旅行会社として主に国内外の山歩きを専門に企画・運営をし、40年あまりの実績を誇るトラベルギャラリー。「山と語らい、山を旅する。」という思いを理念に、多くの人々にその自然の素晴らしさを伝える「山旅」を案内してきました。
「画面上のバーチャルの世界ではなく、リアルな体験の中で感動を追求できるツアーを作りたい。」
このように語るのは、東京営業所でツアーの企画やガイドを担当されている白砂賢一さん。トラベルギャラリーだからこそ叶えられる山旅や、それを企画し案内するガイドのやりがいや魅力について、ご自身の経験とともにお話をお伺いしました。
(取材・執筆:斎藤 僚子、編集:伊藤 知裕、中田 初葵)
白砂さんは、父方のご実家が神奈川県屈指の山岳地帯にある大山で旅館を経営されており、子どもの頃は多くの時間をそこで過ごされたそうです。豊かな自然が身近にあったことや、子どもの頃から多くの登山客を見てきたことは、登山に関する仕事に就いたご自身の現在につながっていると語ります。
「私は神奈川県横浜市の出身なのですが、もともと父親の実家が伊勢原市にある大山という山の麓で旅館を経営しておりまして、子どもの頃は夏休みなどによくその祖父母の家に行っていました。その頃は、自分も親も山に登るようなタイプではなかったのですが、それでも周辺をよく歩いたりして“山”というものは常に身近に感じていました。その環境が登山を始める直接のきっかけになったというわけではないのですが、今の仕事に就いた潜在的な理由のひとつになっているかなと思います。」
中学、高校時代とバレーボール部に所属し、この頃はまだアウトドアにはそれほど関心がなかったという白砂さん。山や自然に興味を持ったのは大学の頃で、当時好きだった冒険家や自然写真家の本に大きな影響を受けたといいます。
「私の場合は、ワンダーフォーゲル部や山岳部だった経験もないですし、中学校、高校はバレーボール部に所属していました。アウトドアや自然に興味を持ったのは大学の頃ですね。植村直己さんや星野道夫さんの本を読んだのがきっかけでした。それから友人に誘われて富士山に登ったのですが、それが初めて本格的に登った山ですね。登っていた時は辛かったですが、とても景色が良くてものすごい達成感もありましたね。」
大学卒業後、白砂さんは、なんと東北地方から九州まで歩き通すという日本縦断の旅に出ます。冒険心の向くままに日本を歩いてみようと思ったという白砂さんですが、そのときの出会いや経験が現在の仕事に就く大きなきっかけとなったそうです。
「大学を卒業したあとは一旦就職せず、とりあえず日本を歩いてみようかな、と思ったんですね。これも、北海道から九州まで徒歩で縦断したという植村直己さんの本を読んだことがきっかけです。ザックを背負い九州を目指してずっと歩いていく道中では、人からものをいただくことも。夜も歩きましたし、すぐ脇をトラックが通っていくような歩道のない道なんかも歩きました。
それでやっと福岡の小倉駅に着いたときに、たまたま同じような格好をした人がいたので声をかけたんです。すると、登山のツアーをやっているという人で、『博多に住んでいるから着いたら遊びにおいで』と言ってくれて。一週間ほどお世話になりました。そんな出会いがあった数年後、縁があって東京で再会し『よかったらうちでアルバイトしないか』と誘ってもらったのが今の仕事なんです。ガイドの仕事に惹かれたのは、旅が好きでしたし、色々な景色が見られるのではないかなと思ったからですかね。」
現在ツアーの企画や手配、そのガイドを業務とし、これまでにさまざまな山の旅を案内してきた白砂さん。辺境や秘境の地を訪れることも多い山の旅。白砂さんは業務をする上で大事にしていることは「山や自然に対して、そしてお客様に対して誠実であること」だと話します。
「前職のころからよく山に行くようになり、前の会社に入社をして2年後くらいにガイドの資格をとりました。私たちの会社は、大体の場合ガイドの資格を持ったものがツアーを企画し、手配、当日の案内まで担当しています。そのため、山に精通したものがつくったツアープログラムに参加できるという点がお客様に安心していただけているのかなと思っています。
よくお客様から『この山には私でも登れますか?』『どの山が私に合っていますか?』などのお問い合わせをいただきます。お客様の体力度や技術度をうかがって、場合によってはお断りしたり、他の山をおすすめしたりしています。将来的に登りたい山へアプローチするために『まずはこの山からどうですか?』とアドバイスさせていただくこともありますね。また、ツアー当日もそうですが、天候や様々な山のコンディションによっては中止や中断の決断をすることもあります。まずは安全にお客様を案内するということが第一ですからね。」
個人での登山は、自らの判断が命取りになることがあります。道迷いや無理な行程でヒヤリとした経験がある人も少なくないかと思います。そういった中でもガイドがいることは、登山者には安心して山に登れる大きなメリットになっていると感じています。
