キャリアに一区切りを付け、第二の人生を歩んでいく。プロアスリートであれば誰もが通るのが「セカンドキャリア」です。
高卒でJリーガーの夢を叶え、プロの世界で活躍した仲里航さん(35歳)もその一人です。ヴィッセル神戸で3年間プレーしたあとFC琉球に2年間在籍し、23歳で現役引退。現在は大人向けのフットサルスクールなど数々の事業を手掛ける実業家として、関西を中心に活躍しています。
セカンドキャリアの道に進む時、葛藤があったのか。それとも心残りなく切り替えられたのか。それを決めるのは、「心からやり切ったかどうか」でした。
(取材・構成=スポジョバ編集長 久下真以子)
ーー仲里さんは数々の事業を手掛けていますが、このうち大人向けのフットサルスクール「FBNサッカースクール」についてお伺いしたいです。
仲里:「スポーツをする楽しさ」「上達する楽しさ」「仲間とつながる楽しさ」の3つをコンセプトにして、サッカーやフットサルの大人向けのスクールを大阪や神戸で展開しています。ターゲットは初心者向けですね。大人向けの習い事っていうとヨガとかテニスを思い浮かべるかもしれないですけど、サッカーとかフットサルってちょっとハードルが高いイメージがあったんですよね。20代から60代まで幅広い世代の方々に来ていただいていますし、新たなコミュニティが生まれたりもしているんです。
ーー私もフットサルを楽しむことも時々ありますが、確かに習い事としてというのは新鮮でした。どんなことを教えるのですか?
仲里:初心者向けのクラスはルールからです。それからボールの止める・蹴るという基本的な動きをして、ゴールにシュートを打ってみるというところですね。あと、最初の15分くらいはアイスブレイクを入れてるんですよ。雰囲気を和ませるためのゲームをして、ただ技術を教えるだけではなく、サッカーやフットサルを楽しみやすい環境を作るということも意識しています。
ーー初心者でも楽しめるとなると、健康やフィットネスの一部により近づいていきそうですね。
仲里:おっしゃる通りですね。フィットネスとか健康とかそういう手段としてサッカーやフットサルを使いませんかというアプローチをしているので、「未経験だけど大丈夫かな?」と思うかもしれませんが、実際には誰でも参加できるスクールになっています。
ーー実際通われている方の声にはどのようなものがありますか。
仲里:それこそ「仕事中心の生活で運動不足だったけど、健康を意識したりダイエットにつながった」という方もいらっしゃいますし、いろんな声をいただいています。あと、結構多かったのは「子どもがサッカーを始めたので、父親としてかっこ悪い姿を見せられない」というものです。昔だったらキャッチボールをする親子が多かったと思いますが、サッカー人気の高まりとともにサッカーの対人パスに変わってきているんですよ。子どもとのコミュニケーション手段になっているのはすごく嬉しいですね。
ーー仲里さんは高校を卒業後、Jリーガーとして活躍しています。
仲里:元々沖縄出身で、18歳の時にJ1のヴィッセル神戸に加入しました。ちょうど三浦知良さんや播戸竜二さんがいたときなんですけど、僕はレギュラーで出られる選手ではなかった。そのあと当時JFLだったFC琉球(現J2)に移籍して、23歳で引退しました。サッカー選手としては5年のキャリアでしたね。
ーー引退後は、ヴィッセル神戸の運営会社で働いていたんですよね。
仲里:営業マンとして入社しました。最初は名刺も持たせてもらえなくて、胸に「元Jリーガー 仲里航」って書いて神戸の三宮を営業して回っていたんですよ。そこで、1枚チケットを売ることがこんなに大変なんだっていうことを学んだし、どこか自分の中にあった元Jリーガーというプライドを捨てていかなければならなかった。そういう環境で頑張れたというのは本当に財産になっているなと感じますね。
ーー貴重な経験をされているのですね。そこからどうして実業家の道に?
