「スポーツを輝かせる会社じゃない。“人”が輝くしくみをつくる会社なんです」
そう語るのは、ブライズジャパン株式会社の代表・橋村将来さん。20年以上にわたりJリーグやプロ野球など国内トップリーグの裏側を支えてきたが、「自分がやる意味」を問い続け、2015年に立ち上げたのがこの会社だった。
広告権やパートナーシップなど、スポーツビジネスの“売る”を支える事業を展開しながらも、会社の根幹にあるのは「働く人が輝ける組織づくり」だ。
社員7名は全員がスポーツ業界未経験。それでも「誠実さ」と「やり抜く力」があれば、誰だってスポーツビジネスで活躍できると橋村さんは語る。さらに2023年には社会人サッカークラブ「江の島FC」の経営にも乗り出し、地域と世界をつなぐ挑戦を始めた。
スポーツはあくまで“仕事”。人が主役のビジネスを目指すブライズジャパンの哲学と、その先に描く未来とは——。橋村さんに話を聞いた。
(取材・執筆:伊藤 千梅、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
――橋村さんがスポーツビジネスを目指すようになった原点を教えてください。
元々、僕自身はバスケットボールをプレーしていたのですが、当時は、Bリーグのようなプロリーグがなく、トップリーグに進める大学生は年間わずか4、5人。多くの才能が埋もれていく現実がありました。大学卒業後、多くの選手が競技から離れていきますが、才能ある人が競技をやめていくのはもったいない。光の当て方次第で、多くの人が輝けるはずだという思いを、学生時代から抱いていました。
――実際にプレーされていたからこそ見えてくる課題ですね。その思いを、どのようにキャリアに結びつけていきましたか?
僕が就職活動をしていた当時、スポーツビジネスに関われる会社はほんのわずかしかありませんでした。そんな中、インターンを募集していた博報堂スポーツマーケティング(現・博報堂DYスポーツマーケティング)にご縁をいただき、5カ月のインターン後、契約社員を経て正社員になりました。
――そこでは、どのようなご経験を?
最初は、Jリーグの競技以外の業務全般に関わりました。人材育成、規定の作成、観客層の市場調査など、幅広い業務を片っ端から担当させてもらいました。現場での経験は今でも大きな財産になっています。
――夢であったスポーツビジネスに幅広く携わることができたと思いますが、そこからなぜブライズジャパンの設立に至ったのでしょうか?
会社員時代の一つひとつの仕事はとても大きく、やりがいも感じていました。ただ、25歳くらいから「自分がやりたかったのは“人を輝かせること”や“マイナースポーツの活性化”だったのでは?」と、自問自答するようになったんです。今の仕事にも意義はありますが、組織の一員として“自分でなくても進む”感覚がありました。そんな葛藤を経て、思いが溢れたタイミングで会社を立ち上げました。
――人生における最大の決断だったことと思います。その決断に踏み切れた理由は何だったのでしょうか?
ずっとタイミングを見極めていたんだと思います。できれば失敗したくなかったので、確度が高まるまで準備を重ねていました。
そのうえで、僕が本当にやりたかったのは「人が輝くしくみをつくること」。これまでのキャリアで培ってきたスポーツビジネスの知見を掛け合わせて、それを実現できる会社にしたいという思いが、今の事業につながっています。
――スポーツビジネスと人をかけ合わせているブライズジャパン様ですが、具体的にどのような事業をされているのか教えてください。
主に3つの事業を行っているのですが、主にクラブやリーグが持っている権利をきちんと活用し、収益につなげていくための支援を行っています。また、他の事業ではクラブの年間シート販売などをマーケティングの観点から支援したり、クラブと広告主をつなぐ取り組みもしていたりします。クラブとタッグを組み、クラブが抱えている課題などに応えられるようにサポートしていますね。
――求職者の中には、クラブで働きたいという方々も少なくありません。クラブではなく、“ブライズジャパン”で働くことの魅力はどんなところにあるとお考えですか?
クラブで働くことにももちろん大きな意義がありますし、まったく否定しません。その中で、私たちの強みを挙げるとすれば、サッカー、野球、バスケットボール、ラグビーといった多様な競技に関わっており、横のつながりを持ちながら経験を積むことができる点です。さらに、業界内で仕事をさせてもらっているので、一次情報に触れることができるのも特徴です。現場のリアルを肌で感じられることは、この仕事ならではのおもしろさだと思います。異なる業界での経験や視点を生かして、クラブと協働できる立場にあると考えています。
――横断的に経験ができるということは、他競技や他チームの事例を応用することもあるのでしょうか?
はい。ただし情報管理には十分に配慮したうえで、私たちのなかで一度編集を加え、他のクラブでも活用できる形に“翻訳”して応用しています。そこにこそ、私たちの存在価値があると感じています。
――橋村さんがずっとやりたいと願っていた、「人が輝くしくみ」はどう形にしているのでしょうか?
正直なところ、20年この業界に関わってきた中で感じるのは、まずは一緒に働くメンバーや関係する人たちを輝かせることこそ、最初にやるべきことじゃないかということです。その人に合った仕事を任せられれば、自然とその人は輝きます。だから極論ですが、うちで働くスタッフが輝けなくなったら、仕事内容を変えてもいいと思っています。
――まずは近くにいる人を輝かせることを大切にされているんですね。
そうですね。僕にとってスポーツは“仕事”なんです。最近では「スポーツにこだわりすぎなくてもいいのかもしれない」と感じることもあります。僕の周りにも、スポーツが好きで「スポーツビジネスをやっている」という方はたくさんいます。でも僕自身は、少し引いた視点で業界を見ているような感覚があるんです。もちろんスポーツは好きですし、今の事業も大切です。ただ「人」と「事業」、どちらを優先するかと問われたら、僕は“人が輝けること”を基点に、どうやって収益を生み出していくかを考えるほうが重要だと思っています。
――その思いが、実際に形になっていると感じる瞬間はありますか?
