福祉のイメージを取っ払う挑戦!運動量もやりがいも圧倒的に

∞Lucia sports studio(合同会社Vita) 代表・川端 純子

福祉のイメージを取っ払う挑戦!運動量もやりがいも圧倒的に

∞Lucia sports studio(合同会社Vita) 代表・川端 純子

長男が発達障がいと診断されたことをきっかけに療育の世界に入り、約20年にわたり子どもたちと向き合ってきた川端純子さん。

2024年に地元・三重県松阪市で立ち上げた児童発達支援・放課後等デイサービスLucia(現・∞Lucia sports studio)では、福祉の枠にとらわれず、本格的な体操を取り入れた運動療育を実践しています。
子どもたちの「できた」を一緒に喜ぶ。

それは「支援する側・される側」という関係を超え、大人も子どももともに成長できる、Luciaならではの魅力です。
川端さんの歩みと、運動に懸ける想いに迫ります。

(取材・執筆:今泉 知穂 編集:小西 秀人、池田 翔太郎)

 同じ悩みを抱えるお母さんたちの「一筋の光になりたい」

――∞Lucia sports studioを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

児童発達支援や放課後等デイサービス(放デイ)に関わって約20年。きっかけは、長男が5歳の頃にADHD(注意欠如多動症)の可能性があると言われたことでした。
保育園の先生から指摘されて初めて気づいたのですが、興奮すると自制が利かないことがありました。
ただ、当時の私は息子の発達障がいを受け入れられず、地元には療育を受けられる場所もなくて。
どうすればいいのか分からず、将来への不安から自分を責めることもありました。

転機になったのは、子育て相談をされていた一人の方との出会いでした。
障がいという一面だけではない物事の捉え方や考え方を教えてもらい、長男は何かが欠けているのではなく、その分だけ私を成長させてくれる存在だと思えるようになったんです。
「あの子は、あなたを選んで生まれてきたんですよ」と言われたとき、張り詰めていたものが一気にほどけて、泣き崩れたことを覚えています。

――運命の出会いになったんですね。

発達障がいであろうがなかろうが、命においては平等。
一生懸命生きていることに変わりはなく、必ず成長するはず!できないと決めつけて心配するのは、子どもに対して「失礼」なんです。障がいがあろうと、なかろうと、それはそれでいい。
「人それぞれ、花が咲くときが違うだけ。必ず成長する」。
こうした気づきを、同じ悩みを抱えているお母さんたちにも伝え、その人たちの一筋の光になれたらと思うようになりました。

それから小学校の加配教員(※)を5年ほど務めた後、地元である三重県松阪市の放デイで働き、子どもたちに運動を教え始めました。

――なぜ運動だったのですか?

その方から、体を動かすことの大切さも教えてもらったんです。
心と体はつながっているから、一緒に運動をして、子どもと触れ合うことが大事だと。
そして何より、私自身スポーツが大好きで。若い頃はスイミングやスキーのインストラクターをしていて、バレーボールや陸上競技の経験もありました。
運動に特化した放デイではありませんでしたが、スクワットや体幹トレーニング、ダンス、ストレッチなど、自分ができることから始めてみたんです。

7年ほど勤めた後、主人の転勤で奈良県生駒市に引っ越し、そこで初めて「運動療育」に出合います。
跳び箱やマット、鉄棒などを使った支援を提供する放デイに勤め、研修を通して運動療育を理論的に学び、それまで独学でやってきたことが「マッチした」と思いましたね。
管理者やエリアマネージャーも経験し、多くの子どもたちの成長を間近で見てきた中で、脳の発達を促すには運動が欠かせないと確信しました。

約8年で松阪市に戻ることになり、それならば自分が学んできた運動療育をやってみようと、2024年に合同会社「Vita」を設立。「児童発達支援と放課後等デイサービスLucia(当時)」を始めました。

※=発達上の特性があり、集団生活で特別な配慮やサポートを必要とする子どものために、通常の職員数に加えて追加で配置される先生のこと。

「圧倒的な運動量」で子どもが変わる

――多くのお子さんを見てきて、脳の発達には運動が欠かせないと実感されたとのことですが、そもそも、なぜ運動が大切なのでしょうか。

全身を動かすと、体幹が鍛えられるだけではなくて、脳の司令塔ともいわれる前頭葉が刺激され、脳の働きが活性化します。
そうすると意欲が向上したり、やる気や集中力が高まったり、自制心が身についたりする。
いわゆる「非認知能力」が高まることが、運動療育の醍醐味です。
最近はスマートフォンの普及や気温の上昇などで、子どもたちが外で遊ぶ機会が減り、体力の低下が問題になっています。
その影響もあってか、動きがぎこちなくてよく転ぶ、ワーキングメモリー(一時的に記憶する力)が弱くてうまく言語化できない、といった子が増えていると感じます。

