「スポーツ業界で働きたいけど、どんな仕事があるの?」
このように漠然と悩んでいる方、また「業界の仕事の理解を深めたい!」と考えている方に向けて立ち上がったのが『スポーツ業界のおしごと図鑑』という新シリーズ!実際に働いている人に「それってどんなお仕事なの?」と聞きご紹介し、働いたことのない方にもよりお仕事のリアルがわかる内容をお届けします!皆様のやりたいことが明確になるためのお手伝いになれれば、これ以上嬉しいことはありません。
『おしごと図鑑』の第三弾として、今回バスケットボール業界を中心に活動している(株)GOATの代表・大木 孝雅さんにインタビュー!ファッション業界→バスケ業界を渡り歩き独立された、まさにMDを知り尽くした方に『MDってどんな仕事ですか?』と直球で聞いてきました。
「ファッション業界とスポーツ業界のMDは、こういうところが違う」と、こと細かくお話してくださった大木さんの言葉を余すところなくお届けしますが、読了後には間違いなくMDの仕事の理解が深まっているはず。「グッズを造ってみたい」「商品企画したい!」そんな想いがあって、MDという仕事に興味があるあなた!これを知っておくだけで、きっと面接時にかなり有利に働くはず!
(取材:構成=スポジョバ編集部 小林亘)
__今回は本企画にご協力いただきありがとうございます!早速ですがスポーツ業界における『MD』ってどんなお仕事なんでしょうか?
大木:スポーツ業界において『MD』は、かなり広い仕事の領域を指す言葉だと思っていまして。たとえば私がいた前職ファッション・アパレルの業界では、『MD』はブランドのコントロールタワーのことを指します。商品の戦略とかブランドの方向性とかを決める、統括責任者のことを『MD』と呼んでいたんです。
一方で、スポーツ業界になるとこれが途端に変わります。「グッズ担当=MD」という認識をお持ちの方がほとんどだと思うのですが、商品企画、生産管理、在庫管理、販売、最終的には経理みたいなところまで踏まえて全てを行う全般のことをスポーツ業界では『MD』と呼ばれているんですよね。
__正直私も『MD』は上流工程のイメージがあったんですが、間違っているわけではないにしろスポーツ業界ではちょっと認識が変わってくるということですね。
大木:『MD=品揃え』という意味もあるので、いつ・何を・どのように・どんな方に売っていくか。6W2Hみたいなビジネス用語に準ずる形でブランドや会社を導くリーダーが、私も小林さんも認識されている部分だと思いますね。
でもスポーツ業界では全部やらないといけないわけですから、当然最初から「MDできます!」って言う人ってほとんどいないとも思っているんですよ(笑)。
__携わる領域が違う、という点もですけれど、もしかして立ち位置とかも違うんですか?
大木:異なりますね。ファッション業界での『MD』はブランドの責任者なので、業界の中ではスターポジションなんです。ただ一方で外から見ると光が当たらないポジションでもあって。だから最初みんな「デザイナーになりたい」「スタイリストになりたい」という入り口で、そこからMDを目指す方がファッション業界だと多いですね。
スポーツ業界でも同じ現象が起きていて、たとえば「商品企画したい」「可愛いグッズをデザインしたい」とか、そういった発想になりがちなんですけれども、先ほどもお話した通り、それは1つの側面でしかないんです。
__大木さんの言葉にもあるように、そこの認識をしっかり持っていないと、スポーツ業界でMDをやるということは、色んな意味でもギャップが出てしまいそうですね。
大木:突き詰めていけば、ブランディングとかマーケティングの一環として、グッズ・MDという落とし込み方になるんですよね。もちろん商品をつくりお客様に届けることが重要なミッションではあるんですけれど、最終的には顧客にどれだけ満足いただいて納得いただいた上で商品を買ってもらえるか。ここにフォーカスすることがポイントです。
MDはやっぱりグッズという形に残るので、自分が「可愛い!」とか「カッコいい!」とか思う商品をつくったとしても、結局売れ残ってしまったら意味がないと言いますか。だからいかに顧客が満足する商品を考えて作れるかも大切です。ただ、ここもスポーツ業界は難しくてですね。まぁ、だからこそ楽しいんですけれど(笑)。
