3歳からサッカーを始め、世代別日本代表やなでしこリーグ、海外でプロとしてプレーした経験を持ち、現在もフットサルの現役選手として活躍する尾田緩奈さん。営業代行やアスリートの独立支援等の事業を展開するベンチャー企業、株式会社SUN LOTUSを2023年に立ち上げ、アスリートと会社経営の両立を体現されています。
そんな尾田さんもかつてはアスリートの多くが抱えている不安や苦悩を経験し、自分らしい生き方や働き方について模索してきたといいます。自分らしく働くことの楽しさや大切さ、社名の「SUN LOTUS」に込めた「私が太陽になって花を咲かせたい」という思いなど、じっくりとお話をうかがいました。
(取材・執筆:斎藤 僚子、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
株式会社SUN LOTUSは、営業代行事業を主にしながらスポーツに関わる人に向けた事業なども展開していきたいと、アスリートである尾田緩奈さんが2023年に立ち上げた会社です。大事にしている会社の理念は、自分らしく働ける場所を作ることだと話す尾田さん。現在は元アスリートも多く在籍する自身の会社について次のように語ります。
「私たちの会社は大手企業様の営業代行をメインに事業を展開しているベンチャー企業です。具体的にはコールセンターでの営業でカスタマーサポートや商品のPRを行ったり、商業施設のイベントや催事で商品のプロモーションなどを行ったりしています。
現在働いているスタッフで多いのは、私のように幼少期からスポーツを頑張ってきた人です。競技は引退して就職したけれどこのまま続けていて良いのだろうか、競技をしていた頃の自分の方が輝いていたのに今は…など、現状と葛藤していたところに私の会社を見つけて入ってきてくれた人が多いですね。また、見た目の性別に関係なく働きたかった人もいます。コールセンターの営業は声でする仕事なので、私は見た目なんて自由でいいし性別も関係ないと思っています。『ここなら自分らしく働けると思った』と言って来てくれた人もいます。」
こうして入社してきた社員の皆さんも、入社後は営業スキルを身につけ、キャリアアップを目指しながら自立し、自信を持って働いているそうです。また、社名の「SUN LOTUS」には、尾田さんの熱い思いが込められていると同時に、ご自身の姿を投影されています。
「社名のSUN LOTUSは、『SUN』が太陽、『LOTUS』が蓮の花という意味です。太陽って、キラキラどころかギラギラとしていて、常に中心にあって人間にとっても植物にとっても不可欠な存在です。太陽を見ると、今日も頑張ろう!と明るい気持ちになれるんですよね。私自身、ギラギラと情熱を持ってみんなを照らしたいし、そういう人材を会社の中から輩出していきたい思いもあって、『SUN』は必ず社名につけたいなと思っていました。
『LOTUS』の蓮の花は綺麗な水から咲くのではなく、池のようなあまり綺麗ではない水からもすごく綺麗に咲いていますよね。そんな場所でも根っこを張る姿を見て「私じゃん!」と思ったんです。学歴や経歴がなくても、その人に必要な根っこを強く張ればどんな環境でも蓮の花のように綺麗に咲くことができるなと。これからは私が太陽になって必要な根っこの張り方を教えてあげて、自分らしい最高の花を咲かせてくれたらいいですね。」
迷いもなく周りを支えたいと語る尾田さん。ですが、現在の複数のキャリアを両立するまでには、将来に不安や焦りを感じていた時期があったといいます。
「私は高校でサッカーの強豪校に進学した頃から、漠然と引退後の”セカンドキャリア”について考えていました。高校卒業後にプロにいく道もあったのですが、資格は取っておいた方がいいかな、高卒よりも大卒の方がいいかな、と思い大学進学を選びました。周りの先輩は、サッカーを辞めた後にトレーナーや指導者などの競技と直接関わる仕事をする人がほとんどだったので、私もそれ以外の選択肢を考えたことがなかったですね。大学で教員免許を取得して、指導や栄養に関する資格も取って”アスリートのセカンドキャリア”と呼ばれるものに対する準備をしていました。
サッカーの引退はコロナをきっかけに決断しました。いざ引退して教員や指導者の仕事に就きたいかと考えてみたら、違うなと思ったんですね。引退後の準備はしていたのに、自分が何をやったらいいのかわからない、何をしたいのかがわからない…サッカー以外の選択肢がなかったのでそこでつまずいてしまいました。社会に出てからもサッカーをやってこられたことはとてもありがたいことでした。しかし、友人たちは社会人経験を4年も積んで先に進んでいると思うと焦りもありましたし、私は世間を知らずにきてしまったという不安もありました。」
尾田さんは自分のやりたいことを見失いかけていた中で就職活動をされています。
「26歳で初めて履歴書というものを書いて、就職活動をしました。日本一になった経験や日の丸を背負ったこともありますし、これだけスポーツを頑張ってきたのだから何かしら世間は自分のことを必要としてくれるはずだと、根拠のない自信がありました。でも全部書類で落とされてしまって面接すらしてもらえなくて。なんで!とものすごく矢印が外に向いていましたね。」
挫折を味わった後、様々な価値観に触れるために多くの人と会ってみようと、不安を抱えながらも前向きに考えた尾田さん。上京し多くの人と会う中で、経営者として活躍する同級生と再会します。