――そんな“今どきの子”の課題を意識された中で作成した、∞Lucia sports studioのレッスン内容を教えてください。

学校体育を中心に、跳び箱、マット、鉄棒、縄跳び、トランポリンなどに取り組んでいます。
ほかの運動療育施設と比べても、うちは体を動かす量が圧倒的に多いのが特徴です。全体で約90分、汗びっしょりになるまで体を動かします。

まずはアップや柔軟体操から始め、腹筋や背筋、足上げなどの体幹トレーニングを実施。
小学生以上の運動では、子どもたちを3~4人ずつレベル別の3グループに分け、広い支援室に設けた跳び箱やマット、鉄棒などのコーナーを15分ごとにローテーションします。待ち時間もトランポリンを跳んで、できるだけ止まる時間を作りません。

また、理学療法士が一人ひとりの体の状態をチェックし、足首の硬さや手首の可動域など、それぞれの課題に合わせた個別トレーニングも行っています。
各コーナーには必ず一人以上のスタッフがつき、それぞれから体の動かし方を学ぶ。
「運動の塾」のような場所だと思ってもらえるといいかもしれません。

――90分間とは、結構な運動量ですね!

そうなんです。以前勤めていた放デイでは運動量が足りないと感じていて、福祉を土台にしながら、そこに「スポーツ」の要素をしっかり取り入れたいという思いがありました。
うちでは「療育」という言葉を使わず、「レッスン」と呼んでいるのも、その思いがあるからです。
勉強ができるようになることは後から必ずついてくる。まずは体を動かすことが大切です。

――運動に加え、静的な動きが中心の機能トレーニングも取り入れていますね。

しっかり体を動かした後、休憩を挟み、残りの30分を機能トレーニングに充てています。
ビジョントレーニングやワーキングメモリーを鍛えるトレーニング、力加減や距離感を養うゲームなど、一人ひとりの課題に合わせて取り組みます。
体を動かして体の軸が整うと、その成長が手先の動きや滑舌などにも表れてくるんです。

「できた」を一緒に喜ぶための試行錯誤

――子どもの成長を支えているスタッフの皆さんについても教えてください。

体操指導チームが2人、機能トレーニングチームが理学療法士を含めて3人、管理者が1人で、私以外に6人のスタッフがいます。
年齢層は20代から50代まで幅広く、体操チーム以外は全員女性です。
レッスンプログラムは、大学まで体操選手として活躍してきた体操チームの2人が組み、指導の中心も彼らが担います。
ただ、全スタッフが跳び箱やマット、鉄棒の補助に入れるよう、研修も行っています。

うちのスタッフはとてもアクティブで、休み時間に風船バレーをしたり、休憩後も体を動かしたりしています。
アップももちろん子どもたちと一緒です。体を動かす楽しさを実感し、それを子どもたちに伝える。そんな指導をしてくれています。
何より、皆が底抜けに明るいですね。スポーツ経験者も多く、体育会系ならではのポジティブさがあって。
こうした雰囲気が、スタッフ同士のコミュニケーションを円滑にしてくれていると感じます。

――スタッフ同士の良い雰囲気が伝わってきます。皆さんは、この仕事のどこにやりがいを感じているのでしょうか?

やっぱり、子どもたちの成長を目の前で実感できることですね。
寝転んでばかりだった子が1カ月でキビキビ動けるようになったり、発語がなかった子に言葉が出てきたり、滑舌が良くなったり。
表情も豊かに、明るくなっていくのが目に見えて分かります。学校の体育でお手本にしてもらうことで、自信をつけていく子も多いです。

ここに来る子たちは、「やってみて」と言ってすぐできるわけではないんです。
基礎の基礎から、どう教えたら伝わるのかを考え、スタッフ一人ひとりの知識や経験を生かし、さまざまな方向からアプローチしていきます。
そうやって一度できるようになっても、次に来たらまたできなくなっていることもよくあります。
それでも諦めずに、何度も繰り返し、「できないから無理」と諦めている子に根気強く関わる。そうして「できた」を一緒に喜べる瞬間が、何よりうれしいですね。

――保護者の方とも、お子さまの成長を一緒に喜べるとか。

レッスンではお迎えをお願いしているので、その日の様子を直接お伝えしています。
面談のようにかしこまったものではなく、毎日のちょっとした会話の中で、ご家族と一緒にお子さまの成長を喜べることも、スタッフのやりがいにつながっています。
「先生たちがみんな熱心で、愛情を持って接してくれている」という声も多くいただきますね。