__スポーツ業界のMDで難しい、というのはどういう意味合いですか?
大木:スポーツ業界でいうと、お客様は「クラブやチームが好きだから」という気持ちが前提であるので、仮に商品が良いモノでなかったとしても購入してくださるケースが多いんです。これって、世の中の小売業では絶対に発生しないこと。それを間違えていけないからこそ難しい。売れたけどお客様は果たして本当に満足しているのかって。
それに、トレンドの捉え方も難しいんです。ファッション業界で言えば、メンズ・レディースのどっちかで1/2になり、メインターゲットは10代~40代のどこかで1/4になり、テイストで……と、マーケットに対するターゲットが明確にあるんです。一方スポーツ業界は、ファンの方って無限です。どんな人にどうなってほしいか想像力を働かせる必要があって。だから20代前半の女の子が欲しいモノはわかるけど、50代男性の欲しいモノがわからないではいけない。メガヒット商品を生み出せたとしても、会場を見たら若い人だけが着用していて、40・50代の方が着用していなかったら、その人たちの満足とは言えないわけです。
__たとえば、僕は帽子が好きなんですけれど、それこそローキャップでいくかベタな6面のキャップでいくか、みたいなところを決めることから大切っていうことですか?
大木:仰る通りです。もちろん、どのアイテムを選択しても正解なんですよ。ただ、このトレンドは誰のトレンドなのかっていうことを意識して商品を作っているかがとても大切なんです。だから敢えて「これは20代の人に買ってほしい」と狙って商品展開することも時には必要だと思います。最終的には、たくさんの人に理解していただて満足していただく商品を創れるか。
これってとっても難しいんですけれど、最後リリースして手に取っていただいた後、どんな結果になるか、どんな姿になるかを創造しながら商品選定、デザイン確定、生産から価格設定に至るまで行うのが、スポーツ業界におけるMD。顧客目線で居ることが最重要で、ココが一番難しいと言っても過言ではないかもしれません。
__その感覚って、どうやって養うのが良いんですか?今はわからないことって、経験でしか養えないのかな……とも思ってしまい。
大木:最短ルートは現場だと思います。会場に足を運ぶことが最も大きな答えで、答えはいつだって現場にあると思っています。会場に来てくれる人を見ていると、本当にお客様が教えてくれるんですよ。たとえば20代の女性は、キャップとタオルのコンビネーションで買っている人が多いなとか。40代の方はユニフォームを着用されている方が多いなとか。
そういった会場のお客様が購入された商品を見ているだけで「そうか、こういう使い方をしたいのか」って教えてくれるんです。だからこそ、見た物を次に生かすための、想像力を働かせる材料になるのが現場。人生経験が多いとか経験値が足りないとかっていうことよりも、とにかく現場に行くことが、顧客目線を養い、MDとして成長するための最短ルートだと思いますね。
__スポーツ業界って基本的に無形商材が多い中で、MDは唯一有形商材を扱える部署だと思っているのですが、その点、結果的に得られるやりがいについても、別職種とは大きく違うのではないですか?
大木:スポーツという冠を除いたとしても、やはりモノづくりはすごく価値があると思っていて。顧客が望むものをしっかり形にして、お客様の目の前に出すことで喜んで購入いただける特別な仕事だと私は思っています。そしてもう一点。形にするという側面があるので、お客様の創造を超える何かが創れたときに、お客様が普段感じられる以上の感動を届けられるというのも、モノづくりの仕事では特別だと思っています。
これが感動や熱狂を生み出すスポーツの世界で表現することができると、さらに特別なものになると私は思っていて。お金をお支払い頂いているんですけれど「こういうの欲しかったありがとう!」「これ好きです!」って言ってくださるお客様がいる仕事って、世の中に何個あるのかなって考えると、私は想像ができない。この仕事って本当に特別で価値があるなって強く思いますね。
