どんなスポーツ選手にも現役を引退する日が来る。これはBリーグの選手に限ったことではない。プロ野球や J リーグの選手も、あらゆるプロスポーツ選手が迎える「人生最大の転換点」の一つだ。
この記事では、Bリーグの選手が引退後にどんな「セカンドキャリア」を選んでいるのか、二つの例を取り上げて紹介していきたい。
プロスポーツ選手になるための努力は計り知れない。この彼らの貴重な「汗と涙の結晶」が、異なるステージでどのように形を変えていくのか、とても興味深いと思わないだろうか。
今Bリーグに入るべく努力している子供たちや、現在現役生活の真っただ中にいる選手にとって、この記事が一度「セカンドキャリア」について考えるきっかけになってくれれば嬉しい。
紹介するのは、元Bリーガーの伊藤俊亮氏、伊藤良太氏の二人だ。
千葉ジェッツで「イートン」という愛称で親しまれた伊藤俊亮氏。身長 204 センチの貴重な和製センターだった。2002年、東芝でキャリアをスタートさせ、bjリーグとJBLの 2リーグ時代から日本を代表する選手として長きにわたって活躍した。39 歳で引退。
父親が起業していることもあり、彼は会社を経営することに元々意欲があったそうだ。セカンドキャリアを考えた時、「フロントオフィスでチーム運営に関わりたい」という願いを抱いていた、と引退後に語っている。
願い通り、引退後すぐに「千葉ジェッツのフロントスタッフ職」オファーを受けることになる伊藤氏は、事業部長として法人営業、広報、マーチャンダイジング、デザインを統括することになった。
これだけでもすごいキャリアチェンジだが、彼の旅はまだここで終わらない。わずか一年後に退社し、不動産賃貸業ビジネスなどを手掛けた後、2021年4月にフィットネスクラブ「BLUE GATE」の経営を行っている「株式会社ビスタ」の代表取締役に就任。
バスケットボールへの熱も失ってはいない。学校への出張授業、Bリーグの新人研修の講師、イベント出演も精力的に行っている。Bリーグ公式戦の解説もしているので、最近Bリーグのファンになった人でも、名前や顔を知っている人は多いだろう。
現役時代から、コートの上だけでなくツイッターなどSNS上でのポジショニングにも優れていた伊藤氏。彼はトーク力も高いので、このように営業職やメディアで活躍している姿は、ファンなら容易く想像できたはずだ。
しかし、同時に慣れない環境での苦労もあったはず。それを乗り越えられたのは、巨大センターとして向かってくる敵の前に立ちはだかり続けた強靭な精神力があったからに他ならない。
「ヘラルボニー」という企業を知っているだろうか。知的障害のある作家と契約を結び、アートの製作や著作権管理などを行っている「福祉実験ユニット」だ。
経産省主催の「日本スタートアップ大賞 2022」では審査委員会特別賞を受賞し、次世代のロールモデルになる企業として注目されている。
岐阜スゥープス、岩手ビッグブルズで活躍した元Bリーガーの伊藤良太氏は、現在この「ヘラルボニー」で人事部門のシニアマネージャーをしている。なんとも大胆なキャリアチェンジだ。
彼は、「誰でも挑戦できる社会」「あらゆる個性が尊重される社会」を目指すヘラルボニーの理念に魅了され、バスケットボール選手として引退を決断し、新たな挑戦を始めたそうだ。
彼のツイートを見ていると、「異彩」という言葉が頻繁に出現する。知的障害という個性が生み出す無数の「可能性」という意味合いで、ヘラルボニーで使われている言葉だ。
伊藤氏自身、バスケットボール畑から新しい分野に飛び込んできた「異彩」ともいえる。ヘラルボニーは彼という「異彩」を採用し、伊藤氏はその「異彩」をもってヘラルボニーに、社会に貢献しているのだ。
ここでも、彼がプロバスケットボールチームのキャプテンとしてチームをまとめ、仲間を鼓舞し、ときには叱り、強いメンタルで試合に臨んできたというバックグラウンドが、彼のセカンドキャリアへの強力な原動力になったはずだ。
両者の根本にあるのは「自身の経験の還元、貢献」だ。形は違えど、プロ選手として真摯にバスケットボールに向き合ってきた「時間と努力」を他の分野で生かしている。当たり前のように聞こえるが、これは決して簡単なことではない。
なぜなら、生業を変えるということは、相当の覚悟がいる。プロスポーツ選手の場合は尚更だ。例えば、どれだけリバウンドを取れても営業成績が取れなければ意味がない。残念ながら、3ポイントシュートを決める能力は人事部では必要ない。
しかし、プロスポーツ選手には技術よりももっと偉大な「経験」がある。ひたむきな努力とあきらめない気持ち、自己と向き合い、鍛錬を続ける精神力、試合に勝つための強靭なメンタルと知恵。これは、まぎれもなく「彼らにしかない」ストロングポイントだ。
彼らの強さを必要としている場所は、社会の中でたくさんある。そういった場所を見つけ、大いに貢献してくれることを切に願う。バスケットボールというスポーツだからこそ伝えられることもきっとあるはずだ。
プロバスケットボール選手のセカンドキャリアが、プロ選手としての生活と同じくらい充実していて、輝き続ける場所であってほしいと思う。
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