先日、お客様との会食の場で「御社は本当に人がいい。またお願いしたい」と言っていただけたんです。メンバーがそんなふうに評価される瞬間は、やっぱりうれしいですよね。
あとは、ある面談のときにメンバーの一人が「月曜日が嫌じゃないんです」と話してくれたんです。別に特別な言葉ではないけれど、仕事に対して前向きな気持ちを持ってくれているのが伝わって、それもすごくうれしかったですね。
――橋村さんが最も輝かせたいと思っている、現在のメンバーの共通点はありますか?
今、社員は7名在籍していますが、全員がスポーツビジネス未経験で入社しています。飲食業界から来たメンバーもいるんですよ。だから最初はわからないことも多いですが、共通しているのは「誠実さ」と「やり抜く力」。それがあるからこそ、未経験でも活躍できていますし、正直、業界のなかでもトップクラスの人材だと思っています。
――これから新しく入る方にも、やはり「誠実さ」と「やり抜く力」が求められるのでしょうか?
基本的にはそこですね。やっぱり不誠実さが見えると難しいですね。時間を守ることや約束したことをちゃんと果たすことは、僕自身も自戒を込めて徹底するようにしています。そして、もうひとつ大切なのは「人を大切にすること」。これは会社の共通言語としてみんなが意識しているところです。
――「人を大切にすること」を共通言語にするために、どのような工夫をされていますか?
僕自身、人材開発や組織開発の分野をずっと勉強してきたので、その考え方をチームに伝えながら、1on1の機会を定期的に設けています。また、産業カウンセラーの資格も持っているので、心身のケアという視点も常に意識しています。
今はリモートが一般化して、社員の心が会社から離れやすいからこそ、僕らは“求心力”をどう生み出すかに注力しています。まだまだですが、少しずついいチームになってきている実感があります。
――今後、仲間として加わってほしい人物像に変化はありますか?
今のメンバーには少し偏りがあって、みんな体育会でスポーツをがっつりやってきたタイプです。なのでスポーツは好きだけど競技経験はない人や、文系ではなく理系のバックグラウンドを持つ人が加わることで、新しい視点や価値観が生まれるんじゃないかと感じています。とはいえ、どんなタイプの人であれ、「誠実さ」と「やり抜く力」だけはブレずに大切にしていきたい軸ですね。
――2023年には、神奈川県社会人サッカーリーグ3部に所属する「江の島FC」の経営権を得られました。
私はスポーツ業界に20年ほど関わってきました。Jリーグやプロ野球など、さまざまな周辺事業に携わる機会がありましたが、あくまで“外側”からの関わり方でした。もちろん、そこで積み重ねてきた経験は大きな財産です。ただ、それだけではどこか説得力に欠けると感じる場面もありました。クライアントに寄り添うには“主体者”であることが必要だと感じたことや、純粋に挑戦したい気持ちもありました。
――「主体者」を体現していくために参画を決めた江の島FCを通して、どのようなクラブを目指しているのでしょうか?
海洋問題など、社会的なテーマに向き合うクラブにしていきたいと考えています。江の島から世界へ、地域からグローバルな課題を発信していけるような存在になれたらと。サッカークラブ自体は世の中に数えきれないほどありますが、社会課題に本気で取り組み、それが世界に届いているクラブは多くはありません。私たちは、そこを目指していきたいと思っています。
――その姿勢が、クラブの存在価値にもつながるのですね。
はい。単なるサッカークラブであれば、私たちが保有する必要はありません。何のためにクラブを持つのか、その意味や意義を明確にし続けることが大切だと感じています。
そのためにも、まずはクラブがきちんと自走できる状態をつくることが前提です。現状ではまだ十分とは言えませんが、他の事業との両立を図って進めていきたいと考えています。
――そのなかで、これまで培ってきたノウハウが活きてくるのですね。
これまで積み上げてきた経験や知見が、今のクラブ運営にダイレクトに活かせることは大きな強みです。また、自分たちでクラブを持つことで、クライアントとも“同じ立場”で課題を共有できるようになります。
たとえばJリーグのクラブの方とお話する際にも、「規模は違っても、同じような苦労がありますよね」と共通の感覚で対話ができるようになりました。以前、代理店に所属していた頃は、どうしても「代理店の人」と一定の距離を置かれるような場面もあって。私はその垣根を越えていきたいという思いをずっと持っていましたし、今の形はその延長線上にあると思っています。
――それが、会社設立から10年を経た現在の形に結びついているのですね。
そうですね。結果として今のような形になったという感覚に近いです。大変なことも多いですが、やりがいのある取り組みだと感じています。ここまで進んでこられたのも、会社のメンバー、そして多くのお客様に支えていただいたおかげです。いただいた経験や機会を通じて私たち自身が成長し、その成長を再びお客様に還元していけるような、そんな良い循環をつくっていけたらと思っています。
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【PROFILE】
橋村 将来(はしむら まさき)
ブライズジャパン株式会社の代表者。学生時代はバスケットボールをプレーしていた。早稲田大学を卒業後、株式会社博報堂スポーツマーケティングに入社。2015年に退社し、ブライズジャパン株式会社を創業した。「人が輝くしくみを創る」という理念のもと、メンバーが輝くことを第一に活動している。
設立年月 | 2015年04月 | |
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代表者 | 橋村 将来 | |
従業員数 | ||
業務内容 | ライツデザイン事業
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