「当時、色々な人と会って話を聞こうと思い上京したのですが、そのうちの一人に十数年ぶりに再会した同級生がいました。その友人は自分で会社を経営していて、別人になったのかと思うくらいに成長し自立していました。
私は『社会人って、いつも数字に追われていて、なんだか楽しくなさそうだな』と思っていたのですが、その友人はすごく楽しそうに仕事をしていて、良い意味で私の社会人に対する価値観を壊してくれました。また、同い年なのに精神的にも経済的にも自立していて、その余裕は一体何なんだろう?と。そんな友人を見てたった一回の人生なら、私も自分の人生を豊かにするための手段として会社を経営してみようかなと思いました。また、自分と同じような悩みを抱える人を救える場所を作りたいと思い、事業立ち上げを決意しました。」
「自分のキャリアにはセカンドもファーストもないと思っています」と。尾田さんはどんな自分も先に繋がっていると考えているそうです。
「引退当時の私がまさにそうだったのですが、アスリートは”セカンドキャリア”という言葉に引っ張られすぎていると思います。アスリートだった時の自分と分けて、その後の自分を「セカンド」と位置付けてしまうところが問題だと考えています。”競技生活を終えた後がセカンド”という考え方が抜けない限りは、選択の幅が狭まってしまいます。
世に出てみたら挨拶すらできない大人なんてたくさんいるじゃないですか(笑)スポーツをやってきた人はそういう基本的なところは当たり前のようにやってきたと思うし、問題解決能力も高いと思います。監督や先輩とのやりとりの中で、空気を読む力もものすごくついていると思います。こういう無意識に身についた能力はどんな職業にも役に立つのに、社会がまだフォーカスしきれていないところがあると思うので、そういったところも伝えていきたいですね。」
尾田さんの豊かな経験を基に成長してきた株式会社SUN LOTUS。社員一人ひとりの個性を大事にして働きやすい環境を心がけており、その雰囲気はまるで部活の延長のような感覚だといいます。
「私、部活が大好きなんですよ(笑)うまくいかなくても、一つのことをみんなでやるのが大好きで、仕事もそのように取り組めたらいいなと思っています。例えば、10時からサッカーの練習があったら、ダラダラ集まってスタートするのと、ちょっと早めにきて練習メニューを確認しあったり、選手同士コミュニケーションをとってみんなで円陣を組んだりして『いくぞ!』とスタートするのでは、当然後者の方が生産性もチーム力も高くなると思います。社員には、得た成果を周りにシェアするように指導しているので、成果を出した社員に喋ってもらったり、稼働前には全員で集まって、何かしらコミュニケーションを取ったりしてから業務をスタートすることにしています。」
まさに尾田さんの経験が活かされている職場だと感じます。今後は若いアスリートが将来を見据えて安心してスポーツに取り組めるように、社会の仕組みについて学べるような教育事業にも力を入れていきたいといいます。
「それこそ”社会とは?”働き方とは?”ということや、”税金って?”確定申告って?”といったお金に関する知識など、これらは私がもっと早いうちから知っておきたかったことで、今後早く知っておけば人生の幅が広がるのではないかと思っています。
現在私は、母校でもありサッカー強豪校の神村学園で、授業をしています。そこでお世話になった恩師の先生と、学校で経営を学べる科目があったらいいのではないかとお話をしたことがありまして、それってすごくいいなと思いました。教育事業は現在少しずつ動き始めているところではありますが、教育に革新を起こしたいなと思っています。」
現在の仕事の中に楽しさを見出して一生懸命取り組んでいる自分が好きだと話す尾田さん。過去のことは気にせず、採用の際も履歴書の提出などは求めないといいます。
「私は自分の就職活動で、書類だけで、自分の”過去”だけで判断されてしまったことに傷ついた経験があるので、履歴書の提出は一切求めていません。過去は気にしないと言っても、頑張ってきた経験は大事にしてほしいし、その経験がつながる会社だと思っています。素直さとやる気があれば、どんな人でも昇進できる会社だとも思います。就職や転職は、とても勇気のいることですが、仕事だと思わず部活だと思って来てくれたらいいと思っています。暑苦しいと思うかもしれませんが(笑)また、この会社で終わってほしくないとも思っているので、ここで学べることを吸収して活躍の場をどんどん広げていってほしいです。」
最後に今後の会社全体の目標と、尾田さん自身の目標についてうかがってみました。
「まず会社は、社員のみんなが行きたくてしょうがない!と思えるような会社にしていきたいですね。また、5年以内には海外の拠点も立ち上げたいです。私個人としては、社員の前でも宣言しているのですが、女子フットサルのワールドカップが来年初めて開催されるので、そこに頑張って食い込みたいです。現状に満足せず、『次へ。次へ。』と行動していく姿を社員に見せていきたいですね。」
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【PROFILE】
尾田 緩奈(おだ かんな)
兄の影響で3歳からサッカーを始め、全国制覇・世代別日本代表を経験するほどハイレベルな環境でサッカーに取り組んだ。引退後は、営業会社でキャリアを築き、自分らしく本気で成長できる場所を作りたいという思いのもと2年半で独立、SUN LOTUSを設立した。現役のフットサル選手としてワールドカップ出場を目指している。