__ここからは、これからMDとして働きたい!と考える方に向けてのメッセージもいただきたい。さきほどやりがいの部分もアツく語っていただきましたが、まずMDとして入社したら、何を頑張るのが正攻法なんでしょうか?
大木:前提としてお伝えした通り、スポーツ業界におけるMD自体が、他の職種に比べると常に特殊であり、特殊な職種でもあるに関わらず、職種内で発生するそれぞれの業務内容がさらに特殊ということもあって、アジャストするのは本当に難しいと思います。ですので、まずは自身が与えられた領域の仕事を楽しみ、結果を出せるように努力することがファーストステップ。スポーツ業界ではMDの役割の一部をアウトソーシングするのが基本でもあるので、最初は任せられた領域で仕事を全うし、最終的に全領域をこなせるように視野広く色んな人の仕事も学びながら。それができてくると、スポーツ以外の業界でもきっと市場価値の高い人間になれるでしょうから、まずは目の前のことをコツコツと、ですね。
もう一つ突っ込んだ話ですけれど、僕がアパレル企業にいたときは、目の前に布をパッと出されて触った瞬間に「これは何番手の糸でこの織り方をして、どこで造っているから、1mでいくらくらいだよね」っていう一連の流れを瞬時に判断できる人間じゃないとファッション業界では生き残れない。MDはブランドの責任者ですから、パッと触って「どこどこのアレでしょ」って、そういう会話が生まれるんですよ。
__僕が知らないからですけど、その事実は笑ってしまうくらいのレベルの高さですね(笑)。もちろんそのスキルを持ち合わせていたら素晴らしいですが、未経験でMDを始める方に最初から求められることなんでしょうか?
大木:そんなことはありません!むしろここまでの専門性を果たしてスポーツの世界で求められるかというと、今のスポーツのマーケットレベルだとまだ求められない。ただ突き詰めていったときに、消費者のことを考えるのであれば絶対に理解しておいたほうが良い部分でもあります。1m600円の布を、1m1,000円で購入してしまって商品の価格が上がってしまい、消費者に対して負担をかけることが一番あってはならないので。
だからこそ、一般的なMDと業界であまりに役割が違うことと、専門性が高いこともあって、闇雲に頑張るのは一番危険な状態とも言えるんです。先ほどもお伝えした通り、力の入れどころをしっかり理解して、徐々にスキルUPしていくことが重要です。
__参考までに、大木さんはどのようにスキルを身に付けていったんでしょう?もちろん沢山現場を見た、ということやファッションデザイナーとして結果を出し続けてきた、というお話もありましたが。
大木:僕も最初から全部できたわけじゃないんです。最初はファッションデザイナーとしてキャリアをスタートさせましたし、当然、布を触った瞬間に1mいくらかなんて、判断は到底できませんでした。だからこそ、僕の場合は長い下積み期間を経てデザイナーとして頑張り続けたことで、どんどん会社から領域を受け渡していただけて、先輩に教えていただきながらチャレンジし続けたからこそ、今があると思っています。
もっと言うと「MD」を専門として学べる学校も僕が知る限りはないんですよね。ですから「未経験の方からのチャレンジも大歓迎!」という募集が多い職種です。もちろん経験によってはいくつかの領域をカバーできる方はいらっしゃると思いますが、MDの全てを理解できるようになるためには、会社の中で成長していかないといけない。だからこそ、当社の場合も採用する際はスキルはもちろんのこと「お客様が満足するために仕事ができるか」っていうところを一番の軸として持っているかどうかを見て選考はしています。
__大木さんは非常に顧客目線で居ることを大切にされているようにお話を伺っていて思うのですが、改めてMDとして働く上で大切なことについても教えてください。
大木:たとえばAとBの商品があったときに、個人としては絶対Aだけど、でもお客様がBを求めているのであれば、自分がどんなにAが良いと思ったとしてもBが正解になるわけです。それを「Bはめちゃめちゃ良い商品ですよね!」って言えないといけない。
自分が「こんな商品を生み出したい!」と言って作ったとしても売れ残っちゃったら意味がないんですよ。誰にも愛されない商品を生み出すことに何の意味があるのかってう話になってしまうんです。だからこそ、最終的にはお客様のことを好きになってもらって、お客様が好きなものを作れて、お客様が好きだって思う商品を、自分が好きだって思えたら、めちゃめちゃ良いモノができるんですよ。自分が働くチームを愛してくださるお客様って、本当に貴重な存在ですから。
__ちなみに大木さんは昨年独立されてMDの会社を作られましたね。今までのお話からすると、たとえば大木さんにデザイン発注して売上が昨対比200%になった!等々が最高の着地かと思うのですが、御社の立ち位置についてもお聞かせください。
大木:もちろん昨対比200%になった!みたいなのは最高ですけれど、簡単に数字が上がるならみんなできるので、それをやるのはとても難しいです(笑)。ただし、スポーツ業界における「MD」という職種はやることが多岐にわたりますし、それぞれの領域で専門性が求められますから、私達としては不足している領域をサポートすることで、確実にビルドアップしていくことが役割だと持っています。
100を1000にすることは難しいですが、多くのスポーツチームは100を目指したいけど今50といった状況が多いものですから、私達はその50をサポートしていく。だから確実にMDのクオリティを上げる事が出来ます。