「やっぱり自然が相手ですから、天気に左右されたり危険な箇所や動物に出会ったりすることもあるかもしれません。そういったときも、ガイドがいることによってある程度安全が担保された中で楽しむことができるのではないかと思いますね。お客様の不安な点をカバーしていくことも登山ガイドの大事な仕事だと思っています。感動を共有しまた行きたくなる山の旅を提供したいですね。」
「ツアーに参加されるみなさんの登山に対する思いはそれぞれだが、山頂に辿り着いたときはその思いが一体となって笑顔に現れる」と話す白砂さん。登山の魅力が伝わったなと実感できるその瞬間がご自身も一番嬉しいと話します。喜んでいる顔を直接見ることができたり、思い出に残るような経験を共有できたりすることが大きなやりがいになっているそうです。
「登山のツアーは、目標(頂上)に向かっていく過程も楽しむことができます。そこが目的地に直接連れて行ってもらう観光のツアーとはちょっと違うところかなと思います。お客様同士で、登山中にいつの間にか仲良くなって楽しそうに登っている姿を見るのも嬉しいですね。
以前、沖縄からいらした80代のご夫婦を富士山にご案内したことがあったんですね。お二人は昔から富士山に登るのが夢だったとおっしゃっていたんです。正直、ちょっと厳しいかなとも思ったのですが、ツアー当日は他のお客様たちと励まし合いながら、頑張って登り切ったんですね。参加者全員でお祝いしたのですが、ご本人は頂上に立ったときに涙を流されていて。
ツアーに参加した人は20人ほどだったと思うのですが、みなさん一体となって喜んでいる姿はすごく心に残っていますね。個人での達成感もあると思うのですが、登ってくるまでの苦しい思いもみなさんわかっていますし、その分大きな感動を共有できるというのがツアーの良いところなのではないかと思います。
また、私たちは山の中に入ったら一つの『パーティー(仲間)』です。万が一怪我や病気などの緊急事態があった際も救急車がすぐに来てくれるような環境ではないので、家族のように助け合わなくてはいけません。ガイドはもちろんですが、みんなでフォローしながら進んでいくという面もツアーを利用する良いところの一つです。」
安全と安心を第一に、山旅を届けてきたトラベルギャラリー。バラエティに富んだツアー内容の企画は、これまでに受けた報告やツアー参加者の意見などを参考にみなさんで決められているそうです。白砂さんは、会社の特徴として「こんなツアーを作りたい」という自分の思いが通りやすい環境だといいます。
「添乗員から『もっとこうした方がいい』『こんな面白そうなところを見つけたので、次回に組み込んでみてはどうか』などの報告を受けてツアーを企画しています。特にうちは小さな会社なので、そういった提案がすぐに反映されることが多いですね。
大手の旅行会社さんは、企画する人、手配する人、実際に添乗する人、のように分担されていると思うのですが、うちの会社ではそのすべてを経験できます。自分が行きたいと思うツアーを企画して自分で添乗することもできる、という点もこの会社のメリットだと思います。また、拠点も複数構えていますので、現地スタッフから得られる最新情報を活かした企画も作ることができます。」
「山と語らい、山を旅する。」という設立当初からあるというこの理念には、何か自然と一体となって自然と対峙するような感覚が現れているようにも思います。
「日本古来の山に対する思想で『山は死の世界』という考え方があるんですね。つまり頂上まで行って戻ってきたら、生まれ変わっているという考え方です。これは大袈裟な考え方かもしれませんが、実際に自然に触れ、山から下りてくると気分もリフレッシュしていると思います。いい景色を見るだけで気分も上がりますし、登山はウォーキングよりも少し負荷のかかる有酸素運動で、長く続けられるスポーツです。日本には山がたくさんありますから、飽きることもないと思いますしね。もっともっとそういう自然や登山のいいところを伝えていきたいです。」
現在、トラベルギャラリーのツアー参加者の多くはリピーターが多いそうで、これは質の高い山旅を提供し続けている結果だといいます。白砂さんは今後さらに、初心者向けのエントリー企画を作って、新規の顧客の開拓もしていきたいと考えているそうです。
「今後は個人的には、初心者の方が徐々にステップアップできて、安全に登山を楽しんでいただけるようなツアーをどんどん企画していきたいです。具体的には、道具の使い方や持ち物、登り方など、基本のところをしっかりと伝えるような企画を作っていきたいですね。
多くの方に安全に登れるような山の技術を、山旅専門の旅行会社という立場から啓蒙していけたらなと思っています。」
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【PROFILE】
白砂 賢一(しらすな けんいち)
株式会社トラベルギャラリー東京営業所での採用担当。出身である横浜や旭川、つくば、石垣島が好きだそう。趣味は多彩で登山やカヌー、家庭菜園など。