもしれないけれど、短時間の散歩でもいいから外に連れ出すといいと思います。光や太陽を浴びると、脳が活性化されるんです」
ーー澤田社長自身も現場で教えていらっしゃいますが、やりがいを感じるのはどんなときですか。
「純粋無垢な子どもたちに、自分が伝えた言葉が100%なくらい突き刺さるので、運動や体力だけではなく心や精神的な部分の支えになっていることですかね。”三つ子の魂百まで”じゃないですけど、今我々が子どもたちに伝えたことを全部吸収してくれている、そこはすごくやりがいですよね」
ーー具体的に、そう感じたエピソードを教えてください。
「卒園を控えた子どもに”諦めないで何事にもチャレンジしようね”、”失敗はたくさんしていいよ、その失敗を経験して成長するんだよ”ということを伝えているのですが、小学校に上がってもその言葉を覚えてくれているみたいなんです。スポーツだけでなく勉強や学校生活の励みになっているようで、”先生の一言で、何事にも諦めずにチャレンジしていますよ”とその子の親御さんに声をかけられたときはすごく嬉しかったですね」
ーー「幼児体育」の同業他社はたくさんある中で、さわだスポーツクラブの強みはどんなところですか。
「運動指導の部分でいうと、そこのノウハウは他社に負けないものを持っています。テキストや動画でもそろえているので、間違いなく運動指導者としてのスキルは上がります。ことしの9月には研修用の動画サービスも始めました。保育士さんが増える中で運動指導がなかなか出来ないという保育園も現状としてあることと、平日はなかなか習い事に行けないという保育園児たちもいるので、その子たちをターゲットにしています。父も私も新しいことが好きなので、どんどん色んなことを取り入れていきたいと思っています」
ーー澤田社長にとって、「スポーツ」とは何でしょうか。
「スポーツとか体育っていう言葉は、本来幼児の子どもたちにはなくていいと思うんです。なぜかというと、遊びの中から展開していって運動につなげていくみたいな形なので。スポーツとか体育という言葉はちょっとやっぱり”やらされてる”という感じに聞こえてしまうので、我々もなるべく”運動遊び”というような言葉を使うようにはしています。ただ、言葉1つで考え方や集中力に影響することも踏まえると、その子の人生の”土台”になるものだと思います」
ーー遊びだとしても体を動かすということは、その後の人生にも影響すると。
「はい。結局、おじいちゃんおばあちゃんになったときにも、”歩く”ということは健康の為に欠かせない要素。そういう意味でも、影響力は大きいと思います」
ーーこれからの幼児体育は、どう変わっていくのでしょうか。
「バーチャルといいますか、動画を使った部分などは出てくるのではないかと思っています。今までは人がそこにいて、何人もを相手に指導してというのが主流でしたけど、今はマンツーマンの体育家庭教師が増えてきたのと、かけっこだけの分野で仕事ができ始めたというのがあるので…」
ーー分業ということですか?
「そうです。幼児体育の、本当に体育の専門性を持った人たちが体育のすべてを教えていたという時代から、”かけっこだけ教えます””跳び箱だけ教えます”などといったところも出てきたので、それもこれからの幼児体育の1つかなと思います」
ーー以前、小学校でARを使った体育の授業を取材したことがあります。体育指導も、時代に合わせてどんどん進化していかなければいけないのかもしれないですね。
「動画とか、動画に代わるものも出てくるかもしれないけれど、そう思います。ただ、最終的にはAIが発達しても、保育士や幼稚園の教諭の仕事がなくなるかっていったらそうではない。感情的な部分とか人間の心の部分に行くときに、ロボットが教えるということにはならないんですよ。手助けとしてのICT化は幼稚園でもすでに入ってきているので、我々もIT系の企業と何かコラボできたらいいなと考えています」
ーー最後に、澤田社長の夢を教えてください。
「会社を受け継いだ使命で言うと、幼児体育という会社の認知度をもっと上げて、色んな人に見てもらえる仕事にしたいというのが夢ですね。そうすることで、よりたくさんの学生さんや転職を考えている社会人の方が”この仕事をやりたい”という風に思ってくれる形になるといいな。今、一握りの人たちが携わっているこの仕事に、より多くの人たちに関わってほしいです。親から受け継いで、次の世代にバトンタッチするまでの今だからこそできることと考えています」
【PROFILE】
澤田 康徳
1981年、東京都出身。学生時代はゴールキーパーとしてサッカーに打ち込み、高校までプロ選手を目指していた。日本体育大学を卒業後、同業他社である幼児体育のスポーツクラブで4年間修業。26歳で父の創業した「さわだスポーツクラブ」に就職。現在は社長を務める。幼稚園教諭の美人女性と結婚。
設立年月 | 1975年04月 | |
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代表者 | 澤田幸男 | |
従業員数 | - | |
業務内容 | 幼稚園・保育園での体育指導
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