――子どもたちの「できた」を喜ぶまでに、スタッフの皆さんも試行錯誤を重ねているのですね。

そうですね。プログラムをレベル別に分けているとはいえ、それがバシッと当てはまる子はいません。
その子に合わせて、どうしたらできるようになるかを考えるため、指導者自身がいろいろな引き出しを持っておくことが大切です。
もちろん、困ったときはスタッフ同士で相談し、一緒に模索します。こうやって子どもと向き合う中で、自分自身も成長できるんです。

福祉というと、「支援する側・される側」というイメージが強いと思いますが、私はそれを取っ払いたい。
大人も子どもも一緒に成長できることが、この仕事のかけがえのない魅力だと思っています。

――福祉のイメージを取っ払う、ですか!

運動療育というと、どうしても福祉のイメージが強く、「障がいのある子どもと関わったことがないから難しそう」、「資格がないとできないのでは」と思われる方も多いんです。
ただ、うちでは福祉の専門的な部分は専門職のスタッフにある程度任せられますし、運動療育や脳の仕組みについても社内研修があります。何より、大人も子どもと一緒にしっかり体を動かすことを大切にしています。

その点、スポーツ経験者は、体の動かし方や体力づくりのノウハウがあります。
今のスタッフは器械体操が得意ですが、ボール運動などをプログラムに取り入れることもありますし、それぞれの得意な分野を生かして内容を組んでもらえればと思っています。

――それぞれの得意を生かせる環境なんですね。ここではどんなキャリアを描いていけるのでしょうか。

希望があれば、幼児体育検定の取得もサポートしていますし、管理職やマネジメント職として店舗の立ち上げに挑戦することもできます。
それにスポーツに限らず、自分がやってみたい分野があれば、ここで経験を積み、その先のキャリアにつなげてほしいと思っています。

実際、美容に興味があってまつげエクステに挑戦したいという機能トレーニングチームの女性スタッフには、学校に通って資格を取って「見学にいらっしゃるお母さんたちの待ち時間に施術するのもいいんじゃない」なんて話もしているんですよ。

地元・松阪を盛り上げたい

――面白いアイデアですね!では川端さんが子どもたちと接する上で、一番大切にしていることはなんですか?

子どもたちと、一人の人間として向き合うことです。
そこに障がい児か健常児かなんて、一切関係ありません。だからこそ、人としてダメなことは「ダメ」と伝えています。
「この子は障がいがあるから」、「言っても理解できないから」と遠慮することはなくて、その行動が良くないのであれば、理由を伝えたうえできちんと注意する。
そこにも、福祉という垣根はないと思っています。

「信じたものが形になって現れる」という言葉も大切にしています。
「できない」と思ったら、本当にそうなってしまうから、その言葉は使いません。
長男はコミュニケーション面でつまずくこともあったものの、大学まで進みました。
それは、ずっと続けてきた器械体操が精神面の安定につながったことはもちろん、どんなときも長男を信じて続けてきたからだと思っています。

――Luciaで描きたい今後の展望についても教えてください。

まずは、福祉の持つ「支援する側・される側」というイメージから脱したいです。
福祉の世界では「安心・安全」という言葉を使うことが多いですが、Luciaでは、そうした安心を土台に、スポーツが持つワクワク感を掛け合わせ、子どもたちの「生きる力」を育んでいきます。
スポーツは「心技体」と言われるように、体だけでなく、心も大きく成長させてくれるものです。

うちでは年に1回、体操発表会を開き、大勢の観客を前に子どもたちが頑張ってきた成果を一人で披露します。
静まり返った会場で、跳び箱や鉄棒、マットの技に挑み、最後は礼で終わる。人前に立つ緊張感や、挑戦する楽しさを経験することで、子どもたちの心は大きく成長するんです。
∞Lucia sports studioはこれからも、福祉の枠にとどまらず、そこにスポーツを掛け合わせることで、子どもたちの可能性をさらに広げていきます。
まずは生まれ育った地元・三重県を盛り上げ、松阪市にとって勢いのある施設を目指していきたいですね。

【PROFILE】
 川端 純子(
かわばた じゅんこ)
生まれも育ちも三重県松阪市。地元への愛情は人一倍で、伊勢神宮をはじめとする神社仏閣巡りや、御朱印集めが趣味。
古事記にも関心が深く、月に数回、子どもたちに紙芝居で神話を伝えている。
事業所名の「Vita」はラテン語で「命」、「Lucia」は「輝く」の意味。
∞マークを冠した「∞Lucia sports studio」には、「命が無限に輝く」との思いを込めた。

第1位

第2位

第3位

第4位

第5位

設立年月 2024年07月
代表者 川端純子
従業員数
業務内容

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