__ほぼほぼオーダーメイドのような形で、求められていることをサポートされているということですか!
大木:資本があって組織として大きくなっているクラブには、大きいクラブなりの悩みもありますし、逆に人手が足りてない中で資金投下ができずにあがいてるクラブさんもいたりします。必要とされることはクラブによってさまざまですから、私達としては領域ごとに切り分けながら手助けをさせていただいている状況ですね。
ですから、私達はチームやクラブ、クライアントが進みたい方向に対して、しっかりとその足りないところを補うことで100にしていきたい。そこまで成熟していったときに、クラブとして100を1000にするような組織化であったりステップを歩まれればいいなと思っています。あくまでそこに到達するまでのお手伝いを、私達はさせていただいているんですよ。
__大きな話になってしまうかもしれませんが、大木さんの中でMDという仕事を通じて実現したいことがございましたらぜひ教えてください。
大木:最終的にはスポーツの楽しみ方を、グッズを通して増やしたいと考えています。今は「観戦」か「プレイ」の2通りの楽しみ方がメインだと思うんですけど「応援」をグッズを通した形でビジネス、仕事にしていきたいなと思っています。
たとえば、日本でもトップ中のトップのアスリートって、血のにじむような努力をされてきているわけじゃないですか。だからこそ、彼らの手元に入る収入だったり価値を上げるために、グッズを通してできるような仕組みや支援を会社としてやっていきたいんですよね。そうなればきっと、もっと多くのアスリートや、アスリートを応援している人たちがハッピーになるんじゃないかなと思っていて。これは実現していきたいと強く考えています。
__「応援」を仕事に、という着眼点は面白いし、僕もそれはとても賛同します!最後になりますが、大木さんご自身の目標についても、聞かせてください!
大木:今の話は定性的なものですけども、定量的なところですと、やっぱり最終的には自分のバスケットボールブランドを創りたいんですよ。バスケットコートとかも造って、もっとバスケ好きが集まれるコミュニティを生み出して、それを雇用に換えて「好きなバスケットボールが仕事になる」って。そう言ってもらえる会社にしていきたい。
関わり方もさまざまで良いと思うんです。モノづくりをやりたい子もいれば、たとえばカフェやりたいって子もいるでしょう。いろんな方と一緒に組みながら、会社をバスケットを通じて大きくしていきたい。今はバスケットだけにフォーカスしてビジネスを展開していってますので、この無限の可能性を信じて、たくさんのチャレンジをしていきたいです!
【PROFILE】
(株)GOAT|代表:大木 孝雅
千葉県出身。10年余りファッション業界に身を置き、ファッションデザイナーとして様々なブランドを手掛け立ち上げてきた。実績が評価されMD(責任者)としてブランドと事業を牽引。その後「スポーツに関わりたい」という昔からの想いを叶えるべく、2017年B.LEAGUE『千葉ジェッツ』に入社。入社当初からMD担当として従事し、2019年にはMDに加えチケット・ファンクラブ・飲食部門の部長に就任。「これまでの経験を活かし、もっと広くスポーツ業界に貢献したい」と考え、2021年(株)GOATを設立。代表として、各スポーツの現場だけではなくスポーツ専門学校から依頼を受け講演なども行い、スポーツの価値向上にむけまい進中。
最近ベンガルネコを飼い始めた。「全く言うことを聞かない暴れん坊だけど、この自由な姿がめちゃめちゃ良い」と溺愛。『ルーシィ』という名前だそうで「妻が直感でつけたこともあるんですけど、光の単位の『ルクス』という意味もあって、僕らが光に導かれるようになったらいいなと思うし、苗字の「大木」と合わせたときの画数も良いので即決でした」と、クリエイターならではのこだわりも見せてくれた。
大木さんが代表を務める(株)GOATのHPはコチラ!
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