仲里:「カッコイイ大人になりたい」という思いだったと思います。色んなスポンサー企業様やお客様と出会う中で、成功している社長の方々を間近に見て、志高く事業を発展させている姿にとても憧れたんですよ。本音で言うと欲の部分なのかもしれませんが、稼ぎたいとか良い車に乗りたいとか旅行行きたいとか時間が欲しいとか、みんなの中に存在する憧れってあるじゃないですか。やっぱりそれが僕の原点だったと思います。じゃあどうしたらいいか?と考えたときに「起業」という答えにたどり着いて、3年サラリーマンを頑張ったら独立しようと決めました。
ーー欲の部分は大事にしていいという意味では、私も共感します。それは誰にでもあることで、それを実現する手段が「仕事」であってもいいとすごく思う。
仲里:原動力ってあるじゃないですか。それでちゃんと頑張っていれば、その姿を見て応援してくれる人も出てくるんですよ。だから最初は仕事って「自分のため」でいいと思うんですよね。人の役に立つことはもちろん大切なこと。でも自分が満たされていなかったら人を導くこともできないんじゃないかって思うんです。
ーー23歳でセカンドキャリアの道に進んでいる仲里さんですが、当時葛藤はなかったのでしょうか。
仲里:「やり切ったから次に行こう」と素直に切り替えられたし、全く後悔してないですね。それが自分の中で中途半端だったら「まだ行けたんじゃないか」と思ったり、環境のせいにしたりしていたと思うんです。本当に頑張ったかどうかなんて自分にしかわからないし、次の道に進んでも「これでよかった」と思えるような頑張りができていたらいいんじゃないかと思います。
ーー自分がやり切ったかどうかって、どうやって判断するんでしょう。
仲里:スポーツとかだと特に分かりやすいと思いますよ。例えばヴィッセル時代、カズさんや播戸さんもよく言っていましたけど、10m走る練習があっても、手前の8mや9mで手を抜く選手っているんですよ。でもそこを日々走り抜けられている人は上に行けるというのを教えられていたし、それができていれば「ここまでやってダメだったら仕方ない」と自分で納得できるようになるんです。
ーーアスリートのセカンドキャリアに関する話題も近年よく聞くようになりました。海外だと引退後も踏まえた教育を積極的にしているけれど、日本はまだまだ部活でもプロアスリートでも、「競技だけに集中しろ」という文化が根付いていると思います。仲里さんはそれについてどう感じていますか。
仲里:選手それぞれの価値観によると思いますが、おそらく年齢や状況によって変わってくると思うんですよ。新卒のプロアスリートがいきなり「パソコンスクールに通います」とはならないと思うし、それこそ最初の3年くらいは本気で競技に向き合うべきだと僕も思います。でも年齢的なものも含めて引退が近づいているときって自分でもわかるんですよ。そういうときに自分をうまくコントロールして引退後のキャリアを考えるというのはすごく大事なことだと思いますね。
ーー置かれた状況に応じて選択していくということですね。
仲里:Jリーグ開幕当初からチーム数が増えて、今はJ3までありますよね。すそ野が広がってきた分、プロになれる確率も上がっています。ただ、増えた分、出ていく人も多くなりますよね。でもその受け皿がやっぱりまだなかなかできていないんですよ。そういう意味では、セカンドキャリアについてはみんなで考えるべき問題だと思います。
ーー仲里さんが今後取り組んでいきたいことはありますか。
仲里:色々ありますが、サッカーに関して言えば、引退した選手たちのステップアップの場を提供することですね。元選手であっても、サッカーの指導だけで食べていくのはまだまだ厳しい世界です。僕のスクールでは指導者に委託をしていて、お金をちゃんと払うことで生活ができるようにしているし、もっと言えば彼らが独立するまでの期間として運営も含めてここで学ぶという場にしているんです。僕自身がヴィッセルでたくさん学んで今の自分があるように、これからセカンドキャリアを歩む選手たちの居場所に自分がなっていきたいですね。
ーー選手たちのセカンドキャリアとして、そして一般の方々が気軽に楽しめる場所として。仲里さんのスクールによって、サッカーを愛する人がどんどん増えていきそうです。
仲里:そうなってくれたらいいですよね。実際お客様の話でいうと、今までサッカー未経験の方がスクールに通うようになって、そこでできたコミュニティでJリーグ観戦に行ったりしているんです!「見る」「する」どちらの面でも普及に貢献できているという意味では、すごくやりがいを感じますね。
ーー仲里さんにとって、サッカーの魅力とは何ですか。
仲里:全世界中が見て楽しんで熱狂できるということじゃないですかね。小さい子供からおじいちゃんまで世代を超えて楽しめるし、言語も関係ないし、さっき言ったように親子のコミュニケーションツールにもなっている。僕自身も小さい子供がいるので、ボール一つで親子の時間がすごく充実したものになっているんですよ。それくらい身近なスポーツになっているというのがすごく嬉しいですよね。改めて、サッカーには大きな魅力を感じます!!
仲里航(なかざと・わたる)
1984年生まれ、沖縄県出身。実業家。18歳でJ1・ヴィッセル神戸に加入し、3年間プレー。その後地元沖縄の JFL・FC琉球(現J2)に移籍。23歳で現役引退。引退後はヴィッセル神戸の当時の運営会社「株式会社クリムゾンフットボールクラブ」での営業などを経て、独立。現在は大人向けサッカー・フットサルスクール「FBNサッカースクール」のほか、スクール運営のコンサルティング、ヴィッセル神戸の営業代理店などの代理店業、児童発達支援事業、健康支援事業などさまざまな事業を展開している。
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